哲郎達と臟の戦いが再び始まった。その初手は臟の、血の左腕を変形させた大太刀の一撃だった。
しかし哲郎は臟の今の状態からその攻撃を読み切り、呼吸を合わせるような蹴りで見事に防いだ。その理由は偏に、その攻撃が臟に取れる最前の攻撃だったからだ。
攻撃を防がれ、哲郎の言葉を耳にした臟は真っ先に理解した。この先の戦いにおいて成功する攻撃は、状況において不適切な読みようのない攻撃か、たとえ読まれようとも防ぎようの無い攻撃の二種類しか無い と。
(こういう時、《CHASER》は決まってこっちの腕を掴んで投げようとしてくる。けどこの血の義手の場合だけは話は別だ。掴まれた瞬間に血を刀や剣にでも変えて、奴の両腕を切り落としゃいいからな。
それは奴も分かってる筈だ。だから奴がこの腕を掴む事は無い。けどその裏をかいて賭けに出るって事も有り得る。だから俺が取るべきは━━━━!!!)
「これでも食らっとけ!!!」
「!!!」
臟は血の左腕の血液を、無数の手裏剣のような刃に変えて哲郎と凰蓮に向けて打ち出した。
この攻撃であれば、哲郎が投げを狙って腕を掴みに来ようとも距離を取ろうとも攻撃を命中させられる。
「ぬああああっ!!!」
『ガガガガガンッ!!!』
その声と音は凰蓮が武器を振り回し、至近距離で放たれた血の刃を弾き飛ばす音だった。
その時、凰蓮は自分の命を繋ぎ止める事に全神経を注がざるを得なかった。言い換えれば、哲郎の身を案じる余裕が無かったのである。
しかし、凰蓮の心には哲郎であれば自力でどうにかしてくれるだろうという信頼があった。そしてそれは哲郎も同じであり、彼の行動に顕著に現れていた。
「!! そう来るかよ!!!」
臟は哲郎の次の行動を血の義手を掴まずに距離を取ると読んだ。その予測は半分は当たっていた。予想外だったのは、哲郎が回避する方向である。
哲郎は臟の方向に向かって一心不乱に走った。凰蓮は自分の力で自分の身を守ってくれると信じ、自分は臟の本体を叩く事に全ての意識を集中させたが故の行動だ。
それを見た瞬間、臟は咄嗟に体を血の鎧で覆った。それも哲郎の次の攻撃を読んだ上での行動だ。
哲郎の攻撃方法は大別すると三つ、投げ技か、魚人波掌か、自分の鳴らす音の速度に《適応》しての突進の三つである。そして凰蓮は今、血の刃を捌く事に全神経を注いでいる。
即ちこの一瞬に限り、哲郎は臟の血の鎧を破る為に必要な二種類の攻撃を同時に繰り出す事が出来ないのだ。
『カァンッ!!!』
(!!! 来たッ!!!)
その音は、哲郎が音速の攻撃を繰り出す為に鳴らす指の音だ。それを聞いた瞬間、臟は血の鎧の血液凝固を最大出力で発動した。
血液、正確には液体は空気中よりも音が早く伝わる。故に血の鎧で全身を覆っている臟は哲郎が音速で攻撃するよりも一瞬早く防御態勢を整える事が出来るのだ。
(さぁ来い!! これならお前のヒョロいタックルなんざ簡単に受け止められ━━━━
ッ!!?)
臟が思考を中断したのは、とっくに攻撃を受けている筈の時間が経過しても何の衝撃も来なかったかだ。
不審に思って視線を送ると、眼前で哲郎が両足の平を向けていた。自分が鳴らした音の速度に《適応》した筈の哲郎がそうなっている理由は一つ、途中で《適応》を中断し元の速度に戻ったからだ。
(こ、こいつの狙いは、まさか・・・・・・!!!)
魚人波掌 踏撃
《
『ズドォンッ!!!!!』
「!!!!?」
それは哲郎が撃てる数少ない蹴りの技。両足のドロップキックで魚人波掌を撃ち出す技だ。それが一瞬の気の緩みで解けた両腕の防御をすり抜けて顔面へ直撃した。
臟もその技の存在は刹羅武道会の観客席で目の当たりにして知っていた。しかし今まで一度も使わなかった事に加え、技を音速のタックルと思い込ませていた事が迷彩となり、この技を臟の意識から隠したのだ。
『バガァンッ!!!』
「!!!」
滝壺蹴踏の衝撃は、臟の頭部を覆っていた血の兜を軽々と砕いた。その攻撃による臟へのダメージは無かったが、この一撃によって彼の状況は一気に不利となった。
それは技の射程距離に入っている哲郎を前にして無防備な頭部を見せてしまっているからだ。非力な哲郎にとってその急所が射程距離に入っている事は千載一遇の好機である。鳳厳の肉体へのダメージが蓄積しているこの状況で、頭部への攻撃は致命傷になり得る。
「やあっ!!!」
「うおっ!!!?」
哲郎は臟の頭部を両足で掴み、空中で体を捻った。臟はその動きに巻き込まれる形で投げられ、その頭部は地面へ急降下した。
通常、無防備な