オルグダーグ・ウェドマンド。哲郎と彼の親交は、まだ深いとは言えない。国王の元に謁見したその日に出会い、その場で里香を共に撃退した後は即座に鬼ヶ帝国に向かったからだ。
その彼が今、手に大きな鞄を持ってエクスの屋敷に移り住むと言った。それまで哲郎の中にあった旅行帰りにも似た気分が一気に吹き飛ぶ出来事だった。
「何じゃ此奴は。」
「君が虎徹か。国王様から話は聞いている。
私はオルグダーグ・ウェドマンド。簡単に言えば哲郎の同志の《転生者》だ。オルグとでも呼んでくれ。」
言うまでもなく、虎徹にとってはこれがオルグダーグとの初めての対面だった。オルグダーグが自分の名を開示し、虎徹も怪訝な表情をしつつも何も言わない。
心做しか哲郎の目には、オルグダーグの登場によって虎徹の表情が引き締められたように見えた。
「それよりもどういう事ですかオルグさん! ここに住むだなんて━━━━」
「何だ、まだ聞いていなかったのか。エクスには既に伝えて了承も得て居たんだがな。
なら端的に言う。この屋敷を私達《転生者》の拠点にしようと思う。」
「!!?」
オルグダーグの話を聞いて、哲郎は耳を疑った。その話が荒唐無稽に聞こえたからだ。
「納得が行かないという顔だな。聞こう。」
「それはそうですよ! 確かに僕はここに住ませて貰ってますけど、オルグさんまで引っ越す必要はないでしょう!? それにエクスさんの家族だって、今は住んでいないからって勝手に決めるのはまずいんじゃないですか!?」
「━━━━やはりな。」
「!?」
哲郎の言い分を聞き終わって真っ先に口を開いたのは、この屋敷の主であるエクスだった。彼の表情は、まるでこうなる事を想定していたかのように落ち着き払っていた。
「お前が帰ってきたら実行しようとしていた。その時にお前がそう言うだろう事もな。
俺もこいつと国王に提案されて、合理的だと考えたから賛成したんだ。親やファンには学生活動の一環で部屋を貸す事になったと説明してある。」
「・・・・・・その合理性って、何なんですか?」
「一言で言うと、無関係な人間への影響が少ないという事だ。
お前の事だから、国王の城の方が安全だとでも考えたんだろう? 俺もそれは否定しないが、城には《転生者》ではない人間が多すぎる。
仮に城に拠点を構えてそこを襲撃されたら、出る被害は尋常では無い。」
「!!」
エクスの話を聞いて哲郎ははっとした。真っ先に脳裏を過ぎったのは、国王の城での里香との戦いの事だ。
その時、国王の関係者やその場に居合わせた者達が危険に晒されるばかりか、里香の能力によって人形にされる者も出た。
人的被害は出さずに住んだが、それはただの結果論に過ぎない。また同じ事が起こって、犠牲者を出さずに済む保証は何処にも無い。
「その点、ここなら無関係な人間を巻き込む可能性は低くなる。それにお前や彩奈はここに住んでてノアも勝手を知らないではない。
オルグが屋敷に慣れれば、それだけで拠点として円滑に動く事が出来る。これが俺の言う合理性だ。」
「・・・・・・!
分かりました・・・・・・!」
エクスが語った内容の全てに納得し、哲郎は少しばかり頭を下げた。
*
「じゃあ僕達が国王様の所に行った時にオルグさんが居なかったのは、引っ越しの準備をしてたからなんですね?」
「あぁ。真っ先に城に来るとは思わなかったから入れ違いになってしまったんだ。」
オルグダーグを迎え入れた六人の《転生者》は再び情報の擦り合わせに入った。
オルグが場に加わり、一気に緊張感と危機感が生まれた。虎徹がノアの腕にしがみ付く事を止めたのがその証明だった。
「えっとそれで、どこまで話したんでしたっけ?」
「お前達が臟という《転生者》に勝った経緯までだ。他の事を話す前に、何か気になった事があれば先に聞いておくと良い。」
「気になった事ですか・・・・・・。 あ、そう言えば!」
哲郎は思い出したように声を張り上げた。脳裏に浮かんだのは、国王への報告書に書けなかった事だ。
「! 何だ?」
「大した事か分からないんですけど、臟が僕の事を《CHASER》って呼んだんです。」
「チェイサーだと?」
「はい。彼が言うには、《転生者》のコードネームとか何とかって。何か知りませんか?」
「いや、そんな話は聞いた事もないな。
大方、その臟と言う奴かそいつらを仕切っている誰かが格好付けて俺達をそう呼んでるんだろう。」
「やっぱりそうですか・・・・・・。」
*
ノアの予測は当たっている。哲郎に付けられた《CHASER》というコードネームは、臟の上に居る巨悪が自分の意思で付けたものである。
そしてそれはノア達もまた同じである。
哲郎達六人が話している頃、とある場所では改めて《転生者》へのコードネームが設定されていた。
*
田中哲郎:CHASER
ノア・シェヘラザード:INFERNO
エクス・レイン:BLADE
朝倉彩奈:TRANSPORT
虎徹:BLACK
オルグダーグ・ウェドマンド:GAIA