異世界に適応する少年   作:Yuukiaway

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#438 Epilogue 8 ~Final Mission~

廠幤は今回の、実父廠桓が死んだこの事件の渦中に居た臟をあれ(・・)と形容した。哲郎はその言葉に二つの意味が含まれている事を見抜いた。

先ず、臟に対する怨恨が多少なりもと含まれていると哲郎は見抜いた。廠幤にとって臟は親の仇以外の何者でもない。加えてその理由が帝国を転覆させるという身勝手なものであり、廠桓の方に一切の落ち度が無いとなれば、最早温情の介在する余地は無いだろう。

 

そして後者が最も重要だが、廠幤の目に臟が人間と映らなかったという事だ。

廠幤もこの逢魔ヶ宮殿に立ち入りを許され、最高権力者の羅刹達と接触出来るだけの立場にあるならば当然、蕺喬の検死の結果も見る事が出来ただろう。

臟は今、凰蓮に両断されて生命活動を終えた、干からびた心臓も同然の状態である。廠幤がそれを見て生物だと、増してや人間だったと言われても信じられなかっただろう。

 

兎にも角にも、廠幤の精神状態がどのようなものであろうとも、哲郎に出来る事は一つしか無かった。即ち廠幤の要求に応える事、臟について知っている事を話す事だ。

 

「・・・・・・分かりました。」

 

哲郎は一言そう言って心の平穏を取り戻し、そして話し始めた。

 

*

 

「━━━━僕が知っている事は、これで全部です。」

 

結果だけを言うと、哲郎が廠幤に話した内容は羅刹達に話した事とそう大差無かった。しかし話している間、先程以上に神経をすり減らした。

羅刹達は今回の一件を、飽くまでも政治の仕事における重要な出来事としか考えていない。故に哲郎も気遣い無く知っている事だけを淀み無く伝える事が出来た。

しかし、廠幤にとって今回の一件は、実父の死が決定的となった一大事件であり、今後の彼の記憶に一生残り続けるだろう。

 

それが証拠に、哲郎の話が核心に近付いていく度に廠幤の表情は目に見えて険しくなって行った。廠幤も哲郎に負い目を感じさせないように必死になっても尚そう感じたのだから、彼の精神は相当に動揺しているのだろう。

 

「・・・・・・後、廠桓 さんの体、虎徹さんが首を切った訳ですけど、それが切っ掛けになって臟が出て行ったんです。

ですからその、虎徹さんを責めないであげて欲しいと言いますか・・・・・・」

「えぇ。分かってます。皆さんが命を懸けて父の尊厳を守ってくれた事は知ってます。感謝こそしても責めるなんて、間違っても出来る訳ありません。

 

━━━━本当に良かったです。父が、この国を滅ぼした極悪人として扱われなくて━━━━!!!」

『!!!』

 

廠幤の目から遂に涙が零れ出た。それは実父の死が現実のものとして理解出来た事による悲しみと、廠桓の尊厳が守られた喜びが共存しているが故の涙だった。

 

「あ! す、すみません。ここじゃ泣かないって決めてたのに・・・・・・!」

「大丈夫ですか・・・!? もうこれ以上は止めた方が・・・・・・!」

「え、えぇ。もう大丈夫です。聞きたい事はもう全部聞けました。

哲郎さん、貴方にこんな事言っても仕方が無いかもしれませんが、僕、絶対に負けません。

 

将来、父がそうしていたように、いつかこの国をよりよく出来る政治家になります。そして強くなって、この国が絶対に誰にも滅ぼされないようにします。」

 

哲郎は廠幤の、目元が腫れつつも引き締められた表情を見て彼の将来の安泰を確信した。まだ出会って数十分も経っていない哲郎の目にもそう見えたのだ。

 

「・・・・・・そうですか。じゃあ僕からも、首都の税金が抑えられて、他の地域の人が無茶をしてお金を稼いだりしないような国になると良いですね。」

 

哲郎が言ったのは彼が帝国に来て最初に知り合った現地民の金埜の事だ。逢魔ヶ宮殿に来る前に、彼とも最後の会話を済ませていた。

 

哲郎は後で知る事になるが、首都豪羅京の税金が上がったのは廠桓の権力を悪用した臟が帝国の政治を混乱させる為にやっていた事である。その正体が明らかになった今、帝国は総力を挙げて不当に徴収した税を払い戻し、いずれ帝国の混乱も解消されるだろうとの事だった。

 

哲郎の言葉を聞いた廠幤は悲しげな目をしつつも表情を綻ばせ、そして踵を返して面会室から去って行った。

たった数分の出会いと会話だったが、哲郎は今後彼と後ろ向きな理由で会う事は無いだろうという事を理解していた。それはこの国が再び危機に晒される事を意味しているからだ。

 

「・・・・・・こっちは終わりました。じゃあ最後(・・)、行きましょうか。」

「あぁ。此方もつい先程、準備が終わった。着いて来てくれ。」

 

哲郎達三人は羅刹達に誘導される形で席を立ち、面会室から出た。

哲郎が言った最後とは即ちこの鬼ヶ帝国における最後の務め。それはこの国において最高の権力と最強の力を合わせ持つ存在、皇帝の羅王と対面する事だ。

 

哲郎だけが、この国の皇帝がこの世界の命運を分ける戦いにおいて重要な人物の一人に成り得る事を知っている。故にこの面会は、この三泊四日の活動において最も重要な意味を持つとも言えた。

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