異世界に適応する少年   作:Yuukiaway

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#413 The Crimson Sphere Part5 ~General’s Role ~

哲郎の決して人を殺さないという信念は仲間達のみならず、この世界を舞台にして戦いを繰り広げる敵にも知れ渡っている情報である。

魔界コロシアムにて、公爵家の人間であるレオルに対し大見得を切った事も悪目立ちに影響している。しかし哲郎はその事を反省はすれど後悔はしていない。

 

そしてそれは時に、敵にとって都合良く利用できる哲郎の弱点にもなり得る。だからこそ臟は血の結界に哲郎と凰蓮の二人(・・)を隔離したのだ。

哲郎が臟を殺さない(・・・・)以上、攻撃の止めは自ずと凰蓮になる。その凰蓮の攻撃さえ対策していれば、臟が血の結界の中で敗北する事は無くなる。

 

この膠着状態から脱する方法は一つ、哲郎も臟の命を狙って攻撃を加える事だ。そうすれば臟の前提は崩壊し、勝機も芽生えてくる。しかしそれは哲郎の信念を曲げるという事だ。

 

 

 

***

 

 

臟の言葉は哲郎の中に蟠っていた疑念を明るみにするものだった。それは即ち、この戦場において自分の都合を押し通しても良いのかという事だ。

仮に自分の身が危険に晒されようとも、相手を殺す気は無いしそんな事は出来ないだろうと考えている。しかし仲間や罪の無い人々の身が危険にさらされようとしているならば話は変わってくる。

 

そして哲郎は今まさに、その状況に陥っている。臟の狙いは哲郎の命のみならず、鬼ヶ帝国そのものにある。それは即ち哲郎達の勝敗がそのまま帝国の命運を握っているという事だ。

その現状に立たされて、臟の指摘を目の当たりにして哲郎は改めて考える。果たしてこの期に及んで自分の信念を貫き通せる(・・・・・)のか と。彩奈や虎徹、そして凰蓮を始めとするこの国に住まう人々の命を守る為に自分が犠牲になるべきではないのか と、一瞬ばかりではあるが考えた。

 

しかし、その思考は直後に聞こえた轟音によってかき消された。

 

『ガァンッッッ!!!!!』

「!!!?」

 

その轟音は哲郎の隣から響いてきた。即ちそれは凰蓮が鳴らしたという事だ。

視線を向けると、凰蓮が持っていた薙刀で己の額を殴りつけていた。殴った部分は刃の峰だったが、金属の塊に頭突きして皮膚が無事で居られる筈が無い。彼の額は割れ、鮮血が流れていた。

 

「凰蓮さん・・・・・・・・・・!!?」

「・・・・・・哲郎さん、今一瞬でも『自分が殺さなければならない』と考えましたか?」

「えっ・・・!?」

「図星であるならば心より謝罪します。貴方のような少年にそのようなおぞましい事を思わせてしまった事を。」

 

額から滴る血は鼻の付近で分かれ、凰蓮の顔に赤い逆さのY字を描いていた。しかしその表情は和らぎつつも悲しみを称えていた。

その表情は共に戦う仲間に向けるものではない、市民の為に死力を尽くす警察官が少年に向ける表情のように見えた。

 

「全く、穴があったらなどと悠長な事を言わず、自分で穴を掘ってでも入りたいくらいですよ。総監の職を辞する事も考えなければならないやもしれません。

哲郎さん、其れ(・・)は私の役目です。否、(そもそも)此の任務自体が我々の手でしなければならない事だったのです。たとえ心臓の怪物が下衆な横槍を入れてこようともね。」

「・・・・・・・・・・・・・!!」

「何より、貴方のような少年の手が彼のような下衆の血で汚れるなどあってはならない。

貴方がやる事を変える必要など無いのです。今迄通りに戦ってくれれば其れで良いのです。」

 

凰蓮はそう話しながら、余裕の笑みを浮かべる臟を見据えた。その目に迷いは一切無かった。哲郎という少年を前にして鬼門組の総監としての信念を思い出したのだ。

 

「しかし、此の儘では埒が明かないのもまた事実です。悔しいですが彼の実力は驚異的です。

・・・・・・ですから此処からは更に速度を上げます。哲郎さん、私に《適応》して頂けますか?」

「!!!」

 

凰蓮の言葉は哲郎に自分の本領を思い出させた。

ラドラ寮でのミゲル然り、ジェイル・フィローネでのレオル然り、哲郎は誰かと組んでよりその能力を発揮するのだと、今この瞬間にようやく理解した。

 

そして今この瞬間からの自分の動きはより精度を上げるという確信があった。今までの戦いを乗り越えられたのは共に戦う相手の能力や本領に《適応》し、適切に動けたからであると強く確信した。

 

「はっ!!! 強気な事をさんざっぱらくっちゃべって結局はガキ頼りかよ!!!

それに第一《適応》するだァ!!? そいつの能力はそんな使い勝手の良いモンじゃねぇよ!!! 何より適応しようが何をしようが、この結界の中で俺に勝てる奴なんざ存在しねぇんだよ!!!!!」

『!!!』

 

その言葉と共に、臟は己の右手の五指を血の刃で切断した。それと同時に左手の義手も同様に分離する。

しかしその行為は自傷などではなく、攻撃の予備動作である事を哲郎達は強く確信していた。

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