それは、哲郎が放てる中で最大出力の攻撃である。しかしそれは、連発出来る攻撃ではない。
哲郎の能力である《適応》によって受けた攻撃のダメージを掌に蓄積して、一気に放出するという特性により威力は申し分無いが再発動には最低でも数日の時間を要する。
その技の名は《リベンジ・ザ・アダプト》。哲郎はそれを先程、臟の血の包囲網を突破する為に使用した。哲郎は今まで、その技を相手との戦いを決する為にしか使っておらず、戦闘の途中で使用したのはこれが最初である。
故に臟は自分が置かれた状況とそれまでに得た情報から、哲郎がこの技を使う事は出来ない、延いては哲郎が自分を打ち負かす事はもう出来ないと考えた。それは適切な思考である。
しかし目の前の光景は、その適切な思考を否定していた。哲郎の掌に《リベンジ・ザ・アダプト》の兆候が眩く光っているという光景が。
*
(な、何だと━━━━!!!!?)
臟は自分の視界で起こっている光景を処理出来なかった。哲郎は先程、自分の体に刻まれたダメージの全てを放出してしまっており、それから臟は一度も哲郎に攻撃していない。
否、たとえ数発ダメージを与えたとしてもこれだけの
(有り得ねぇ!!! こいつは確かに自分の体に残ったダメージを全部放出した!!
小出しに出来るなんて話は聞いた事もねぇし、小出しにして俺の血を粉々に出来る訳が無い!!!)
臟の脳内では目の前の光景を理解する為の思考が一瞬の間に何度も浮かんでは消えた。しかしその謎の答えは次の瞬間には明らかになった。
哲郎が掌を突き出す為に体を引き、顕になった背中に謎の答えはあった。
「!!?」
臟が見たもの。それは哲郎の背中に深々と刻み込まれた刀で付けられたような傷だった。既に出血は止まっているが、常人が受ければそれだけで絶命しそうな迫力を臟は感じ取った。
臟の記憶では、哲郎の背中にそのような傷を付けた覚えは無い。しかしその謎も、目の端で視認した虎徹の変化で解けた。
(!!! あれは━━━━!!!)
臟は虎徹の掌に《墨汁》と一筋の血が滴っている光景を見た。その視覚情報がそれまでに得た情報と一本の線で繋がり、臟に一つの答えを示した。
それは、臟が烽鰐達の攻撃に意識を割かれていた時に起こったのだ。
虎徹は自分の身体に残された乏しい《墨汁》を練り固めて刃を形成し、哲郎の背中を切り付けた。その目的は哲郎に刀傷のダメージに《適応》する事だ。もう一度《リベンジ・ザ・アダプト》を撃てるだけのエネルギーを身体に蓄積する事が目的だったのだ。
(いくら勝つ為と言っても味方に、増してや生きてるかも分からねぇ攻撃を━━━━!!!
いや、んな事考えてる場合じゃねぇ!! 早くこいつから離れねぇと━━━━!!!)
臟は血の結界の展開と野獣の大群の召喚を始めとする様々な攻撃で体に残る血液を殆どを出し尽くし、回復の為の拍動の時間も十分に与えられていない。
加えて、本体を覆っている鳳厳の身体も度重なる酷使で既に限界を遥かに超えている。その代償はこの土壇場で支払われた。
必殺の一撃を放とうとしている哲郎を前にして、体はまともに動かずその場でたたらを踏んだ。その一瞬こそが臟の運命を決定付けた。
「《リベンジ・ザ・アダプト》ォ!!!!!」
「!!!!!」
エネルギーを集約させた哲郎の一撃が臟の鳩尾に直撃した。先程、哲郎の背中を切り付けたそのダメージがそのまま臟の全身に響き渡った。
(こ、こいつァやべぇ・・・・・・!!! この体を捨てて逃れるしかねぇ!!!!)
哲郎の渾身の一撃が鳳厳の表皮に触れた瞬間、臟はこの一撃をまともに食らえば自分の
最早、血液を放出して迎撃する事も、鳳厳の身体にある筈の有り余る筋力を発揮する事も叶わないこの状況で臟が己の身を守る方法は一つ、鳳厳の体を捨てて逃れる事だった。
「くぅっ!!!」
『ドパァンッ!!!!!』「!!!!!」
鳳厳の口から臟の
この瞬間、哲郎も知らなかった《リベンジ・ザ・アダプト》の威力が明るみとなった。防御せず直撃した場合、人間より頑強な筈の轟鬼族の肉体すら破壊出来るその威力に、哲郎は自分でも恐ろしくなったと、当時の事を振り返っている。
しかし、当時の哲郎の意識は臟の本体を取り逃してしまったという事実に捕らわれていた。土壇場で成功させた苦肉の策も臟を倒し切る事は出来なかった。
(まずい!!! ここで臟を取り逃したら今日の事が全部無駄になる・・・・・・!!!)
哲郎は、臟の精神状態は最早敵前逃亡も辞さない事を理解していた。
臟の本体は脆弱で一撃でも攻撃を加えれば倒し切れるが、攻撃を躱されて逃げられれば再び帝国は危機に晒される。
鬼ヶ帝国の命運を分ける戦いは正真正銘最後の局面に突入した。