異世界に適応する少年   作:Yuukiaway

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#405 Reach 2 ~Prosthetic~

哲郎一人の力では、臟の身体に傷一つ付ける事は出来なかった。それは申開きのしようも無い純然たる事実だ。

しかし今、その臟は身を引き裂くような激痛に喘ぎ、その本体を守る鎧である鳳厳の肉体はその左腕を喪失している。それが出来たのは哲郎と虎徹という二人の《転生者》がそれぞれの長所を発揮しあい、隙を生む事が出来たからだ。

 

臟は今、切り落とさざるを得なかった左腕を凝固させた血液で代替しているが、それも虎徹の目には、最早悪足掻きにしか見えなかった。少なくとも戦況的な有利は自分達にあると信じて疑わなかった。

 

「下らん足掻きは止めておけ。幾ら血で紛い物を作った所で血の塊が腕と同じ重さの筈が無い。其の馬鹿力を扱いきれておらん主ならば尚の事、振り回されて終いじゃ!!」

「扱いきれてない か。そりゃ認めるしかねぇな。だがだったら、その力不足は能力で埋めるまでだ!!!」

『!!!』

 

臟が作り出した血の義腕、その形状が震えるように流動化した。そしてその血の塊は左腕から形を変える。それは哲郎の予想を遥かに超える代物だった。

 

『・・・・・・・・・・・・・・・・・!!!』

「どうだ!!? これでもまだ下らねぇ足掻きか!!?」

 

臟が血の義腕を変形させて作り出したものは刃物や剣などという月並みのものでは無かった。

臟の左腕からは、真紅の野獣の頭部が生えていた。その野獣の頭部は哲郎の記憶にある獅子のものと酷似していた。それが臟が哲郎と同じ世界の出身だという事を理解させる。そしてその口に生え揃った牙は、血に染った刃物のように見えた。

 

「《CHASER》、お前の能力の再生力は認めてやるよ。少なくとも俺にそんな芸当は出来ねぇ。

だが!! その喉笛を獣に食い切られても生きてられるのか!!?」

「!!!」

 

臟は背後の哲郎に向けて振り向いた、その遠心力を乗せて血の野獣を繰り出した。左腕の切断面からは血が吹き出し、その噴射も推進力となって野獣の牙は高速で哲郎の喉元へと迫る。

威力や殺傷力は言わずもがな、臟のその攻撃は哲郎の攻撃への対策にもなっていると理解していた。

 

(この程度の攻撃なら当たっても《適応》出来るし、躱したりいなしたりするのはそう難しくは無い。だけどこの攻撃をカウンターに繋げる方法が無い!!!)

 

哲郎の胸中での発言の前半部分は慢心等では無い、度重なる成功体験に裏打ちされた確信である。命中する瞬間に半身を引いて躱す程度の事は出来る。

しかしその後、哲郎の十八番であるカウンターの攻撃は対策されている。仮に野獣の頭部の付け根を掴んで投げる事が出来たとしても、臟が切り離せばそれだけで攻撃は無力化される。

 

臟はたった一回哲郎に投げ落とされただけでその攻撃への対策の最適解を導き出した。今だけでなく、この手の攻撃を繰り返されて臟の本体が哲郎の射程距離に入らなければこの戦場において戦力外となる。

 

それだけの事を一瞬の内に考え出し、哲郎は一先ず目の前の窮地を脱する為に身構えた。しかしその構えは無駄に終わった。

 

『ガァンッ!!!!』

「!!?」

 

哲郎の喉笛を噛み切ろうとしていた野獣の牙は、その両者の間に割って入った黒い塊によって阻まれた。

哲郎は最初の瞬間、それが唯の漆黒の物体にしか見えなかった。しかし、その形状に意識を向けて即座にその物体の正体を見抜く。

 

それは、鳳厳の左腕だった。虎徹の能力《墨汁》をその部分に臟が、能力が全身に回る前に切り落としたものだ。

しかし宿主を失ったそれも、虎徹の能力に塗り潰されて彼女の支配下にある。今や虎徹が指一本振るうだけで彼女の第三の腕として動くのだ。

 

「━━━━能力が惜しいのはお互いに一緒か。

しかも俺の能力を受け止めたって事は『鋼』の字でも書き込んだか!!?」

 

哲郎の攻撃を完璧に対策した、と自負していた攻撃を容易く防がれ、臟は苦々しい表情で虎徹を睨め付けた。

しかしそれだけではなく、人体で野獣の牙を防御出来た判断材料から虎徹が自分の能力の一つである塗り潰した物に新たな性質を書き込む応用技を使ったと見抜く。

 

「惜しいな。確かにそいつには字を書き込んだが、書いた字が違う。」

「何!?」

「逸らずとも冥土の土産に見せてくれるわ。行け(・・)。」

『ボアアッ!!!!!』

「ッッッ!!!!?」

 

黒く塗り潰された鳳厳の左腕、その掌から真っ赤な業火が噴き出した。臟は咄嗟に血の縦を展開するが、完全には防御出来ていない。

 

臟が右手に持った薙刀を振り回して炎を払い除けている間、哲郎は見た。

左腕の切断面から墨汁が吹き出し、そして先細って固まった。それだけではなく、手首の付け根から二本の触手のようなものが生えて爪の生えた手を形作った。指の付け根からも墨汁が吹き出て固まり、二本の角となった。

 

虎徹が左腕に書き込んだ字は『鋼』などという硬度の変化に収まるようなものではなかった。

『龍』。それが書き込まれた字だ。

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