鬼門組最高機関 陸華仙に上空から飛来した謎の黒い物体。当初、鬼門組の面々はそれを新手の敵襲と考えて慎重かつ厳正に対処しようとした。
しかしそれは彩奈の一声で一変した。たどたどしくもしっかりと確実に、明確な根拠を持ってその飛行体が虎徹の能力である事を説明した。彩奈にそれが出来たのは今も別の場所で身を削って奮闘している哲郎達が背中を押してくれたからだ。
それを真っ先に信用したのは幸運にも苺禍だった。彼女の鶴の一声で鬼門組は飛行体に対し寛容な処置を取る運びとなった。陸華仙の正門前、警戒態勢を取りつつもその飛行体は本部へ迎え入れられた。
「虎徹さん!!」
「暫くだったな。既に伝えたと思うが状況は一変した。他の者も一回で理解しろ!!」
虎徹が乗っていた黒い飛行体の正体。それは黒い龍だった。先程切断した鳳厳の左腕に《墨汁》の能力を付与し、作り上げたものだ。
上空から虎徹が飛来して来た光景に、鬼門組の組員達は小声でざわつき始める。それを尻目に虎徹は向こうで何が起こったのかを説明し始めた。
*
『・・・・・・・・・・・・・!!!!!』
組員達のざわつきも、虎徹の説明が終わる頃には水を打ったかのように静まり返っていた。それ程までに虎徹の口から語られる情報の数々が衝撃的なものだったからだ。
そして虎徹もその反応は無理からぬ事だと予測していた。帝国の治安を守る為に死力を尽くしている鬼門組の面々にとってはこれ以上の衝撃は金輪際訪れないだろうと断言出来る。
「━━━━い、今の話は全て真実なのか・・・・・・!!!?
鳳厳の娘を拉致した廠桓殿が既に心臓の化け物に乗っ取られて死んでいて、そして今度は鳳厳の身体も乗っ取って殺害した などと・・・・・・!!!!!」
鬼門組の面々がここまで驚愕している理由は彼等の特性にあると虎徹は考えていた。
鬼ヶ帝国は死刑廃止国であり、その治安維持の最高機関である陸華仙も同様、犯罪者を生け捕りにする事を信条としている。
今回の作戦の最重要人物である鳳厳が既に死亡しているという事実は彼等に少なからず衝撃を与えた事だろう。
しかし虎徹にとって最も重要な事は別にあった。その必須人物である彩奈に向かって話し掛ける。
「
儂には今、彼の化け物の牙城に風穴を開ける策がある。確実とは言えん賭けじゃが、儂と主の
***
哲郎は目の前で起こっている光景を視認しながら、臟の言葉を覆しようの無い事実として認めていた。
最も合理的故に対策も容易にされてしまう。一度目はこの血の結界に閉じ込められてから、二度目は凰蓮の攻撃を防がれてからようやく理解した。
この血の結界という臟の独壇場において彼を打ち破るには、臟の想定の外からの一撃が必要になるという事を。
「《転生者》でもねぇクセしてさんざっぱら刃向かってきてくれた礼だ。
お前の意識を残したまま身体を操って国の奴等を殺して回らせるのも悪くねぇ!!!」
「!!!」
臟は凰蓮の四肢の付け根、両肩と腰に向けて血の矢を放った。全霊の一撃を放ち、体勢が前方へ傾いている凰蓮にこの至近距離からの一撃を躱す術は無い。臟の表情がそれを示していた。
(させないッッッ!!!!!)
『ドガッ!!!!』
「!!!」「哲郎さん!!!」
瞬間、臟の、鳳厳の顔面に衝撃が走った。哲郎が全速力で臟に接近し、その両足と全体重で顔面を蹴り飛ばしたのだ。
臟の体は軽々と後方へ吹き飛んだ。凰蓮を狙っていた四筋の血の矢は起動が狂い、あらぬ方向へ飛んで行く。
(・・・・・・・手応えが浅い・・・・・・!!
多分蹴られた瞬間に地面から足を浮かせて、自分から吹っ飛ばされたんだ。つまり、これですらも《最も合理的な行動》として読まれてたって事だ・・・・・・・・・・!!!)
「凰蓮さん、今のではっきり分かりましたよ。この血の結界っていう臟に有利な状況じゃ合理的な行動こそ読まれて防がれる。だからこそ、臟も予測出来ない攻撃をしなくちゃいけない。
それこそ、例えば僕が・・・・・・・・・・!!!」
「そうだぜ その通りだぜ《CHASER》!!!」
『!!!』
哲郎の話を遮るように臟が自信満々に声を張り上げた。彼の周囲には血液が流動化して触手のようにうねっている。先程蹴り飛ばされた衝撃もそれによって受け止めたのだ。
「お前に人を殺せないなんて事は分かってる。だからこそお前が守って凰蓮が刺すって作戦になる事は簡単に分かるんだ。早い話が俺に勝ちたきゃ俺の予想を超えるしかねぇ。
例えば其れこそ《CHASER》、お前が俺を殺しにくるとかな!!!!!」
『!!!!!』
哲郎の脳裏に渦巻き、そして意図的に言葉にして出力しようとしていたおぞましき筋書き。それは臟の口から声高に伝えられた。