凰蓮にとっての九年前の一戦はどのようなものか。それは悲喜入り交じる、自分の人生に大きく影響する出来事だったと言える。
それは彼にとって幼少の頃の決別から今日まで会う事が出来なかった親友 鳳厳との再会の時であり、凶悪犯罪を引き起こした張本人との激突であり、そして自分が鬼門組の総監に選ばれる契機となった時でもある。
そして今、その九年前の一戦が再び繰り広げられようとしていた。
凰蓮はこれから自分が地獄を見ると、あの日の激闘を上回る修羅場に身を投じる事になると肌で感じていた。その理由は目の前の対戦相手が鳳厳であって鳳厳ではないからだ。
今彼が相対しているのは鳳厳の肉体を乗っ取った臟という《転生者》。彼の能力や実力が鳳厳を上回っている事を凰蓮はひしひしと感じていた。
「・・・・・・・・・・・・・!!!」
「おうおうどうした!? 足が震えてやがるぜ、総監様でも死ぬのは怖ぇのか!!!」
臟の挑発の言葉が全くの的外れでは無い事を凰蓮は気付いていた。この奇襲に命を掛け、刺し違えてでも鳳厳を止めると誓った、それに偽りは無い。しかし臟の能力を脅威に感じている事もまた事実だった。
先程、凰蓮は繰り出された血の刃を
「ブルついてたのを一発で止めたか。だがそいつがただの虚勢なら地獄を見るぜ!!!」
「ご心配無く。総監として修羅場は何度も潜り抜けています。無様を晒すつもりはありませんよ!!」
「待て凰蓮!!」
『ガァンッ!!!!』『!!!?』
臟と一対一で戦おうとしていた凰蓮の前に虎徹が割って入った。
その瞬間、臟が放った血の矢が凰蓮の眉間目掛けて一直線に飛んで来ていた。その矢を虎徹の墨汁の盾が受け止める。
「虎徹さん・・・・・・・・・・!!!」
「此処は儂等二人でやるぞ。はっきり言って今の奴は主一人では手に余る。其れは今ので完全に分かったであろう。
勝ち筋があるとすれば、奴が彼の身体の扱いに慣れる前に一気に決める事くらいじゃ。その点において主は情報で有利を取っておる。何しろ今の奴の身体は主が良く知る鳳厳のものなのじゃからな。」
「分かりました・・・・・・・・・!!」
たった今、虎徹に命を救われたその事実によって凰蓮は自分が臟の挑発に乗せられていた事を自覚した。
「其れにもう一つ有利な事がある。儂は昨日、彼奴と一戦交えておる。自慢では無いが、其の時に奴の獲物を砕いてやった。尤も、其の能力を知っている奴に同じ手が二度通じるとは思えんがな。」
「成程。其れは少しばかりではありますが心強いですね。加えて謝罪します。年甲斐も無く、少々冷静さ欠いていたようです。」
「構うものか。目の前で友が乗っ取られる光景を目の当たりにして冷静沈着ならば、其れこそ道理を外れておると言う他無いわ。」
凰蓮と虎徹は二対一で戦う事に同意した。そこに個人的な意思は全く介在しておらず、帝国の為に自分の力を最大限発揮するという献身的な決意だけがあった。
臟もそれを理解し、不敵に口角を上げた。二人の決意も闘争心も何もかもを打ち砕いて完膚無きまでの敗北を与えてやろうと、そう思った。
「お喋りはもう十分か? ならこっちから仕掛けさせてもらうぜ。戻って来た《CHASER》にお前等の死に様をとくと見せてやらねぇといけないからな!!!」
『!!!』
臟の初撃。それは単純明快な突進だった。しかしその時、臟は背中から血を吹き出し、推進力に変えていた。それまでの鳳厳の巨体では考えられない瞬発力を発揮していた。
しかしその手は凰蓮も既に見ている、予測の範疇の攻撃だった。
『ガァンッ!!!!』
「ッ!!!!」
臟は両腕で横薙ぎの攻撃を見舞った。凰蓮はそれを全身の筋肉で受け止めた。その一撃だけで臟が血流を促進させて身体能力を強化させている事を看破した。
「━━━━ヌゥッ!!!」
「見事じゃ凰蓮!! よくぞ受けた!!!」
凰蓮が攻撃を受けて臟の動きが止まった瞬間、その背後から虎徹が飛び出した。その指では既に《墨汁》の発射の準備が済んでいる。
狙いは臟の、鳳厳の身体の両目。視界を塗り潰し多少なりとも戦力の低下を狙っての事だ。
「其の眼、闇に葬ってくれる!!!」
「甘ぇよ!!!」
「!!!」
虎徹の墨汁が臟の両目目掛けて発射された。それに対し臟は口を開けた。瞬間、舌から血が吹き出し、虎徹の墨汁を全て受け止めた。
(物の怪め!! 舌を噛み切っても死なんのか!!!)
「ハッハッハ!! いきなり目を狙うとは、武道会の王者にしちゃ容赦がねぇな!!! 一度でも見せた能力の使い方が俺に通じると思うなよ!!!」
凰蓮と虎徹の共同戦線、その始まりは負傷という観点では互角だったが、精神的余裕は臟にあった。品性無く舌を出し、二人を嘲笑っている臟の姿が二人の目には映っていた。