「うーん・・・・・・」
親睦会を兼ねた夕食が終わった。目立った揉め事は無かったが、目に見えて打ち解けあえたかと言われると判断に困る部分が残った。
元々感情の起伏が乏しく、友人と言うよりは共に戦う人間としか考えていない傾向もあったのだろう。帝国から生きて帰り、こうやって共に食卓を囲めただけでも収穫だと哲郎は思うことにした。
そして時刻は夜、哲郎は入浴を終えて宛てがわれた部屋で机に向き合っている。その手にはペンが握られていた。
『コンコンコンッ』
「!」
哲郎の部屋の扉を叩く者が居た。日が沈んだと言っても寝るにはまだ早い時間なので、哲郎も不審には思わなかった。
「テツロウ、俺だ。」
「! は、はいっ!」
扉の向こうから聞こえてきたのはノアの声だった。待たせては悪いと哲郎は足早に扉に駆け寄り、ノブを捻る。
「どうかしましたか?」
「いや何、少し二人で話したい事があってな。」
*
部屋の中央に机を配置し、そこに哲郎とノアが向かい合って座った。その表情は思い詰めているという訳では無いが、唯暇で雑談をしに来たという訳でも無いように見えた。
「今更だが、何か作業中だったか?」
「え? どうして?」
「ペンと紙が机に出ていたから、そう思っただけだ。」
「あ、あぁ。
別に大した事じゃ。ただ、今後どう動けば良いかを考えてたんです。」
「?」
哲郎は鬼ヶ帝国や魔界コロシアムでの事を振り返って、一つの事を考えていた。それは女性と戦い、危害を加えざるを得ない場面も少なからずあったという事だ。
「(準決勝の)サラの事を言ってるのか。
確かに腹や顎を殴ったのは事実だが、あいつだってお前を爆破して魔眼まで使ったんだ。お互い様だと思うぞ。寧ろお前の方が不満を言っても良いくらいだ。」
「それもありますけど、一番は里香みたいな女の《転生者》の事です。それに帝国でも、目的の為に何人かと戦うしかない状況にもなりましたし・・・・・・。」
透桃や寅虎、黐詠など、哲郎が鬼ヶ帝国で戦わざるを得ない状況になった女性は少なからず居る。
ある者は家族を、ある者は人生を、そしてある者は進退を賭けて全力の勝負に挑んだ。それを無下にする事は相手への侮辱と言われるかもしれないが、それは哲郎の理解が及ばない部分もある。
少なくとも、目的達成の為に必要でなければどれも避けていた戦いだっただろうと、そう振り返っている。
「それで、どう思っているんだ。
お前の事だ、自分の考えを用意していない訳じゃ無いだろう。」
「! はい。本音を言えば女の人を傷つけたくはないですけど、この世界を守るためにはそうも言っていられません。
ですから、『自分や仲間が命を狙われそうになった時』や『罪の無い人が傷つけられそうになった時』。それ以外では戦わないようにしようと思ったんです。どう思いますか?」
哲郎は真剣な表情で自分の意見を言ったつもりだった。対するノアは穏やかな表情で口を開いた。
それは決して哲郎の悩みを軽んじているという訳ではなく、唯自分の考えを淡々と発しているが故の冷静さだった。
「お前が納得出来るならそれで良いんじゃないか。そもそも一度決めて変えちゃいけないものでもないだろ。」
「そう・・・ですかね。 それで、どうしてここに来たんですか?」
「なに、確信がある訳じゃないが心做しか、お前の顔色が優れないように見えただけだ。
今の女云々以外で何か、思い詰めてる事があるんじゃないか?」
「!
・・・・・・はい、実は・・・・・・。」
哲郎は話した。山賊との戦いの中で
しかし臟との戦い、特に鳳厳の身体を乗っ取った状態の臟に自分の技が通用しなかった事、虎徹や凰蓮が居なければ突破口を切り開けなかっただろう事を、順を追って話した。
特に鳳厳を死なせてしまったという事実は、今でも哲郎の背中に重く残っている。自分の責任ではないと言ってくれる人も居たが、それでも自分の力不足が招いたのではないかと思わずにはいられない。
「だからもっと強くならなきゃいけないと思ってるんですけど、そのイメージが湧かなくて・・・・・・。」
「どん詰まりってやつか。普通なら『人には限界があるから気にするな』とでも言ってやる所だろうが、それで納得するお前じゃないだろ。」
「い、いえ、そんな事は!
・・・・・・すみません。こんな事話しても仕方ないですよね。僕の問題なんですから。」
「いや、そうでもないぞ。人間思い詰めてる時程視野が狭くなるものだ。人に話す事で好転する事だってある。
お前の口から本音を聞けて良かったよ。何だったら今がそうだ。」
「えっ!? どういう意味ですか!?」
「お前が今置かれてる状況、抱えてる悩みを一発で解決する方法があると言ってるんだ。
結論から言おう。お前、魔物と戦え。」
「!!?」