異世界に適応する少年   作:Yuukiaway

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#399 Dignity Inside

哲郎にとって鳳厳とはどのような存在かと聞かれれば、極悪人と即答するだろう。

それは人、或いは寅虎の両親達の命を、或いは自分の仲間である筈の珂豚の命を平然と斬り捨てる事実を目の当たりにしたが故の結論である。

 

加えて彼は人間の命を脆いものだと断定した。嘗ての親友を無残に殺された過去がそのような歪んだ価値観を彼の心に植え付けた事は理屈では分かった。

しかし哲郎に一切の同情はなかった。それは他でもない哲郎自身が友達を突如として喪った過去があるからであり、それでいても尚人の命を何よりも大切にするという信念を持つようになったからだ。

 

しかし一方で、心のどこかで彼の言動にある種の気高さや畏怖の念を抱いていた事にも薄々気付いていた。

例えば戦国武将のような、例えば修羅場を何度も潜り抜けた豪傑のような迫力を彼の目の内に見出していた。心の中で彼を極悪人と断じていながら、哲郎は快楽殺人鬼のような下劣さを彼の中に見出せなかったのだ。

 

しかし今は、寧ろその真逆である。その言葉には一切の気高さや覇気は無く、ただ下劣な私欲だけが反映されていた。何者を犠牲にしてでも自分の生活を取り戻すというどす黒く下劣な執念だけがその声には乗っていた。

その声が鳳厳の喉から発せられる目の前の現実に、哲郎はえもいえない違和感や嫌悪感を示し、その神経は著しく逆撫でされた。

 

 

 

***

 

 

臟は歓喜していた。自分の身体から生成される血液が鳳厳の、自分の新たな身体の血管を隅々まで行き渡る度に、自分の力が高まっていく事を肌で感じ取っていた。

読み込まれた新たな機能をコンピューターが読み込むように、手にした新たな武器の使い方を理屈では無く感覚で理解するように、鳳厳の肉体が自分の一部として馴染んで行く事を実感していた。

 

「来た来た来た来た来たァーーーーーーーーーーーーーーッッッ!!!!!」

 

臟の血液によって、鳳厳の腕は更に筋肉が膨張する。本来、人間には自分の身体を守る為に力を抑え込む防衛機能が備わっているが、臟にはそれを考慮に入れる必要性がない。即ち鳳厳が持つ筋力を限界を超えて発揮する事が出来るのだ。

 

今や鳳厳の腕には赤黒い血管が無数に浮かび上がっている。それは悪しき力を発揮する時に現れる一種の紋様のようにも見えた。

 

「どうだ 凰蓮!! 虎徹!!! 今なら血を操るまでもなくこの腕一本で捻り潰せる気がするぜ!!!

それが大言壮語だってんならお前らの生命で試してみるか」

『ドゴォッッッ!!!!!』

 

臟の挑発の言葉は完全に言い終わる前に断ち切られた。臟の、鳳厳の脇腹に哲郎の高速の体当たりが突き刺さった。先程の臟の血の拘束具は解けていないが、そんな事は今の哲郎には些事だった。

速度は運動エネルギーという強大な力へと変化する場合がある。哲郎は指を鳴らしたその音の速度に《適応》し、音速の体当たりを見舞った。しかし鳳厳の鋼の筋肉に覆われた肉体には余りにも軽い攻撃だった。

 

「ウアアアアアアアアアアアアアアアッッッ!!!!!」

 

それは哲郎の、言葉にもならない咆哮だった。鳳厳の身体を乗っ取り、剰えその生命の指標とも言える心臓を踏み潰すという冒涜的な挑発、そして何よりも自分の行動が鳳厳の生命を失うという最悪の結果を呼び寄せてしまったという事実に憤っていた。

それは哲郎にとっては初めての体験。我を忘れ理性的な行動を取る事すら出来なくなる、それは暴走という他なかった。

 

「ガキがチュンチュン囀ってんじゃねぇよ鬱陶しい!!!」

「!!!」

 

臟の膝蹴りが哲郎の鳩尾に突き刺さった。内臓がひしゃげる激痛が哲郎の全身を貫く。その衝撃で身体を被っていた血の拘束も砕け散った。しかしその激痛が功を奏し、哲郎の感情に最小限の冷静さを取り戻させた。

哲郎の体は軽々と吹き飛び、森の中の木の幹に衝突する。廠桓の肉体では決して出来なかったであろうその攻撃を成功させ、臟は優越感に浸っていた。

 

「なーにをそんなに怒ってんだよ!? まさかお前、こいつの顔ファンかなんかかよ!?」

「─────ですか」

「ハ? 声が小さくて聞こえねぇよ!!」

「なんでそんなに!!!! 平然と人の命を踏みにじるような真似が出来るんですか!!!!!」

「ア?

ダッハッハッハ!!! まだそんな事言ってやがるのか!! その理由ならさっき話した筈だぜ!!

俺は元の世界に帰る!! 俺をこんな醜いバケモンに変えやがった連中は一人残らずぶちのめす!!! それ以外の事なんざこれっぽっちも興味ねぇんだよ!!!

お前だってそうだろ!!? いずれ元居た世界に帰るってのにこの世界の連中なんか気に掛けて何になる!!? まぁ尤も、お前がこの世界に骨を埋めるってんなら話は別だがな!!!」

「違う!!!! 僕にとってはこの世界も、凰蓮さんや虎徹さんも掛け替えのない一人の人間です!!! それを平然と犠牲にするような人間には絶対になりません!!!!!」

「ハッ! だったら俺を止めて否定して見せろよ!! 親や友達と会えずに道半ばで死ぬ事になっても同じ言葉を吐けるのならな!!!」

 

哲郎と臟。彼ら二人の《転生者》は置かれた状況も精神構造も根本的に異なる。その二人が真っ向からぶつかり合う鬼ヶ帝国史上最大の勝負は遂に最終局面へと突入した。

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