「━━━━エクス様、キャロルの皮、剥き終わりました。」
「こっちもテーブルの準備出来ました。」
時刻は太陽が地平線に沈み始めた頃。哲郎達六人の《転生者》は一つの目的に向けて共同で作業を進めていた。
それは一言で言うと、夕食の準備である。因みに彩奈が言ったキャロルとは、哲郎達が居た世界で言う所の人参に組成が近い野菜である。
「
『はいっ!』
エクスの指示を受けた哲郎と彩奈が小走りで卓上の鍋に駆け寄り、皮を剥いて乱切りにした
この世界において、オーク(豚と同じ猪科偶蹄目の特徴を持つ魔物)は豚肉と同様に庶民の間で流通している。
鍋の中身が煮立ってから、ノアと虎徹が前もって準備していた葉野菜を上から被せ、鍋蓋を閉めた。
この二人が共同で作業をしていた理由は、他でもない虎徹がノアとの作業を熱望したからだ。ノアも作業中、故意に絡まないという条件を取り付けて渋々承諾した。
(虎徹さんも大分落ち着いてきたな。まぁそもそもこの料理を提案したのがノアさんだしな・・・・・・。)
鍋料理を囲んで食べる事はノアが提案した事だ。その理由は見ず知らずの人達が一番効率良く親睦を深める方法は同じ食卓を囲む事だと考えたからだ。
そして、その準備も全て哲郎達だけで行う事になった。故に、ミゲルのようなエクスの屋敷の使用人達は準備に携わっていない。
*
「・・・・・・良し、オークに火も通ってる。もう食べて良いぞ。」
『いただきます!』
エクスの屋敷の大広間に特設された円卓。その中心で鍋が煮え、小皿を前にして一斉に合掌した。
哲郎も鉄製のスプーンで葉野菜と
(うん。ちゃんと野菜にスープが染みてて美味しい。この味は昔食べたブイヨンってスープに似てるな・・・・・・。)
鬼ヶ帝国での激闘から日も経たず、哲郎の精神は未だ昂っていた。しかし味覚の穏やかな刺激がそれを落ち着ける。
この食事会にはそういった意図もあるのかもしれないと哲郎は思う事にした。
「じゃあ今度は、こちら側で分かった事を話すとしようか。」
『!』
皆が具材を口に運び始めて数分後、ノアが口を開いた。
哲郎達の情報の共有は、鬼ヶ帝国で得た臟の事と《転生者》達がエクスの屋敷で共同生活すると決まった事が明かされて中断している。最後に残っているのは、現地に残っていたノアとエクスが持っている情報だけだ。
「とは言うものの結論、相手の事は何も掴めてはいないんだ。だから分かっているのは、俺達二人の能力の事くらいだ。」
「能力? そんなのとっくに分かってるんじゃないんですか?」
「漠然とはな。だから今回やったのは詳細を詰める事だ。学業の傍ら、此処で人目を盗んで色々と調べたんだ。
・・・・・・俺達はもう、あいつらと戦わない訳には行かないからな。」
「!」
それを聞いて、哲郎はようやく理解した。それは自分とノア達とでは始まりの状況が異なるという事だ。
哲郎は元々、ラミエルに頼まれてこの世界を狙う巨悪を倒すという目的を持っている。しかしノア達はそうではない。
彼等は超常的な能力を持ちながらも、それぞれの人生を生きようとしていた。しかし今、彼等も《転生者》同士の戦いの渦中にある。その原因となったのは哲郎だ。
「・・・・・・言っておくが俺達は誰も巻き込まれたとは思っていないぞ。」
「! エクスさん!?」
「そいつらはこの世界諸共滅ぼそうとしているんだろう。だったら俺達も無関係じゃない。寧ろ俺達が止められると分かって喜ばしいくらいだ。」
「こいつの言う通りだ。そもそもパリム学園に攻撃された時点で喧嘩を売られてるようなものだしな。
話を戻すが、俺の能力は『自分が使う魔法の威力を上げて《転生者》に通用させる』ものだったと分かった。俺はこの能力を、与えてくれた奴への感謝の意も込めて《魔王》と呼ぶ事にした。」
「俺の能力は剣に関するものだと思っていたが、突き詰めて調べると手に何も持っていなくても物体を切れると分かった。俺も今まで通り、この能力を《聖剣》と呼ぶ事にした。」
「そうなんですね。分かりました。
(能力の名前って自分で決めて良いんだ・・・・・・。)」
哲郎は鬼ヶ帝国での戦いの中で自分の能力で何が出来るのかを必死に模索し、新たな応用を編み出して行った。
それと同じように、ノア達も来たるべき決戦に向けて自分の力を再確認し、鍛錬を始めている。本当にこの世界や新たに出来た友達を守りたいと願うならば、自分も決して現状に満足などせず、新しく何かが出来ないかを必死に考えなければならない。
それを考えながら目の前の料理を口に運び続け、《転生者》達の食事会は進んで行った。