アンリミテッドという任務はギルドの中では秘匿とまでは言わずとも受注する事を推奨していない。それでも存在を消す事が出来ない理由は発生する魔物の被害に対して冒険者の活動が追い付いていないという現状があるからである。
そのような現状があるが故に、冒険者をしている者で歴が長ければ自然にアンリミテッドの存在を耳にする事になる。そして毎年のように一攫千金を狙って受注する者が居る。
以下はアンリミテッドを受注し、そしてそれを達成した冒険者の話の記録である。
「━━━━まず一つ言うべき事があるとすれば、俺の見込みが甘かったって事だ。
ただギルドからの依頼を受けて魔物を討伐するのとは訳が違う。一瞬も気を休められない状況、ろくに夜も眠れやしない。確かにゴブリンやコボルド程度なら簡単に倒せる。
だが状況と疲労が追い詰めるんだ。期間の最終日には何だってギルドがあそこまで再三警告したのか身に染みて理解したよ。
え? 自分の判断やギルドを憎んでるかって?
とんでもねぇよ。 あれをやった事に後悔は無い。贅沢さえしなきゃ当分過ごせるだけの金を得られたんだ。
ギルドにしたってそうだ。それでも強いて言うなら、これ以上無茶をする奴が出ないように冒険者の待遇が改善する事を祈るとするよ。」
*
「テツロウ・タナカさん、到着しました。」
ギルドでの手続きを終えた哲郎はギルドが操縦する馬車に乗せられて移動し、そして目的地に着いた。
馬車から降りた哲郎の視界に入ったのは、一面に広がる緑だった。一件は穏やかだが、これから自分が足を踏み入れるのは魔物が跋扈する戦場であり、修行の場なのだ。
ギルドが目的地まで
「ここが・・・・・・・!」
「我々が付き添えるのはここまでです。最後になりますが、冒険者の行動は全て自己責任です。
ですが逆に言えば、途中での終了も認められます。それまでに獲得した素材があれば、報酬はギルドの誇りに掛けて責任を持ってお支払いします。
では、ご検討をお祈りしています。」
「はい。ありがとうございます。」
哲郎は既に、ノアからこの世界における冒険者の待遇と魔物の被害の現状を知っている。ギルドの人々がアンリミテッドなどという依頼を設定する事自体が不本意であり、出来る限り冒険者達が犠牲にならないように配慮している事を知っている。
その上で、自分にはその温情を受け取る資格が無い事を理解していた。見方によっては哲郎は、アンリミテッドという制度を魔物と戦う修行の場として私的利用しているとも言い換えられるからだ。
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入山してから哲郎は周囲を警戒しながら確実に歩を進めて行った。地面から生えた木は密度が高く、木漏れ日も碌に望めない様相を呈していた。
強大な魔物が発生している事が分かっていながらその全貌を把握し切れていないのは、この山自体が天然の要塞として冒険者達の足を阻んでいるからだ。
(ギルドの力があっても山の状態すら把握出来ないなんて。空から情報を集めれば出来そうなもんだけど、それが出来ないのか・・・・・・・。
そう言えばノアさんが前に、空を飛ぶ魔法すら貴重だって言ってたな。だとすると僕ってやっぱりすごいと言えばすごいのかな・・・・・・・)
「良し、ここまで来れば━━━━」
森の深くまで入り、既にギルドの職員も離れたと考えた哲郎は上空へ
山を登り続けた理由はなるべく人目に付かない高さでより広い範囲を見渡す為だ。
「うーん・・・・・・・」
木に生えた葉の数々を押し退けながら、哲郎は木の上へ移動した。そこから広がる光景は、見る人によっては一生忘れない程の感動を与えられる程の絶景だった。
しかし哲郎にはその余韻に浸っている余裕は無かった。彼が今求めていたのは、拠点として使える開けた場所だった。
魔物との戦いによって自分の力を広げる事に加え、山という過酷な環境を一人で生き抜く事自体にも修行としての意味があると、哲郎は確信していた。
(僕が入った麓はあそこか。思っていたより歩いてないな。
で、頂上は・・・・・・・、まだまだ遠いな。向かうだけで数日掛かりそうだ。闇雲に向かうのは良くないな。
だけど、人の手で木が植えられた訳じゃないんだ。木が集まってる場所があるなら逆に木が少ない、原っぱみたいな場所だってあるはずだ。なるべくこの近くで、そんな場所を見付けるんだ・・・・・・・!)
哲郎が己に課した修行は、一先ずは穏やかな立ち上がりを見せた。しかし彼はまだ知らない。次の朝日を拝むよりも早く魔物との戦いが始まる事を。
そしてこの山の中で、魔物より遥かに強大な存在と拳を交える事になる事を。