異世界に適応する少年   作:Yuukiaway

395 / 463
#395 Blood Like a Volcano

その日、鬼ヶ帝国を未曾有の災害が襲った。それは本来、とある男の手によって引き起こされたものだが、それを知る者は帝国の中でも非常に限られる。

しかし、その現象の一部始終を目撃していた者が居た。その人物は行商人の男。名は《行檸(あんねい)》。彼は自分の商品を売り終えて拠点に戻ろうとしていた際に、完全な偶然でその災害に遭遇した。

 

幸いにも、その行商人に怪我は無かった。しかしその現場に立ち会った事実は彼の心に決して好ましくない形で染み付いて生涯離れる事は無かった。

以下は行檸が帝国の新聞記者達に語った証言の内容である。

 

 

「━━━━はい。いつものように野菜とか乾物とかを売り終えて宿に帰る道すがらでした。あの場所は商売人の間では有名な近道に当たる場所なんです。私みたいな職業の人間は移動時間すら惜しく、一秒でも長く商品を仕込む事が求められますからね。

話が逸れましたね。あの事ですよね。勿論記憶してますよ。忘れろという方が無理ですよ。

 

最初はあれでした。こう、地面の奥底から響くような、何かが渾身の力で地面を叩くような音でした。最初は空耳かと思いましたよ。でもそれが気のせいじゃないと直ぐ後に気付きました。あれは一言で言えば、そう、地鳴りです。ゴゴゴゴって、地面を揺らすような音がどんどん大きくなってきたんですよ。

 

その時どうしたかですって? 勿論距離を取りましたよ。ただならぬ何かが起こると思いましたからね。それが正しかったと直ぐ後に思い知らされましたよ。もしそうしていなかったら、今頃こうして話す事も出来なかったかも知れません。

 

ここからが本題ですが、あれはまるで噴火でした。てっきり地面から溶岩が噴き出したんだと錯覚しましたよ。ですがそれが間違いだったと直ぐに気づきました。だってちっとも熱くないんですよ。そんな至近距離で溶岩が噴き出したりしたら無事では済みませんからね。

じゃああれは何だと考えるかですって? それは分かりませんよ。私に言えるのは何か赤い液体が大量に地面から吹き出したという事だけです。その直ぐ後に踵を返して逃げてしまいましたから。あんなものを目の当たりにしたら、百人が百人逃げ出しますよ。」

 

 

 

***

 

 

 

赤い液体の噴出を目撃した直後、唯一の目撃者である行檸は逃げ出した。故に彼は知る由も無い。その激流がとある人間の手によって引き起こされたものである事を。その激流の中に三人もの人間が居る事を。その内の一人が帝国の誰もが知る人間である事を。

 

その激流の正体は血液。人間の致死量を何倍にしても届かないような膨大な量の血液がその直下にあった地下空間をも埋め尽くし、天井にあたる地盤を破壊して噴き出したのだ。それだけの血液を生み出したのはとある《転生者》の能力。彼は己の能力を《心臓》と名付けて呼んでいる。

その激流は噴き出した地面の周囲にある木々などの自然を悉く破壊し、ようやく収まった。その破壊された木の根元に、全身を真紅に染め上げた三人の男達が居た。

 

「……………………!!!」

「━━━━カハッ!! ハァッ、やってくれましたねぇ……………!!!」

「…………うむ。とんだ物の怪が居たものよ。 何より儂等三人が力を合わせんと凌げん攻撃を繰り出すなど、由々しき事態よ………………!!!」

 

血液の激流に巻き込まれた男達とは二人の《転生者》、哲郎と虎徹。そして鬼門組総監である凰蓮だ。結論から言うと、三人は辛うじて激流から難を逃れた。

哲郎はかつて、水中に潜り呼吸出来ないという状態に《適応》した経験がある。それが功を奏し、血液の中で溺死するという最悪の事態は避けられた。それ以上に幸運だったのは虎徹と凰蓮の呼吸が続いた事だった。

 

「がっはっは!! 今ので一人も殺せないとは参ったなこりゃ!!

しかし同じ事だ!! お前等の首を取った後は、今と同じように陸華仙と逢魔ヶ宮殿を圧し潰してやるよ!!!」

『!!!』

 

戦闘の場では一難が去ってもまた更に次の一難が襲い来るものである。哲郎達の前にその一難が高笑いを上げながら現れた。

その一難は、傍目では人間は疎か生物と言われても納得できない外見をしていた。しかし哲郎達はその一難が元々は人間である事を知っている。

哲郎達の目の前に居る人物こそが鬼ヶ帝国の滅亡を目論む悪しき《転生者》、名を《臟》。その外見は生きた心臓と言う他無い、哲郎の常識を大きく逸脱する存在だった。

 

「それに何より、これで分かったろう!!? お前等じゃ俺に一撃入れる事なんて夢のまた夢なんだよ!!!

今のだって技でも何でもない、ただ溜め込んだ血を何も考えずに吐き出しただけだ!!! そんなもんに必死こいて逃れる様なお前等が本当に俺に勝てるのか、今から確かめてやるよ!!!!」

 

場所は鬼ヶ帝国において最も忌み嫌われるべき鳳巌の根城、その真上。今自分が立っているこの場所こそが最終決戦の場なのだと哲郎は悟った。

潜入の日から三日を掛けて繰り広げられた鬼ヶ帝国を守る戦いの最終局面の火蓋が今まさに、切って落とされようとしていた。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。