異世界に適応する少年   作:Yuukiaway

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#418 Contradiction in the Best

臟はこれまでに何十もの生物や人間の体を乗っ取っている。最初に乗っ取った魔物から、さらに大きな魔物へ、そしてその魔物を狩ろうとする人間の体へと、帝国の中枢に潜り込む為に数々の体を転々とした。

即ち、臟はこれまでに様々な体で物を見、聞き、感じたという事である。その経験から、臟はどんな体でもものの数分もあればその体が持つ感覚に対応出来るようになるのだ。

 

鳳厳の身体を乗っ取った直後は、哲郎に死角を突かれ不覚を取ったが、既に彼の体が持つ感覚は掴んでいる。

 

それは哲郎も感じ取っていた。虎徹は臟に鳳厳の身体など所詮は借り物だと言った。他でもない自分が臟の虚を突き、左腕を奪う結果に繋がった事からもその指摘を否定する気は無い。

しかし、戦況とは、情報とは絶えず変化するものである。実際に拳を交えて、哲郎は臟が既に鳳厳の身体で問題なく動けるようになっている事を肌で感じていた。

 

そして今、哲郎はその臟と真っ向から戦おうとしている。轟鬼族の強靭な肉体が臟の能力で血流を増幅した。純粋な腕力でいえば哲郎がこれまで戦ってきた相手で最も優れていると言えるだろう。

その臟が、哲郎の予想に違わず己の持てる力の全てを発揮して哲郎に襲いかかろうとしている。臟の初手は両の大腿部に血液を集中させる、小細工抜きの突進だった。

 

(一瞬で消し飛ばしてやる!!!!!)

『ビュゴォンッッッ!!!!!』

「!!!!!」

 

鳳厳の巨体が臟の血液で強化され超速で向かってくる、それは先程受けた牛檑の突進とは比較にならない速度と迫力があった。

 

(直撃したら踏ん張ってなんかいられない!!! それはつまり凰蓮さんが攻撃されるって事だ!!!

だけど今の僕ならどんな速さにも《適応》出来る!!! なら見極めなきゃいけないのは、攻撃が命中するその瞬間だ!!!)

 

臟が急接近してくるその一瞬の間に、哲郎の思考は高速で回転し、そして今この瞬間こそがこの一対一の戦いの最初にして最重要局面だと理解した。

この突進を諸に受けて吹き飛ばされる、或いは即座に|回復()()出来ないような負傷をすれば未だ立てずにいる凰蓮の命が危険に晒される。凰蓮の名誉に関わる言い方になるが、その状況が哲郎を不利たらしめている。

逆に、この突進を凌ぐ事が出来れば戦況的優位はこちらに傾くという公算もあった。臟は今、突進のみに意識を割いて防御がおざなりになっている。その慢心に付け入る隙は残されているとも考えていた。

 

(!!! ここだっ!!!!!)

 

臟の鼻先が自分の腕の長さに入り込んだ瞬間、哲郎は殆ど反射的に両腕を前に振り上げていた。

物体は、前方に進む力が強い程横からの衝撃に弱い傾向がある。哲郎はその事を度重なる戦いの経験から理解していた。

腕の振りの勢いで臟の突進の起動を捻じ曲げ、攻撃を捌く。それが哲郎の対抗策だった。

 

『ドスッ!!!』

「!!!!? なっ・・・・・・・・・・・・!!!!?」

 

哲郎の腕は、虚しく空を切った。臟の突進が哲郎の眼前で止まったからだ。

臟は哲郎の腕の射程距離に入ったその瞬間、哲郎の足元に薙刀の刃を突き刺した。その刃が支点となって、突進は直前で急停止したのだ。

 

「言ったそばからまた最適解にこだわる!! バカは死ななきゃ治らねぇってな!!!」

『ゴッ!!!』「!!!」

 

臟は地面に薙刀を突き刺し、哲郎に命中する直前で突進を強引に中断した。しかし、その勢いが失われた訳ではない。

薙刀の刃を支点として、臟の身体は勢い良く回転した。そしてその勢いと体重が全て乗った回し蹴りが哲郎に命中する。

 

本来なら、哲郎程の小柄な人間が大男の攻撃を受ければ如何にしてその衝撃を受け流すかが求められる。

しかしそれは自分の体が吹き飛び、臟に凰蓮を攻撃する機会を与えるという事である。哲郎の意識は激痛の中でも、辛うじてその危機だけは避けなければならないと訴えた。

 

「ぬあぁっ!!!」

「!!」

 

哲郎は臟の蹴りを受けた身体の力を抜き、縦に回転させた。臟の足は蹴りの抵抗を失って空を切り、哲郎はその勢いも相まって更に回転し、蹴りを受け流した。

 

そして先程の臟と同様、身体の回転と体重を乗せた回し蹴りを臟に見舞う。しかしその蹴りは片腕で軽々と防がれた。

 

「・・・・・・ッ!!!」

「だっはっは!! つくづくお前等の行動は読みやすくて対策しやすいぜ!!

特にお前の攻撃は軽くて軽くてしょうがねぇ!!! そんなお前じゃ鳳厳()や凰蓮には勝てやしねぇって、お前が良く分かってんじゃねぇのか!!!?」

「!!!」

 

この時、臟は高らかに断言した。哲郎達の行動はあらゆる状況において常に最適、それ故に予測も容易だと。その対策を講じていれば決して自分が敗北する事は無いと。

しかし、この時の臟は予想だにしていなかった。到底最適とは言えない、非合理極まりない方法で自分の血の結界が破られるという事を。

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