#451 UNLIMITED
「━━━━えーっと、過去に達成した依頼はファン・レイン氏のいじめ問題の解決とサラ・ブラース氏の新興宗教への潜入調査ですか。
・・・・・・・正直に申し上げて、到底お勧めできる仕事ではありません。それでもお受けしますか?」
「はい。もう決めた事です。」
場所はエクスの屋敷の近辺で一番の規模を誇る冒険者ギルド。哲郎はそこで受付の女性と話していた。そしてその背には、彼の背丈程もある大荷物が背負われている。
哲郎が一人でその場所を訪れた理由は、一週間前に遡る。
***
一週間前。それは、鬼ヶ帝国への潜入調査を終えてエクスの屋敷で情報を交換した日である。その夜、哲郎はノアからある事を提案された。
ノアは哲郎に、『魔物と戦え』と言った。以下は、その後の会話である。
「魔物と戦うって、どういう事ですか!?」
「慌てなくとも、順を追って説明する。
まず理由の一つは、このままだとお前の冒険者のライセンスの有効期限が切れるという事だ。」
哲郎は今、この世界においては対外的に冒険者として活動している。
そして冒険者は多少の費用と手続きを踏めば誰でもなれる代わりに、生き残りが厳しい職業である。それは命の問題の他に、一定の期間依頼を受注しなければライセンスが失効してしまうという制約があるからだ。
「現状、お前が最後に達成したのは
確かに今すぐどうこうという話ではないが、このまま何もしなければ冒険者として活動出来なくなる事は目に見えている。そうなった場合、社会的な信用を失って面倒事に巻き込まれる可能性は十分にある。」
「だからこの辺りで冒険者としての仕事をしろと、それが僕が置かれている状況を改善出来るという話なんですね。
だけど、それが僕の力とどう関係するんですか?」
冒険者という肩書きを失えばこの世界での活動がしにくくなるという話は理解出来た。一泊置いて、ノアは二つ目の理由を話し始める。
「これは俺の推測で明確な確信がある訳じゃないが、お前が今しなければならない事は今までと違う相手と戦う事だと思うんだ。」
ノアは話した。
哲郎は今まで、人間としか戦った事がなく、それ以外の相手と戦う必要性を無意識の内に除外していたと。だからこそ、人間とは戦法も身体的特徴も全く異なる相手と戦い、そこから新しい戦い方と見い出せると考えた と。
「・・・・・・・なるほど、やってみる価値はあるかも知れませんね。
だとするとやっぱり、依頼を一つ一つこなして行く事になりますよね。」
「いや、それだと時間が掛かり過ぎる。それよりもっと効率的なやり方がある。尤も、それ相応に危険なやり方ではあるがな━━━━」
***
「では冒険者テツロウ・タナカさんの『アンリミテッド』の受注を進めます。完了を待つ間、誓約書へのサインと手荷物の確認にご協力下さい。」
「分かりました。」
アンリミテッド
それは文字通り、一定の期間山などの特定の場所に籠り、
このアンリミテッドの危険性は偏に、死傷の確率が跳ね上がるという事である。冒険者は元々が命懸けの仕事ではあるが、やるべき事が分かっているかどうかでは、その可能性に雲泥の差がある。
それでも年に数人の割合で受注する冒険者が居る。その理由は危険性に伴って、成果を上げた場合の報酬が高くなるからである。
故にアンリミテッドとは冒険者にとっては、一攫千金のチャンスに映る。しかしその利点は、哲郎にとっては些事だった。
哲郎がアンリミテッドを受けると言った時、受付の女性は顔を青くさせながら再三警告した。
アンリミテッドの危険性を。そして哲郎はまだライセンスの有効期限に少しばかり余裕があるから別の依頼をこなした方が良いと。
それらが掛け値なしの親切心から来るものだと理解して尚、哲郎は己の主張を曲げなかった。心を痛めつつも、受付の女性には明かせない事情があった。
哲郎にとってのアンリミテッドの利点は二つ、短期間で大勢の魔物と戦える事と過酷な環境に一人で身を置く事が修行になると考えられるからである。
「後でまた誓約書に記載する事になりますが、期間と場所をお伝え出来ますでしょうか。」
「はい。一週間で、場所はこの町の外壁の側にある山でお願いします。」
冒険者ギルドがあるこの町の周囲には、様々な魔物が生息している山がある。魔物が町に降りる事による被害が毎年発生し、ギルドも討伐依頼を出しているが追い付いていないのが現状である。
哲郎がその山を選んだのは、どうせやるなら人の為になる事をしようと考えた為だ。
(この一週間で、僕が得たものを全部出し切る。
次にノアさん達に会うまでに何かを掴みたい、いや、掴まなくちゃダメなんだ・・・・・・・!!!)