あの剣は本物だ。
少なくともゼースが使った魔剣 名前を確か イフリート と言っただろうか。
それよりも優れていることは、理屈ではなく直感で理解した。
そして、哲郎はそれに無意識のうちに萎縮していた。
しかし、弱気になってはいられない。
魔界公爵の跡取り、紅蓮の姫君、そして、かつての魔王
あの大会で闘ってきた経験が、哲郎を鼓舞させた。
そして1つの決断を下す。
カランカランッ!
「「!?」」
「……なんの真似だ?」
哲郎はその手に握っていた
そして魚人武術 カジキの構えをとる。
「……あんな使い慣れてないものじゃ、絶対に勝てない。
この身体、あのコロシアムを闘ったこの素手で、闘いたいんです。」
「……なるほど。一番信用に足るのは自分の肉体と言うわけか。
だが、素手がお前のベストだと言うならば、俺も俺のベストのこの剣を使わせてもらうぞ。」
「………はい。」
最終ラウンドのゴングが鳴らされる時は刻一刻と迫っている。
エクスもその剣を両手で振りかぶる。
「………行くぞ。」 「!!!!!」
エクスの一言で、哲郎の緊張は最高値を迎えた。
地面を全力で蹴り、エクスが強襲をかける。
それに対し哲郎は━━━━━━━━━━━
バッチィン!!!!! 「!!!!?」
地面に向けて魚人波掌を放った。
地面の中の水分に衝撃を巡らせ、流動した大地は巨大な砂埃を巻き上げ、エクスの視界を封じた。
ブォンッッ!!!!
とそのまま剣を振り下ろすが、その攻撃は空を切る。
視界を封じられ、空振りで隙のできたエクスに哲郎が懇親の攻撃を見舞う。
《波時雨》!!!!!
ズドドドドォン!!!!! 「!!!!?」
哲郎が懇親の魚人波掌をエクスに向けて5発、つるべ打ちした。
本来なら1発 直撃すれば体内の水分と魔力に衝撃が駆け巡り、立っていられなくなるほどのダメージを被ることになるが、それを5発、しかもダメージは魚人波掌 5発分
これで勝負は決した━━━━━━━━━━
「!!!!?」 ヒュオッッ!!!!
突如 自分に飛んできた
「ま、まさか…………!!!!」
体勢を整えた哲郎は1つの可能性を予測、否、危惧した。
土煙が晴れて目に飛び込んだ光景は、自分の闘争心を壊す、それに十二分に足る事実だった。
エクスは立っていた。その手に握られた件は所々ヒビが入っている。彼が魚人波掌 波時雨をあの剣でガードしたのはすぐに理解出来ることだった。
「………カッ!!!」
エクスは血を吐いた。
おそらく、微かに手に残っている感触から察するに、最初の1、2発は何とか当たったのだろう。しかし、あの攻撃で倒しきれなかったのは、非常にまずい。
むしろ、自分の負けが既に確定している と哲郎は直感した。
「………どうした………。
………何をやっている…………?
俺はまだ立っているぞ…………?」
エクスは息で途切れ途切れに哲郎に問いかける。
その一言ではっとした。
そうだ。
自分はこんな逆境を何度も乗り越えてあの魔界コロシアム 準優勝に漕ぎ着けたのではないか と。
恐怖心に押しつぶされそうになっていた己を奮い立たせ、構え直す。
カジキの構えでは無い。
「…………それは………
いいだろう。俺も
哲郎がとった構えとは、
【適応】の能力を持つ 田中哲郎の唯一の必殺技
《リベンジ・ザ・アダプト》の構えだ。
対するエクスは剣を後ろに引いて構える。
鞘こそ無いが、それは正真正銘 【居合】の構えだ。
「お、お兄様が………!! あんな………!!!!」
「し、死んじゃうんじゃないの………!!!?」
場内にえもいえない程の緊張が走る。
それは場外から観戦していたファンやアリスにまで伝わり、なおかつ2人までも押し潰してしまいそうなほどの気迫だった。
エクスが角度、タイミング 共に絶好の場所に入ったのを見計らって、哲郎は最後の強襲をかけた。
その手にはあの魔界コロシアムからずっと、この試合だけでない適応してきたダメージの全てが蓄積されている。
聖騎士 抜刀術
《
本来、実戦では隙だらけで通用する筈のない技術 居合。
それをレインの一族は途方もない歴史の中で少しずつその速度を上げ、隙を無くして行った。
今では、抜刀までのタイムラグは、人間の反応速度を追い越し、そこに隙は生まれない。
いくらヒビが入っていても
ズッドォン!!!!!
《リベンジ・ザ・アダプト》と《
両技の激突は場内を金色の旋風と轟音で包んだ。