異世界に適応する少年   作:Yuukiaway

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#430 ISCHEMIA

臟、前世(かつて)の本名を佐野晋三(さのしんぞう)。彼の前世での生涯は彼の口から幾度も語られた通り、裕福な家庭に生まれ、望むものが全て手に入る順風満帆なものであった。

それでいて、(佐野晋三)は己の持つ力に溺れて好き放題にする、という事を意識的にしないようにしていた。しかしその姿勢こそが彼に『自分は何も悪い事をしていない』という意識を植え付け、その後の蛮行を助長させたと言える。

 

(佐野晋三)は自分の薔薇色の人生がこれからも永劫続くのだと信じて疑わなかった。しかしその生涯は突如として、夜道で背後から心臓を突き刺されるという形で幕を終える。

彼は未来永劫知る由もない事だが、その殺人の犯人は(佐野晋三)の親の事業拡大の煽りを受けて職を追われた一人の男である。彼は程なくして警察に捉えられ、然るべき処罰を受けている。

 

しかし、本当の悲劇はここからである。佐野晋三は生きた心臓、臟という異形へ転生してしまったのだ。

その衝撃、その屈辱こそが臟を『元の世界に帰る』という目的のためなら手段を選ばない精神を植え付けてしまったのである。

その目的は鬼ヶ帝国という舞台で、廠桓や鳳厳を初めとする多大な犠牲を出しつつ成就の寸前まで漕ぎ着けたが、遂には叶わなかった。

 

臟の大立ち回りは、彼の肉体が凰蓮に両断されるという形で幕を下ろした。

 

 

 

***

 

 

「・・・・・・・・・・・・・・!!!!!」

 

臟の心臓(本体)が真っ二つに両断された。その光景を哲郎や虎徹も見ていた。

その誰もが例外無く、夕方の鬼門組の奇襲に始まったこの帝国の明暗を分ける戦いの決着を心の底から望んだ。ほんの一瞬、戦いの終わりを望む事に全ての意識を集中させていたが、程なくしてそれも終わった。

両断された臟と凰蓮が地面に落下した音が、その場に居た全員を現実へ引き戻した。

 

「!! 凰蓮さん!!!」

 

臟に引導を渡した後、凰蓮は受け身を取る事もなく無防備に地面へ落下した。それを見た瞬間、哲郎は咄嗟に駆け出していた。

いくら虎徹の能力で傷口を塞いでいると言っても、首の血管の負傷は致命的と言える。臟への攻撃に持てる力の全てを使ってしまったと考えるのが妥当だ。

 

「・・・・・・・ク、ソが・・・・・・・・・・・・・・!!!!!」

「!!!」

 

哲郎の耳に飛び込んできたのは、途切れ途切れの臟の声だった。

口も舌も声帯も、その全てが真っ二つに両断されている筈なのに何故声を発せれるのか。最早生物としての構造すら逸脱していた。

 

(まだ喋れるのか・・・・・・・!!!)

「・・・・・・・フ、ハハ・・・・・・・・・・・・・・!!!

・・・・・・・俺一人に勝ったくらいで、俺達(・・)に勝ったと思うなよ・・・・・・・!!!」

 

臟の薄れ行く途切れ途切れの言葉は、言外に自分が最早死に体である事を示していた。しかし哲郎を含めた誰もが気を緩め無かった。今この瞬間にも、臟の仲間の誰かが彼を助けに来ない保証は無いからだ。

 

「・・・・・・・特に《CHASER》、お前はテンでダメだ。お前だけは何度やっても俺に傷一つ付けられなかった。なまじ頑丈さが売りだったんだろうが、お前一人じゃ俺には逆立ちしても勝てなかった。それがお前の限界なんだよ。」

「!!!」

 

臟の言葉は哲郎の胸に深く突き刺さった。それは哲郎が鬼ヶ帝国に来てから、特に凰蓮や鳳蓮の頑強な肉体を前にしてから常々考えていた事だからだ。

鍛え上げられた肉体や恵まれた体格の前には、哲郎の出せる技は単なる小細工に過ぎない。現実に何度繰り返しても、自分一人の力では鳳巌の肉体に守られた臟の本体には届かなかった。今目の前に広がっている光景を勝ち取れたのは偏に虎徹の能力があったからこそだ。

 

「・・・・・・・まぁだが、今になってこんな事言っても言い訳にしかならねぇか。俺ァこの通り負けた。この国は一先ず諦めるしかねぇ。精々一時の勝利を嚙み締めるんだな。」

「・・・・・・・・・・・・・・!!!」

 

臟がそう言っている間にも彼の両断された身体からは絶えず血が、彼の命の源である血液が零れていた。最早多少拍動した所で取り戻せるはずのない多量の出血。臟の表皮は目に見えて干乾びていった。

鬼ヶ帝国の暗部に長年鎮座し、数多の人間の人生を乗っ取り、今日という日まで帝国を崩壊させる為に暗躍していた臟の命が、人間だった佐野晋三の命が再び潰える瞬間だった。

 

(あぁクッソ。ここまでやって何一つ成し遂げられなかったか。

せめて出来るなら、今度こそ人間に生まれ変わりてぇな・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・)

 

*

 

「・・・・・・・・・・・・・・終わっ、た・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・?」

 

それは哲郎の唇の隙間から不意に漏れた声だった。目の前に力無く横たわっている両断された臟を前にして、この悪夢のような戦いの終わりを現実のものと確認する声だった。

 

「あぁ。もう此奴に息は無い。胸を張って良いとは言えんが、兎にも角にも儂等の勝利じゃ。」

 

虎徹が胸を張れないと言ったのは、この戦いによる重大な敗北によるものだ。それは鳳巌を死なせてしまったという事だ。

本来、生け捕りにして法の裁きを受けさせなければならない彼の死は凰蓮、延いては鬼門組の敗北と言えるだろう。

今日の戦いで命を落とした臟と鳳巌の二人。彼等が果たして何処へ向かうかは誰にも分からない。彼等の毒牙に掛かった者達を思えば、地獄へ落ちるに違いないと言うべきだろうが、《転生者》である哲郎達にはそれが出来なかった。

彼等の魂の行き先は彼等にしか分からない。それを確かめるには、もう一度命を捨てるしかないのだ。

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