異世界に適応する少年   作:Yuukiaway

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#423 Inappropriate 3 ~March Out Beasts~

臟が今入り込んでいる鳳厳の肉体は、一言で言えば筋肉の塊である。そうなれば当然、その体重は通常よりも遥かに増える。それは人間だけでなく、轟鬼族であろうとも例外ではない。

そして今、その鳳厳の体重がそのまま臟を窮地に追い込む武器と化している。哲郎が両足で頭から投げ落とした事により、鳳厳の体重がそのままその頭を叩き潰す力となっているのだ。

 

「ヌゥッ!!!」

「!!!」

 

臟の頭が地面に激突する直前、地面に広がった血液が流動化し、その頭部を受け止めて勢いを完全に飲み込んだ。

哲郎は決して、今自分が立っているこの場が臟の支配下にある事を失念していた訳では無い。それでも投げ技を強行した理由は受け身を取る隙すら与えずに攻撃を打ち込めるという勝算があったからだ。

 

しかし、臟の反射神経が哲郎の技の先を行った。己の危機を悟り、意識を防御に専念させた臟は殆ど反射的に哲郎の技から逃れたのだ。

そして、この投げ技を防がれた事で自分の状況が不利となっている事を哲郎は理解した。哲郎は今、静止した(・・・・)臟と両足を頭に挟んだ状態で接触している。

つまり、反撃に利用出来る臟の動きは無く、更に無防備な姿を見せている、攻防ともに圧倒的不利な状態だ。

 

「これで攻守逆転だな!!! 食らえや!!!」

「!!!」

 

瞬間、臟の身を纏っていた血の鎧が鋭く尖り、哲郎の心臓目掛けて一本の槍となって襲いかかった。加えて、槍の根元からは血液が広がって哲郎を飲み込もうとしていた。

即ちこれは、哲郎の心臓が《適応》で守られる可能性を考慮した上で血で覆い尽くして動きを止めるという二段攻撃だ。

 

「哲郎さん!!! 飛んで(避けて)下さい!!!」

(!!! 凰蓮さん!!!)

 

哲郎の背後から、凰蓮が武器を構えて走り込んで来た。哲郎が臟の頭から両足を離して浮遊し、血の槍ごと臟を凰蓮が切り伏せるという策を、哲郎も瞬時に汲み取った。

無論、これは臟も容易に想像しうる《最善》である。しかし、体勢が上下反転している今の臟が凰蓮の攻撃を捌く事は容易ではない。

 

「そう来ると思ってたぜェッ!!!」

『!!!!?』

 

凰蓮が振り上げた武器は空を切った。それは臟が哲郎に向けて打ち出そうとしていた血の槍を引っ込めたからだ。

凰蓮の攻撃は臟の僅かに上空を通過し、そこで無防備な姿を見せる。その僅か一瞬後、凰蓮は投げ飛ばされた。

 

最初に、臟は凰蓮の片手首に足を掛けて挟み込んだ。そして体を反転させ、その勢いに乗せて片足を振り上げて凰蓮を投げ飛ばした。

 

(あ、足で投げ技を・・・・・・・・・!!!)

「!!! 凰蓮さん、後ろです!!!」

「ぬぅっ・・・・・・!!」

 

哲郎が理解した臟の意図を、凰蓮も既に理解していた。凰蓮は投げ飛ばされ、血の結界の天井(・・)へ急接近している。

この状況であれば、臟は結界の血液を変化させて凰蓮を背中から突き刺す事が出来る。それが凰蓮の武器を後方へ向けさせる為の誘導だったとしても、無視する訳には行かない。

 

『ガキィンッ!!!!!』

「んぐぅッ!!!!!」

「!!! 凰蓮さん!!!!!」

 

凰蓮達の予測通り、血の結界の表面が変形し、鋭い槍となって凰蓮に襲いかかった。武器を後方に振りかざした事で直撃は避けられたが、無傷とはいかなかった。

血の槍が凰蓮の肩を深々と切り裂いた。この戦いの中で凰蓮が初めて深手を負った瞬間だ。しかし、それによって哲郎が最も懸念したのは臟の血が凰蓮の身体に入り、操られてしまうという事だ。

 

「うぐっ・・・・・・!!!」

「凰蓮さん・・・・・・!!!」

 

凰蓮は地面へと落下した。辛うじて急所からの落下は避けられたが、肩から流れる鮮血が彼の状態が尋常ではない事を訴えていた。

哲郎は今すぐにでも凰蓮に駆け寄りたい衝動に駆られたが、戦略的な理性がかろうじてそれを止めた。凰蓮が操られてしまうと、哲郎には最早逃げ惑って時間を稼ぐ以外の行動が取れなくなる。

 

「うぅっ・・・・・・・・・・・・

!! あ、操られてない!!?」

「!!? 何で・・・・・・!!?」

 

凰蓮は立ち上がり、そして自分が操られていない事を理解した。それを不審に思ったのは哲郎も同じだった。

今この場で凰蓮の体の自由を奪う、或いは支配下に置く事が出来れば臟の状況は非常に有利になる。臟はその千載一遇の機会を自ら捨てたのだ。

 

「・・・・・・ふっふっふ。何でもクソもあるかよ。もう俺の体にゃそれだけの血が残ってなかったってだけの事だ。

けどそれはそれで利用価値はあった。お前等は凰蓮を操るって《最善》を捨てた事を不審に思った。その一瞬でお前等から、こいつを発動する為の時間を奪えたからな!!!」

『!!!!?』

 

臟がそう叫んだ瞬間、床を埋め尽くしていた血が盛り上がって固まり、全く同じ形の物体が大量に生まれた。

それは血で形成された獣だった。深紅の獣の大群が臟の周囲を取り囲んでいた。

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