哲郎達と臟の戦いは遂に正真正銘の最終局面を迎えた。哲郎達の度重なる攻撃が実を結び、臟を鳳厳の肉体から引きずり出す事には成功した。しかし哲郎はまだ戦いは終わっていない、寧ろここからが正念場だという事を理解していた。
哲郎達の攻撃は決して無駄ではなかったが、それはあくまで臟の本体を覆っていた身体を削っていたに過ぎない。臟の本体である心臓には未だ傷一つ付いていないのである。
哲郎達は確実に今ここで決着をつける必要があるが、臟はこの場を逃れても一先ず敗北とはならないのである。
臟は己の能力である血液を、拍動する時間さえあれば十分に補給できる。加えて帝国民の誰かの身体を乗っ取れば、形勢は再び五分以上に戻る。哲郎は臟が帝国を狙うこの状態が終わらない事に加え、再び鳳厳のように誰かが臟の犠牲になる事を強く恐れた。
(逃がさない!!! もう《リベンジ・ザ・アダプト》は使えないけど、それでも今の臟ならこの手でも倒せる!!!)
「ッ!!?」
哲郎は空中を飛んでいる臟に最後の一撃を加えようと大地を踏み締めた。しかしその足は地面を離れなかった。足元に視線を送ると、地面から生えた赤色の触手が足首に纒わり付いていた。
(この血は、まさか━━━━!!!)
「!!!」
哲郎は半ば直感的に己の前方に視線を送った。そこに広がる光景は自分の仮説を肯定するものだった。
先程背中が弾け飛んだ鳳厳の体は、その全身が
「だっはっは!! とんだミスをしたなマヌケが!!!
あいつの身体に流れてた血はもう既に俺の
叩き出されたのァ不本意だったが、お陰で残ってた血を丸ごと使えたぜ!!!」
「!!!」
哲郎は臟の勝利への執念深さに圧倒された。
鳳厳の体から引きずり出されても尚、自分が置かれた状況の利点を冷静に分析し、勝利に繋げようとしたが故の行動だ。
「お前らも纏めて固まってろ!!!」
「!!! 虎徹さん!!!」
臟は一瞬にも満たない時間で鳳厳の体に残っていた血を操り、虎徹と彼女が操っていた男達を一挙に拘束した。
鳳厳は哲郎の倍程もある大男であり、そうであれば当然体に残された血液も多くなる。臟は男達への拘束は足首のみにし、血液の大半を虎徹へ集中させて全身を拘束した。
「・・・・・・・・・・・・!!!!!」
「死力を尽くしたが一歩及ばずって所か!? 気に入り始めてたがそいつの体は戦利品としてくれてやるよ!!!
俺を殺したきゃその足切り落とすしかねぇ!!! それが出来るならだがな!!!」
「!!!!!」
この時、哲郎は虚勢でもなんでもなく、自分の足を切り落としてでも臟を追撃する覚悟があった。しかし気概があっても切り落とす為の方法が無いという事を、臟は言ったのだ。
哲郎の感情は臟への怒りと己の不甲斐なさが入り乱れ、混沌の様相を呈した。しかしそれをある声が打ち消した。
「━━━━戯けが。主を殺すのに誰も足を失う必要など無い。
何より、此の戦いに終止符を打って良いのは世界広しと言えども彼一人じゃ!!!!!」
『!!!!?』
瞬間、臟の全身を黒い影が覆った。哲郎は臟の後方に突如として一人の大男が出現するのを見た。
その男はこの一夜の戦いに己の人生を賭けた、帝国の未来を守る為にかつての友との因縁に決着を付けようとした人物である。彼は手に持った武器を振りかぶり、臟に狙いを定めていた。
「凰蓮さん!!!!?」
(何だと!!? こいつァ俺がさっき素っ首掻っ切って━━━━!!!)
「!!!」
臟は生物の血液の流れを捉える特殊な感覚を持っている。その臟は凰蓮の首に異変を感じ取った。
先程自分が切断した筈の凰蓮の首筋の頸動脈が不自然な形で塞がっている事を。それが誰の手によるものなのかを。
臟の予想に違わず、それは虎徹の能力によるものである。虎徹は《墨汁》で『止』と書いた札を凰蓮の首筋に貼り付け、失血死から彼を救ったのだ。
(だが、こいつはなんで
「ま、間に合いました・・・・・・・・・・・・!!!」
「!! 彩奈さん!!!」
血の結界の中で凰蓮が最後に立っていた場所。そこに彩奈が立っていた。彩奈は虎徹の視覚を通じて自分自身を《転送》し、その後に凰蓮を臟の後方へ《転送》したのだ。
(く、クソッタレが・・・・・・!!!)
「今度こそ年貢の納め時じゃな物の怪。
凰蓮よ、儂が此処迄膳立てをしてやったのじゃ。自分の人生のけじめ位は付けろ!!!」
「だあああああああああああああッッッ!!!!!」
『ズバァンッッッ!!!!!』
「!!!!!」
凰蓮は渾身の力で武器を振り下ろし、臟を一刀の元に両断した。
それはこの一夜の戦いのみならず、数十年前から続く凰蓮と鳳厳の友情と因縁の決着でもあった。