自分の目の前に立っている少年が《廠幤》という廠桓の息子だと知らされ、哲郎は真っ先に少年の顔を見た。
その目や鼻、口の形状や位置をまじまじと見ると、全体的な雰囲気が廠桓と似通っていると哲郎は感じた。
哲郎は廠桓を、臟が乗っ取った状態の姿しか見た事が無いし、それ以外知らない。哲郎の記憶の中の廠桓は臟の感情が出力された下卑た表情を常に浮かべていた。
目の前の廠幤に、哲郎の記憶の中にある廠桓元い臟の悪辣さは微塵も無い。しかしそれでも似通っていると思わせる、それこそが血縁なのだと哲郎は理解させられた。
「話を進めるが、彼が廠桓に異常な事が起こっていると我々に知らせて来たのは数週間前だった。其の時我々は恥ずかしながら、疑いはせずとも本気にしなかった。
今回、彼を此の場に連れて来たのは━━━━」
「いえ皆さん、そこからは僕が話します。」
『!』
羅刹達の話を遮って、廠幤が言葉を発しながら足を前に出した。そして哲郎の横に移動して真っ直ぐに見据えた。哲郎達もそれに合わせるようにして体を横へ向ける。
「初めまして、田中哲郎さん。先程紹介された、廠桓の息子、廠幤と言います。
今日、僕が此処へ来たのは父について話し、そして貴方から聞く為です。」
「・・・・・・!」
*
廠桓は元々、鬼ヶ帝国の貧民街の出身である。彼も凰蓮と同様、刹羅武道会で優秀な成績を挙げ、帝国の政界に迎え入れられた。
凰蓮と違い、廠桓は勉学においても優秀な成績を収めて居たため、鬼門組では無く政治の一端を担う役目を与えられたのだ。
その廠桓は十数年前、お見合いの際に出会った名家の女性と結婚し、二人の間に廠幤が誕生したのである。
しかし廠桓の妻、即ち廠幤の母は廠幤を産んで以来身体が弱くなり、数年後に病気でこの世を去った。それ以降、廠幤は実父廠桓や政界の人々と関わり合いながら生きてきたのである。
*
「━━━━それが、僕と家族について話せる事です。」
「・・・・・・・・・・・・!!!」
哲郎が廠幤の話を聞いて真っ先に考えた事は、廠幤が置かれている現状だ。一言で言えば彼は今、天涯孤独なのである。
人の死に人一倍過敏な哲郎にとって、それは最も忌み嫌うと言っても過言では無い言葉だ。
「・・・・・・ここからが本題ですが、僕が父の異常、つまり、別人になっていると最初に予感したのは数週間前の夜の事です。
眠りに付けず、水を飲もうとした時に聞いてしまったんです。『もう直ぐこの国を落とす事が出来る。少し待ってろ。』と、
「!!!」
その場に居た誰もが廠幤の話を、そこから情報を得る事に専念して聞いていたが、哲郎だけが全く違う事を考えていた。
廠桓元い臟の口振りは明らかに誰かに向けて話すものだった。即ち彼の話し相手は悪の《転生者》を束ねる巨悪、ラミエルの想い人だった人間の可能性が十分にある。
「勿論、明くる日には国の人達にこの事を話しました。ですが取り合っては貰えませんでした。それ程までに父は国で信用を買ってたんです。」
廠幤の話を聞いて、哲郎は臟が廠桓を狙った理由が分かった。それは武道会で勝ち抜ける肉体的な実力を持ち、帝国の政界に入り込んでいるからだ。
その実力と権力を奪い取ったからこそ、臟は帝国を後一歩の所まで追い詰める事が出来たのだ。
「ですから、僕は外海に助けを求めました。
「!!!」
突如、廠幤の口から出た手紙という言葉に哲郎は目を見開いた。その言葉が哲郎に一つの可能性を想起させた。
「!? ど、どうしましたか?」
「あの、もしかしてですけど、その手紙に『このままだと国が無くなる。助けて下さい。』って書いたんじゃないですか!?」
「!!!? どうしてそれを━━━━!!!?」
手紙の内容を言い当てられて驚く廠幤に、哲郎は話した。
自分が帝国に潜入する切っ掛けが、身を寄せている国の王の依頼である事。帝国から一枚の手紙が送られてきた事。そしてその内容を。
「・・・・・・そう、だったんですか。あの手紙を貴方が・・・・・・。
そうか。僕がやった事は無駄じゃなかったんですね・・・・・・。」
「そうです。あの手紙を送ってくれた事、ありがとうございます。詳しい事はまだ言えませんが、この国を救う事は僕達にとっても重要でしたから。」
哲郎から感謝の言葉を受けた廠幤は目に涙を溜めつつも、その口元には笑みが浮かんでいた。
自分の行動が生まれ故郷を守る一助になった事。実父の体に己の故郷を滅ぼさせる凶行を取らせずに済んだ事がせめてもの救いだった。
「・・・・・・分かりました。では最後に一つ教えて下さい。
父を、廠桓を殺した