臟に蹴りを防がれた瞬間、哲郎は己の頭脳を最高速で回転させて考えた。
何故自分は臟の指摘を受けても尚、読まれやすい攻撃ばかりを仕掛けるのか。何故その状態から抜け出せないのか と。
程なくしてその理由は明らかとなった。一言で言えば、得意分野で戦おうとしているからだ。即ち、今の自分と臟の能力の中で優れている要素と劣っている要素がある。その優れている能力で臟をうち破ろうとしているのだ。
(そうだ。僕はずっと今まで僕の優れているところで戦おうとしていた!!! だから臟に読まれるんだ!!
じゃあまずは優れてる所と劣ってる所を明確にしないといけない・・・・・・!!!)
『バガッ!!!』「!!!」
哲郎の思考を邪魔するかのように、臟が腕を振り上げて哲郎を弾き飛ばした。しかし哲郎はその最中にも思考を稼働させ、彼我の能力の差異を明確にした。
・哲郎が優れている要素
①回避能力:相手の攻撃を捌き、反撃に繋げる事が出来る。
②技量:同上。
③回復力:《適応》の能力によるもの。
④速度:同上。
・臟が優れている要素
①体格:鳳厳の肉体の影響。
②筋肉量:同上。
③射程距離:血を操る能力によるもの。
④物量:同上。
(簡単に挙げたらこんな感じか。
なら一番警戒しなきゃならないのはやっぱり筋肉の差にものを言わせた攻撃だろう。《適応》で僕が死なないとしても、凰蓮さんを守れなきゃ意味が無い。
かといって血の遠距離攻撃の可能性が無くなった訳じゃない。そう思わせた所で隙をついて拘束してくる可能性は十分にある。)
互いの何が優れているのか、その把握が済んだ。ならば次に求められるのは臟に読まれやすい攻撃をしない事だろうが、哲郎は自分にはそれが困難である事を既に理解していた。
(臟は自分の口で僕の攻撃が読みやすいと言った。それは僕が何回もやってる挑発だ。
僕の冷静さを失わせて予想外の攻撃を出させようとしているつもりなんだ。つまり、臟はそれすらも想定に入れている可能性がある!!
何よりそれは僕が凰蓮さんの武器を使う攻撃でもう使ってる。だから臟もその事を頭に入れて動いてるに違いない!!
━━━━いや待て!! 僕と臟の優れている所を考えてたら見つけたぞ!!
価値を確定させはできなくても、臟の精神的優位を崩す理論を!!!)
それを思考した直後、哲郎は臟から数歩離れた地点に着地した。即ちそれだけの短い時間で思考を完了させたという事だ。
地面に着地した瞬間、哲郎は臟の精神的優位を崩す理論を口にし始めた。それは哲郎が得意とする挑発だった。
「━━━━フフフ。」
「あ? どうした? ついにイカレちまったか?」
「いえ別に。僕が読まれやすい攻撃を繰り返してしまう理由を考えていたら、貴方も同類だと気付いただけですよ。」
「!!?」
哲郎の挑発の初手は悪役じみた笑いから始まった。演技によって誇張はしていたものの、笑いたくなるのは本心だった。
この挑発を言葉にし終える頃には臟の精神状態を乱し、戦況を五分以上に戻せると確信していたからだ。
「・・・・・・俺とお前が同類だと?」
「そうですよ。僕の攻撃がどうして読まれやすいのか、それは僕が貴方より優れている能力で勝負しようとしていたからです。
それで気付いたんです。貴方も僕より優れている能力で戦っている、つまり最適解ばかりを選んでいるってね!!」
「・・・・・・何を言ってんだ? 俺が最適解ばかり選んでるだと? ならお前はその見え見えの攻撃も防げなかったマヌケって事になるぜ?」
臟が言っているのは、先程の薙刀を支点とした回し蹴りだ。しかし哲郎はそれに対する反対意見も用意していた。
「えぇ。それは僕のミスでした。あの時僕は相手の最適な攻撃がタックルだと思い込んでフライング気味に手を出してしまいました。
だから気付かなかったんです。その後の蹴りが貴方が僕より優れている《筋力》で勝負した結果だとね!」
「!
・・・・・・そうだとして、それが何なんだ? 俺の攻撃が読みやすい攻撃だったとして、お前がそれを読めなかったマヌケって事は変わりねぇ。
どれだけ理屈をこねくり回そうが、そんなもんはただのタラレバでしかねぇ。
何よりお前の妄言が凰蓮を回復させるための時間稼ぎなんて事はハナっから分かってる。これ以上は待ってやらねぇぞ!!!」
「・・・・・・・・・そうですか。まだ分かっていないんですね。」
「!!?」
ここからが哲郎の挑発の本領だった。臟は今、既に確定した揺るぎない事実を突き付けて哲郎の動揺を誘った。しかし哲郎も同様に臟に突き付ける事実を用意していた。
「貴方は目先の戦況にばかり気を取られて常に最適解ばかりを選んでいる。だけどその最適が矛盾しているんですよ。
それは、『戦闘に集中するために肉体の痛覚を遮断している事』と『肉体の血流を早めて限界以上の力を引き出している事』です!!!」
「何を訳の分からねぇ事を━━━━
ッッッ!!!!?」
(よし来たっ!! タイミングもバッチリだ!!)
その時、臟は膝を着いた。それは先程の凰蓮と全く同じだったが、その表情が違っていた。臟の表情は何が起こったのか分からないといったものだった。
(ま、まさか、さっきので足に限界が来たってのか・・・・・・・・・・・・・・・!!!)
その瞬間になって、臟はようやく理解した。
先程、臟は突進の威力を引き上げる為に大腿部に血液を集中させ、限界以上の筋力を引き出した。その時、既に両足は限界を迎えていた。
痛覚を遮断していたためにそれに気付けなかったのだ と。