哲郎は今この瞬間、鬼ヶ帝国で続けていた事が遂に実を結んだのだと理解した。
哲郎達が帝国に来た目的は臟という悪しき《転生者》から国を守る事だけでなく、皇帝から信用を得る事も重要事項となっていた。
「━━━━!!!
ありがとうございます!!」
自分の行動が遂に実を結んだという事実を噛み締め、哲郎は魍焃に頭を下げた。
しかし言うまでもなく、敵の《転生者》との戦いに一般の人々が介入する事は危険極まりない事である。凰蓮が臟に対し終始防戦一方で、生死の境を彷徨う重傷を負った事からも、それは明白である。
故に鬼ヶ帝国を哲郎達の戦いに巻き込む事は躊躇われる。少なくとも、哲郎の独断で決められる事ではない。
しかしそれでも、魍焃から今回の言葉を引き出せた事は非常に大きな前進だった。《転生者》にも届き得る四人の内の一人。その魍焃に《転生者》の存在を認識してもらい、信用を得る事が出来た。それこそが大きな一歩なのだ。
「加えて、御主に何か一つ褒美を遣わそう。」
「!? ご褒美、ですか?」
「そうだ。何でも良いぞ。金、食事、不動産。求める物は全て用意する。」
「━━━━!」
哲郎は魍焃の申し出に視線を下に向け、一瞬考えを巡らせた。
無論の事、金銭や現物の類は最初から頭に無かった。この場で恩着せがましく褒美をねだるような欲深さは無い。
しかし、他に魍焃に要求したいものが頭に浮かんでいた。少しばかり考え、それを口に出す決意を固めた。
「あの、それは『して欲しい事』でも良いんですか?」
「無論だ。この国において、我の力を持って出来ない事は無い。して、何を望む?」
「━━━━はい。では、
この申し出は哲郎にとって、勝算が高いとは言えなかった。鎖国国家である鬼ヶ帝国において国民の出国という例外を認める。それが容易でない事は想像に難くない。
しかし、魍焃の返答は哲郎の予想とは異なっていた。
「分かった。其の程度であれば認められるだろう。 誰の出国を望む?」
「!
━━━━虎徹さんの出国をです。あの人の力が、僕達には必要なんです。」
*
哲郎は虎徹が《転生者》である事、その能力の詳細、彼女が今回の戦いにとって如何に重要な役目を果たしたか、それ故に彼女を自分達の仲間に迎え入れたいという意思、その全てを説明した。
それを聞いている最中、魍焃は己の中で合点がいったかのように口角を上げていた。それを見て哲郎は、状況が悪化する事は無いと確信した。
「━━━━こういう理由で虎徹さんにこの国から出てもらいたいんです。お願いできますか?」
「うむ、十分に分かった。やはり御主の口振りは聞いていて小気味が良い。
出国許可証を用意しよう。我が判を押せば其れで完了だ。」
「ありがとうございます! その間僕は何をすれば・・・・・・・」
「人に故郷から離れろと言うんだ。荷物を纏めて貰う様伝えておけ。
此れにて対談は終了とする。部屋から出て、仲間を安心させてやると良い。」
「はい!」
哲郎は魍焃に頭を下げ、そして踵を返して部屋を後にした。これによって魍焃との対面、即ち鬼ヶ帝国における全ての任務が終了した事になる。
助けられた命は多く、得られた信頼関係は非常に強力で、敵の《転生者》から白星も勝ち取った。それは素直に喜ばしい事であり、哲郎も本心からそれを成功体験としていた。
しかし一方で、完璧に出来なかった部分があった事も理解していた。課題は少なからずあり、これからの戦いは更に激化する。それを心に刻み込み、哲郎は扉をくぐった。
***
哲郎が魍焃との対面を終えたのと時を同じくして、二人の人物が言葉を交わしていた。
「・・・・・・・本当なんだな? 臟の奴が死んだってのは。」
「あぁ。廠桓と鳳厳を殺して帝国に衝撃を与えた所までは良かったが、それが限界だった。」
対面する人物の問い掛けにそう答えたのは、漆黒の外套に身を包んだ一人の男だった。その髪も瞳も、全てが一様に黒く染っていた。
「・・・・・・・なぁおい、別に怒ってやいねぇが、何だって臟を助けなかった? トレラの時に出来たんだから、やってやれない事じゃ無かった筈だぜ?」
「臟がそれを拒んだからさ。口ではああ言ってたが、彼は死にたがっていた。
「そうかいそうかい。まぁ俺は何だって良いんだ。俺はこの世界の全てを
「あぁ、分かっている。
だがそれは君も同じだ。僕と彼女を永遠に引き裂いたこの世界も、僕達を殺したあいつらも全員殺す。その為に力を貸してもらうよ。」
「応ともよ・・・・・・・!!!」
その黒づくめの男の正体こそ、ラミエルの元恋人にして
そして彼と言葉を交わしていた人物は、