「ではこちらで、手荷物の検査にご協力下さい。」
「分かりました。」
誓約書(内容を要約すると、アンリミテッドによる負傷は自己責任である事と討伐した魔物の扱いに関する事)にサインを終えた哲郎が案内されたのは、受付の奥にある個室だった。
そこには一人の男と大きな机だけがあった。今からここで、アンリミテッドを受注する為に必要な手荷物の確認が行われる。
これが行われる大きな理由は、報酬に関する不正を未然に防ぐ為である。
アンリミテッドはその危険性に伴って、報酬の割合も高くなる。その特性を悪用して事前に用意した魔物の素材などを報酬をかさ増しして買い取らせようとする不正行為を未然に防ぐ為の制度だ。
そして冒険者にとっては、荷物の用意に不備がないかを改めて確認する機会にもなる。この時にギルドの職員に荷物の補充を提案され、それが結果的に命を救われる場合もあれば、アンリミテッドの受注を思い止まる者も居る。
そして哲郎が机に置いた荷物の中には、この一週間の努力の結晶が詰まっていた。
*
「荷物は、これで全部ですね。」
「はい。何か不備はありますか。」
「いえ、特にはありません。通常の野宿や遠征との違いも理解した荷造りだと思います。
飽くまでも、定義上の話ですがね・・・・・・・」
「・・・・・・・」
机の上に広げられたのは、テントやナイフ、乾燥させた食料、火起こしや収納に作られた魔法具、武器や防具、薬、そして野営や魔物の解体等について記された本だった。
この一週間、ノアやエクス達の助言を受けつつ町を回って用意した荷物の数々だ。
言うまでもなく、このアンリミテッドはソロキャンプや遠征とは一線を画する危険性を誇る。その準備は一朝一夕は務まらない。あらゆる危険性を考慮して、持ち運べる中で最前の用意をしなければならない。哲郎の一週間ですらも、統計的に見れば短い部類に入る。
「余談ですが、あの山にはゴブリンやオークが多く生息している傾向があります。戦った経験はありますか?」
「いえ、今まで人に関する依頼しかしてこなかったので。因みにですけど、討伐した魔物は自由にしても良いと聞いたんですが、本当なんですか。」
「えぇ。魔物を食べるも、素材として買い取ってもらうも自由です。尤も、達成出来ればの話ですがね・・・・・・・。」
ギルドの男の表情は明るいとは言えなかった。その口振りは不安を煽っているようにも聞こえるが、哲郎にはそう聞こえなかった。
男は飽くまでもアンリミテッドの受注には賛成していない。それが年端もいかない少年であれば尚更だ。
即ち、男は哲郎の身を心の底から案じている。それでも哲郎は自分とこの世界の為にやらなければならないのだ。
***
「・・・・・・・集まったね。来てくれてありがとう。」
場所はこの世界の誰も知らない何処か。時は哲郎がアンリミテッドを受注する為の準備を煮詰めていた頃。そこで一人の男が話していた。
男の前には二人の女性が立っていた。一人はパリム学園に毒牙を剥いた《転生者》
二人の表情には差はあれど、共に険しかった。それは仲間である《転生者》の臟が死んだからだ。
二人の内でより険しい表情をしていたトレラが、目の前の男に向けて口を開いた。
「━━━━何でや。」
「? 何でって何が?」
「決まっとるやろうが!!! 何で臟のヤツを助けんかったって聞いとんのや!!!
ワシを助けられたくらいや、帝国まで出張ってアイツを助けるくらい簡単やったんと違うんか!!!?」
「僕が臟を見殺しにしたと言いたいんだね。
だがそれは違う。臟がそれを拒んだんだ。君もあんな身体に生まれれば、彼の気持ちが分かるはずだよ。」
「・・・・・・・!!!
やったんはまたあのテツロウとかいうガキなんやろ!? あいつ、チビで雑魚のくせに調子にばかり乗りやがって!!!
おい、今度はワシを出せ!! 今度こそワシがあいつの舐め腐ったツラズタズタに引き裂いたる!!!!」
「━━━━いや、お前には無理だ。」
男に詰め寄るトレラの後方から声をかける人物が居た。彼もまた、ラグナロクの崩壊を目論む悪しき《転生者》の一人である。
「あ゙!!? 何やとぉ!!? 今何言うたァ!!?」
「お前には無理だと言ったんだ。確かに私も《INFERNO》辺りが最大の敵になると考えてたが、今は違う。
リーダー、次は私に行かせて欲しい。《CHASER》の首は僕が取る。」
その人物は哲郎の実力を認めた上で哲郎を殺すと宣言した。それに足るだけの確信と実力があった。
その人物の《転生者》としての