哲郎も臟も、もう既にこの一戦の決着が近づいている事に気付き始めていた。
臟は血の結界の展開と野獣の大群の召喚の二つの大技で、己の体内にある血液の殆どを使い果たしている。心臓の拍動で血液を分泌する事は出来るが、この消耗を補うには時間が掛かる。この状況で新しい遠距離攻撃を十分な出力で発揮する事は困難だと、他でもない臟が理解していた。
しかし、臟には哲郎達がこの状況を打破する事も困難だという
しかしこの状況を打破する方法が一つだけある。哲郎に出せる最大火力の攻撃は臟の脳裏に何度も過ぎっていた。
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臟は一度体外に放出した血液は蒸発しない限りは自在に操る事が出来る。即ち、血の野獣はたとえ破壊されても一時的に攻撃を分断されるだけで臟に隙さえあれば再び武器に変えて攻撃出来る。
血液を再利用出来る事は哲郎達も実際に見て知っている。故に血の野獣を破壊したとしても一時的な攻撃の先延ばししか出来ないのだ。
(こいつらは時間さえありゃ何度でも作り直せる。それはこいつらも分かってる筈だ。だから今あいつらが繰り出してぇのは一発で俺への攻撃の道筋が空くような、そんな一撃の筈だ。
この状況で繰り出せると言えば
「次行けぇッ!!!」
「!!!」
哲郎が投げ技を出し終わった瞬間、臟は指を前に出して血の野獣に攻撃を命じた。哲郎が体勢を崩している今は、凰蓮に決定打を叩き込む絶好の機会だ。
しかしそれはこの戦闘において最も読まれやすい『最善』の攻撃である。この一瞬の隙を突いてくる事は哲郎も予測していた。
(やっぱりここで打つしかない!!! 凰蓮さんを守りつつ臟に攻撃する為の道を作る!!!)
(!!! 来たッ!!!)
それは、《適応》の能力を持つ哲郎が出せる最大火力の攻撃。その攻撃が放たれる予兆の光が臟の網膜を突き刺した。
最後に打ってから、次に打つまでに受けた攻撃のダメージを纏めて放出するという特性故に乱発出来ない。その為、哲郎は
「《リベンジ・ザ・アダプト》ォ!!!!!」
「!!!!!」
哲郎の手から鬼ヶ帝国で受け続けたダメージを凝縮させた光が放たれた。高熱を帯びたその光は血の野獣の大群と避けようとした臟の血の左腕を纏めて吹き飛ばし、そして蒸発させた。
哲郎は臟の血の防御を確実に吹き飛ばす為に射程を絞り、血の結界を攻撃する事は断念した。しかし臟の鉄壁の防御を無力化する事には成功した。
(上手く行った!! 血は全部蒸発させて獣も義手も使えない!!! もう近付いても怖くない!!!
これなら二人で一気に畳み掛けられる!!!)
「凰蓮さん!!!」
哲郎の一世一代の攻撃によって臟は血の防御を失い、無防備となった。この一瞬を逃す訳には行かない事は凰蓮も分かっている。その期待を込めて哲郎は後方に居る凰蓮に呼び掛けた。
しかし、哲郎が未来に思い描いた臟への一斉攻撃が現実になる事は無かった。後方を振り向いた瞬間に哲郎の視界に飛び込んだのは高速で飛来する赤い刃と、それに首を切り付けられる凰蓮の姿だった。
「えっ・・・・・・・・・・・・!!!?」
「はっはっは!!! 残念だったな《CHASER》!!!
この土壇場で大技を切った度胸は褒めてやるが、俺だって頼みの綱を捨てる勇気はあるんだよ!!!」
「!!!」
振り返った哲郎の視界に飛び込んできたのは、右足を膝の付け根から切り落とした臟の姿だった。そしてその切り落とした足が茶褐色に干からびている光景を認め、哲郎は臟が何をやったのかを理解した。
(まさか、
「信じられねぇって面してんな!!! けどな、足一本で凰蓮をぶっ倒せるなら安いもんだぜ!!!
大技を不意打ちで使って俺の虚を突いたつもりだろうが、危ない橋渡るくらい俺だって渡れんだよ!!!」
臟は確実に凰蓮の頸動脈を切り裂いたという手応えと共に勝ち誇った声を張り上げた。鳳厳の体ならば片足片腕でも哲郎に押し勝てるという確かな自信もあった。
「そうか。ならば其れは儂等も同じじゃ!!!!!」
『バガァンッッッ!!!!!』
『!!!!?』
その聞き覚えのある女性の声と共に、血の結界が破壊された。最初、臟は血の結界の外壁にヒビが入り、その中に黒い穴が空いたように見えた。
そして次の瞬間、臟はこれまでの激動の人生の中で一番の驚愕に襲われる事になる。そして、自分が危ない橋といった方法など比肩にならない程に生温い事を理解させられた。