「━━━━成程、心臓の《転生者》か。」
「はい。血を自由に操って武器を作ったり、人を操ったり、それに、心臓を奪って人を乗っ取る能力まで持ってました。
それで、最低でも二人の人が・・・・・・。」
哲郎の三泊四日の鬼ヶ帝国への遠征が終わり、エクスの屋敷で情報の擦り合わせが始まった。
まず最初に哲郎が話したのは鬼ヶ帝国の崩壊を目論んだ悪しき《転生者》臟の情報だ。彼の情報を口にする度、つい先日の戦いが想起される。そしてその先にあるのは、廠桓と鳳厳の死だ。
「分かった。それについては後で詳しく聞こう。それで、どうやってそいつに勝ったのか教えてくれ。」
「あ、それは━━━━」
「其れは偏に儂のお陰じゃぞ? ノアよ。」
「!!」
ノアの問い掛けに答えたのは、彼の腕にしがみついていた虎徹だった。その表情と口調は如何にも自慢げだったが、それが誇張では無い事は哲郎が良く分かっていた。
虎徹は《墨汁》の能力を駆使して臟の能力を逆利用し、その鉄壁の防御を破った。彼女が居なければ臟に勝利する事は勿論、帝国への被害を抑える事も叶わなかっただろう。哲郎はそれを手早く説明した。
「━━━━そういう訳ですから、僕達が勝てたのは本当に虎徹さんのお陰なんです。」
「分かった。今の話が本当だという事もこいつの言う事が大袈裟じゃ無い事も信じてやる。
・・・・・・後、こいつがお前達の為に尽力してくれた事もな。」
「お!! 其れは儂への告白か!? 儂に惚れ直してくれたか!!?」
「!! は、離れろ!!」
ノアの一言を聞き逃さず、尚且つ自分に好都合な意味を汲み取り、虎徹はより一層力強くノアに抱き着いた。
虎徹の熱烈なアプローチに、ノアは苦々しい表情で引き剥がそうとする。彼の全力を持ってしても虎徹の腕力を引き剥がせないのか、それとも旧知の中故に全力は出さないでいるのか、哲郎には判断しかねた。
「・・・・・・彩奈さん。」
「ッ?! な、何ですか!?」
「僕ね、さっき国王様が虎徹さんを完全には信用出来ていないかもしれないって思ったんです。これを見せたら一発で信用して貰えそうですね。」
「オイッ!! 絶対に止めろよ!!? そんな事したら末代までの恥だ!!!」
「ふふふふふ。」
エクスの屋敷に戻ってからというもの、哲郎の目にはノアと虎徹の二人が人間的に近しい存在になったように感じた。
二人共に、哲郎にとって圧倒的な力と頼り甲斐のある年長者という点で共通している。しかし今は、少しばかりではあるが、精神的に弱くなったように見えた。
(ここまでノアさんが動揺するのも、虎徹さんが人に心を許すのも初めて見たな。それとも、普段気を張ってただけでこっちが自然体なのか・・・・・・)
『ピンポーン』
『!』
それは来客の訪れを告げる、言わばチャイムの音だった。ここは貴族であるエクスが住む屋敷である。ならば誰が来ても不思議では無い。
「わ、私、見て来ます!」
「頼んだ。」
来客の応対を真っ先に買って出て、彩奈が部屋から出た。それにエクスが一言、労いの言葉を掛ける。
(そういえば彩奈さん、エクスさんの屋敷のメイドだったな・・・・・・。)
「してノアよ、今は何をして居るのじゃ? 見た所魔王稼業からは足を洗ったようじゃが。」
「そうだ。今は普通の家で学生としてやってる。魔王のしがらみから逃れたかったというのも、転生した理由の一つだ。」
「学生! しかも親も居るのか!! ならば明日にでも親御殿方に挨拶をせねばならんな!!」
「いい加減にしろ! お前が最初にしなければいけないのは人との距離感を学ぶ事だ!」
目の前で繰り広げられる掛け合いが夫婦漫才に見えて来た(そんな事を言えばノアに激怒されそうなのでおくびにも出さない)哲郎だった。
事ある毎に繰り広げられ、ずっと続くかもと思われていたそれは、意外な来客によって終わりを告げた。
「エ、エクス様! 皆さん!」
『!』
部屋の扉から彩奈が顔を出した。来客の応対を済ませて連れに戻ってきたのだと、誰もが瞬時に察知した。
「連れて来たか。一体誰が来たんだ?」
「そ、それが━━━━」
「失礼する。皆、暫くだったな。」
『!!』
彩奈の背後から部屋に入ってきたのは、黒髪に眼鏡を掛けた高身長の青年だった。虎徹以外の三人は彼を見た瞬間、目を見開いた。それは彼の事を知っていたからだ。
彼の名は、通称オルグことオルグダーグ・ウェドマンド。国王ディルドーグに親衛隊として仕える身であり、そして肉体を砂に変える能力を持った、哲郎達に与するもう一人の《転生者》である。
「国王様から聞いていたが、既に此処に戻っていたか。
━━久しい、という程の時間は経っていないか。」
「オルグさん! どうしてここに!?」
「端的に言わせて貰う。今回の一件が片付くまで、私はここで寝泊まりする事にした。」
「!?」