異世界に適応する少年   作:Yuukiaway

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#44 【Intermission】 The enthusiastic fan club Part 3 ~ The Flame pike ~

哲郎は学園 中庭の武道場に立った。

 

 

「……やはりこうなってしまったか…………」

 

ノアは観客席から苦々しげにそう呟いた。

哲郎は既に着替えを済ませ、いつでも闘える状態に身を整えている。

 

武道場に入ってきたのはあの食堂であった女子生徒だった。

 

「……来ましたか。」

「…約束通り、私が勝ったらノア様と友達だと言い張った事を間違いだと認めてもらうわ。

 

そうね。 百歩譲って下僕なら認めてあげる。」

 

この女は一体 友情を何だと思っているのか。

と 言いたくなるのを堪える。

この世界には口で言うより行動で示した方がいい事もあるからだ。これから彼女を叩きのめすという行動によって。

 

「……そう言えば、まだ名前を聞いてませんでしたね。」

「随分 余裕ね。

私はレーナ・ヴァイン って言うの。

大会に出た経験はないけど、実戦なら沢山やってるわ。」

 

彼女は背に身の丈ほどの槍を背負っていた。

恐らくは、あのゼースのように武器に魔法をかけて戦うのだろう。

 

 

「……あら、ノアじゃない。

なにやってんのよ。こんな所で。」

 

校舎から聞き覚えのある声が聞こえてきた。

 

「おう。サラか。」

「何? 誰かケンカでもやってんの?」

 

武道場とは、実技授業とは別に生徒同士のいざこざを解決する場でもあった。

 

「そうだな。 あそこを見てみろ。」

「あそこ?

 

 

…………エエッ!!!? テツロウ!!!!?」

 

その一言で、哲郎も振り向いた。

 

「あぁ!サラさん!

お久しぶりです!!」

「なんであんたがここに居んのよ!!?」

 

哲郎は戸惑いを見せるサラに駆け寄り、そして ノアに呼ばれてこの学園に来た事、女子生徒に言いがかりをつけられて立ち会うことになった事 などを順を追って話した。

 

 

「…………あぁ。なるほど。

あれの結果 まだ出てないから無理もないかもね。」

「全くですよ。 結果さえ出せれば彼女たちも納得してくれるのに。」

 

哲郎はサラとの話を終え、再び武道場に足を運んだ。

 

「……ちょっとあなた、まさか サラ"様"とも友達だなんて言うんじゃないでしょうね?」

「そうですよ。 彼女とも魔界コロシアムで知り合ったんです。」

 

「………ますますあなたに負ける訳には行かなくなったわ。」

 

【紅蓮の姫君】という2つ名を持つだけあって、サラ"様"という敬称も持っているのか と漠然とそんなことを考えていた。

 

 

 

「……では、始めましょうか?」

「ええ。 身の程と言うものを分からせてあげるわ。」

 

 

レーナは徐に背中から槍を抜いて構えた。

そして、刃から炎が上がる。

 

(……やっぱりか。)

 

ここまでは哲郎の想定内だ。

しかし、それでも油断は無い。

自分の"技"を全力で振るうだけだ。

 

 

「行くわよ。」

 

レーナは刺突の構えで哲郎に強襲をかける。

しかし哲郎は全く動きを見せない。

 

レーナの放った突きを哲郎は手でずらして躱し、そして刃と柄の付け根を逆手で掴んた。

そのまま拳を回し、レーナの突進の動きを上方向に変換する。

 

「アアッ!!!?」

 

自分の突進力と体重で地面に叩きつけられそうになるのを堪え、何とか着地して危機を逃れた。

 

 

「……………!!!!!」

 

哲郎の方を見たレーナの表情は明らかに驚愕に染まっていた。

自分の身に何が起こったのかを理解するのに数秒の時間を費やした。

 

 

「………私今、投げられたの………!!!?」

「どうです?これで分かったでしょう?

僕の実力がノアさんに認められるものだと言う事が。」

 

これで納得してくれるなら苦労はないが、そんなに上手く行く筈はない。

 

「………バカを言わないで!!?

1回のまぐれで勝った気になるんじゃないわよ!!!!」

 

どこかで聞いたことのあるセリフが飛び出したが、哲郎はあえて反応をしなかった。

挑発は彼女には効かないだろうからだ。

 

 

***

 

哲郎とレーナの試合を ノアとサラは観客席から見ていた。

 

「ねぇ、あなたの口からは何も言わないの?」

「言ったことろでさほど 効果はない。

こういうことは本気でぶつかって冷静になってこそ初めて収まりがつくと言うものだ。」

「……そういうもんかしらね。

ところで、あのレーナって子、どんな人か知ってるの?」

「実を言うとほとんど知らないんだ。

そもそもあのユニオンの事はなるべく見ないようにしてきたからな。」

「……人気者は辛い とでも言いたいの?」

「お前も同じようなものだろ。」

 

ノアと同じように、サラも男女を問わず、その美貌と華麗な魔術で高い人気を得ていた。

 

ちなみに、ノアとサラの2人が同時に魔界コロシアムに出場すると決まった際には、どちらが優勝するか、あるいはどちらがより良い成績を残すのか という議論が両ファンの間で三日三晩 行われたというのはここだけの話である。

 

 

***

 

 

「……飽くまで 認めてくれませんか。

なら、こちらも本気で行かせて貰います!!!」

 

哲郎は、遂に魚人武術 【カジキの構え】を取った。


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