水晶の形をした、様々な場所の現状を中継する魔道具。自分が記憶している場所や予め決定しておいた地点なら、どんな時でも自由に映し出す事が出来る。それは個人情報保護の観点から法律で厳重に管理されている。そもそもの話、高度な技術で作られているため、庶民では到底手の届かない程の高値で取引されている。
そしてそれは鬼ヶ帝国であっても例外では無い。帝国の中でそれを扱えるのは、帝国の階層社会の頂点に立つ者か帝国の政治の中で重要な役割を担う者かに限られる。
そして哲郎の目の前に、その魔法具を手に持った男が立っている。その男は帝国を狙う敵の《転生者》廠桓。彼はその魔法具を使って、哲郎にあるものを見せようとしていた。
「とは言っても、このままじゃ流石に見えやしねぇか。 ほらよ!」
『!?』
廠桓は哲郎達に見せ付けるように指を鳴らした。その大仰な動作の直後、彼の頭上に奇妙な物体が現れる。それは黄色く濁ってはいるが大きなガラスのレンズのように見えた。
(黄色いレンズ……………!? 一体どこから………!?)
「━━━━血漿、ですか。」
「!? けっしょう!?」
血液の中、その大半は血漿という黄色くも透明な液体で構成されている。廠桓は血を操るその能力を駆使して血液の中から血漿だけを抽出し、レンズを作り上げたのだ。
(確か、血が赤いのは血小板っていうものがあるからだって聞いた事がある。それが無くなれば血はあんなに薄く透明になるのか。かさぶたで防具を作るだけじゃなくて、あんな事まで……………!!)
「さぁさぁ皆さんお立合い!! 廠桓独占ドキュメンタリーの上演だ!!!」
『!!?』
廠桓の言葉と共に、水晶から光が発せられた。その光は血漿のレンズを通して拡大され、上空に映像となって映される。
そこに映っていたのは大量の男達だった。皆一様に全身に青筋を浮かべ、完全に正気を失っていた。一目で彼等もまた廠桓に操られているのだと分かった。
その男達の中でも一際目を引いたのは先頭に居る三人の男達だった。
禿げ上がった頭と低い鼻の太った男、白い髭を生やした痩躯の男、青い刀を背に携えた高身長の男だった。
(あの人達は、まさか……………!!!)
「!! 《
「!!!」
哲郎の懸念を証明したのは凰蓮の言葉だった。彼の口から発せられたのは鳳巌の下に仕え、その力を盾にしている犯罪者の中でも特に高い懸賞金を懸けられている犯罪者、その残りの者達の名前だった。
哲郎が昨日、根城の中で遭遇し今は行方不明の珂豚を除いては、これで残る六人の所在が全て明らかになった事になる。鳳巌の配下全員を能力で傀儡に変えていた、その事実に哲郎は驚愕した。
「何れも牛檑と同様に一万艮を超える懸賞金を懸けられている凶悪犯です。
ですがね廠桓さん!! いくらそんな事を繰り返しても意味はありませんよ!! 譬え貴方が彼等を操った所で彼等の力量など高が知れています!!! 我々が総力を挙げれば彼等を捕らえる事など造作も有りませんよ!!!」
「とんだはったりだな。お前等の実力は俺が、この帝国の政治に深く関わった俺が一番良く分かってる!!! それに総力っつってもその
お前らは今すぐ
『!!?』
廠桓の言葉が何を意味しているのか、二人には分からなかった。確かに鳳巌の根城に奇襲を掛ける、その作戦の構成員は陸華仙の総力の数分の一であり、残りは本部で待機している。どうして今すぐ映像に映し出されている彼等の元へ向かわなければならないのか、理解出来なかった。
「特に《CHASER》!! お前は分かっててもおかしくねぇってのによ!!!
「………………………!!?」
「はぁ。どうやら本当に分かってねぇみたいだな。じゃあアングルを変えてやるよ。
ほらよっ!!」
『!!!!?』
廠桓が指を鳴らすと、水晶に映し出された光景が
映し出されたそれは、荘厳な建造物だった。外装は金色で覆い尽くされ、遠くから映し出された状態でもその頂部が確認出来ない程の高度を誇っている。哲郎はその建物に見覚えがあった。それだけでは無く、哲郎はその建物に実際に訪問した事があった。
そして凰蓮の表情も、哲郎と同様に驚愕の一色に染まっていた。廠桓が犯罪者達を操って実行しようとしている事を理解したからだ。
哲郎と凰蓮の口から、映し出された建物の名前が漏れ出る。
『逢魔ヶ宮殿……………………!!!!!』
「その通りさ!!! 今日まで散々陰で焦らされたからなァ!!! ここからは飛ばさせて貰うぜ!!!」
顔を真っ青に染めている哲郎と凰蓮に向けて、廠桓は勝ち誇りながら声高に叫んだ。