異世界に適応する少年   作:Yuukiaway

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#417 The Crimson Sphere Part9 ~I won't discard~

哲郎が鳳厳と初めて衝突した時に取り分けて印象に残っている事は、やはり彼の肉体に魚人波掌が効かなかった事だろう。

彼が魔法の使い手ではなく、その体の表面に纏う魔力が微弱だった事も影響してはいるだろうが、それでもその事実は両者の肉体強度の差を顕著に表していたと言える。

 

哲郎がこの場においてその時の事を思い起こしている理由は他でも無い、鳳厳の肉体を乗っ取っている臟と正面から戦おうとしているからだ。

鳳厳の強靭な肉体に加えて、血液を操作する攻防一体の能力を携えた臟はこれまでの《転生者》としての経歴の中で最強の状態と言える。その臟と戦う事が何を意味しているかは、他でもない哲郎が一番良く理解していた。

 

*

 

「!! 哲郎さんいけません!!

今の彼と一人で戦うなど、死のうとしているようなものです!!!」

 

哲郎の一対一で戦うという宣言を、凰蓮は肯定しなかった。それは帝国の治安維持の為に存在する鬼門組の長である総監である彼ならば当然の思考だった。しかしその思考に、今の肉体は着いて行かなかった。

 

「うぐっ!!?」

 

哲郎を静止しようと立ち上がろうとした凰蓮だったが、直ぐに膝を着いてしまった。両足にまともに力を入れる事が出来ない。こんな事は長い人生の中で初めての経験だった。

 

(よ、よもや此処迄疲労していたとは!!! 先程迄動けていたのは高揚した精神が体力を前借りしていたのか!!!)

「凰蓮さん、少しの間動かずに息を整えてください。その間は僕が引き受けます。」

「・・・・・・分かりました。くれぐれも死なないで下さい。」

「・・・はい。」

 

この時、哲郎は《転生者》とそうでない者の力量の差を実体験をもって理解していた。

決して凰蓮の今の実力や今の地位に至るまでにあったであろう鍛錬の日々を否定する気は無い。ただ、魔法よりも不条理な力を相手に突き付ける《転生者》という存在が、どうしようもなく他の者では届き得ないのだ。

 

「最期の言葉は交わし終わったか? お前も意地の悪いやつだぜ。なんの罪もねぇ親父にトラウマ背負わせようとしてんだからな。」

 

表情を引き締めて向かって来る哲郎に対し、臟は口角を上げながら一歩一歩前に出る。

《適応》により哲郎の肉体を操る事が叶わない事、体術によって半端な遠距離攻撃は容易に捌かれてしまうという事実から、臟は血液を鳳厳の体内で高速で循環させ、身体能力を向上させる事に集中させた。

 

「それが僕を殺すという意味なら甘い考えですよ。

僕は凰蓮さんを信じています。また僕と一緒に戦ってくれるようになるとね。その為に時間を稼ぐんです!!!」

 

しかし、臟の行動は即ち哲郎が最も得意とする接近戦に飛び込む事を意味していた。

臟が飛び道具や長物を使わず、真っ向から殴り合うと言うのであれば残りの警戒対象は自由に変形する血の左腕のみになる。

その不意の攻撃に対処出来れば、勝敗を決するのは両者の力量の差となる。

 

「そうかそうか。自分から捨て駒を買って出てくれるとは大した愛国心だぜ。

冥土の土産に、人生の先輩として一つ教えてやるよ。人を信じて命運を託すなんざ馬鹿のする事だ。

そういう奴から死んで行くんだよ!!! 俺みたいにな!!!!!」

「!!!」

 

臟の言葉は、最後は最早感情をそのまま吐き出しているかのようだった。それは人に殺された経験則に起因している事は明白だった。

しかし哲郎は臟の感情に移入する事を止めた。別段臟の過去を知った事では無いと言うつもりはなかったが、それは勝ってからいくらでも出来る。今はただ臟と戦う事だけに意識を集中させねばならない。

 

そうでなければ自分の矮小な肉体など次の瞬間には叩き潰されてしまうと、己を一喝して哲郎は構えを取った。

 

「・・・・・・フゥ。すまねぇな。

今のはスッキリしたくて言った事だ。これで戦いに集中できる。

言っとくが時間は掛けねぇ。最速でお前等二人共血溜まりにしてやるぜ!!!!!」

「!!!」

 

最短最速で決着を付けると言った臟は、両脚に血液を集中させた。先程も見せた、表皮が赤黒く染まる程の血液の密度だ。

それは真っ向から、哲郎へ突進を試みる為の準備の動作だった。

 

 

***

 

 

 

哲郎が単独で臟と戦おうとしている頃、鬼門組 陸華仙のある場所(・・・・)に大勢の隊員が集まっていた。

そしてその中心に居るのは彩奈と虎徹である。虎徹は臟の血の結界を破る為にとある策を考え出していた。そして今、その策を実行に移そうとしている。

 

「虎徹さん、本当にやるんですか?」

「うむ。儂の仮説が当たっておれば血の結界を破れる力を得られる筈じゃ。

大博打である事は自覚している。失敗すればこの場に居る全員の身が危険に晒される事もな。

じゃが、哲郎と凰蓮が敗れれば此の国の未来は最早闇の中じゃ。何より二人が命を賭して戦っておるのじゃ。ならば儂等が立ち止まる訳にはいかんじゃろうて!!!」

 

それは虎徹の感情論だったが、誰一人としてそれを否定しなかった。それを見届けた虎徹は策を実行に移すべく、行動を起こした。

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