冒険者ギルドにおける魔物の素材の買取の
〇ゴブリン
討伐証明:一体につき右耳一つ
肉:食用ではないので買取対象外。
その他:内臓、眼球、爪などが買取対象。
〇オーク
討伐証明:一体につき鼻一つ
肉:食用として買取対象。鮮度によって価格変動。
その他:内臓、眼球、爪などが買取対象。
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「ここなら・・・・・・・!」
山の周辺を小一時間探して、哲郎は目当ての拠点として使えそうな開けた場所を発見した。
哲郎にとってはなるべく早く拠点を構える必要があった。それは日が沈んでしまうと視界が悪く気温が下がってしまう事に加え、魔物や野生動物の活動が活発化するからだ。
(まずは一定の範囲の草を刈って、そこにテントを建てるんだ。ノアさんが貸してくれた結界付きのテントを━━━━)
哲郎が言った結界付きのテントとはその名の通り、展開すると非力な魔物程度であれば近付く事すら出来ない結界を張る特殊な魔法具の事である。
冒険者全体で見ればそれは知名度の低い代物だが、アンリミテッドを受注する者にとっては重宝される、言うなれば知る人ぞ知る逸品となっている。
しかし、それが哲郎の手で展開される瞬間は今ではなかった。草を刈る為の刃物を取り出そうとした瞬間、邪魔をする者が現れたからだ。
『━━━━ガサガサッ!』
「!!」
拠点となる場所に意識を向けていた哲郎の後方から草むらを揺らす音が聞こえた。それを認識し後方を向いた瞬間、鼻腔を臭気が刺激する。
哲郎がアンリミテッドに挑む前に集めていた情報の中に、その特徴と合致する魔物が居た。程なくそれは哲郎の予想と合致する形で姿を現す。
『ゲヒゲヒッ ゲヒヒッ・・・・・・・!!』
「ゴブリン・・・・・・・!!!」
ゴブリン
肌は深緑、腰に獣の皮を割いて纏い、手に木製の棍棒を持って戦う魔物である。
そしてその一番の特徴は常に数十体規模の群れを形成して活動する事である。ゴブリン一匹一匹の戦闘力は並の冒険者にも劣るが、数の優位でそれを覆す。
新米の冒険者がゴブリンの力量を甘く見積もり、壊滅的な被害を受ける事例は数多く存在していた。
(この一週間でゴブリンの情報や対策も叩き込んだ!!)
新米の冒険者がゴブリンに不覚を取ったという事例は、哲郎も文献などで取り入れていた情報である。それが出来た理由は言うまでもなく、冒険者達の犠牲が貴重な情報として残されていたからである。
アンリミテッドを受注する前の一週間、様々な情報を収集する中で、哲郎はノアにこう言われた。
『自分の周りの全てを先輩として扱い、情報を吸収しろ』と。その言葉の通り、哲郎は先人からの情報を飽くなき探究心と向上心で吸収し、自分の脳に焼き付けた。
先人達の残した情報を身に付け、自分の能力に変える事こそが勉強の本質なのかもしれないと、哲郎はそんな事を考えてもいた。
(ゴブリンは自分の縄張りに強烈な匂いを付ける。だからここはまだゴブリンの縄張りじゃない。今から縄張りにしようとしてた所に、僕と鉢合わせたって言う所か・・・・・・・!
もう先約があると諦めてくれれば話は簡単だけど、そうじゃないなら━━━━!!!)
『ギャヒェッッッ!!!』
(!!! 来たッ!!!)
ゴブリンの群れの最前列に居た一体が哲郎に向かって飛び込んで来た。哲郎からこの開けた場所を奪い取ろうという思考である。その目には
そして群れのゴブリンも笑いながらそれを見届けている。哲郎との交戦は群れ全体の総意という事だ。
(あの目、完全に僕を格下に見ている。実際に自分達の手で冒険者に勝った、成功体験ってやつがあるんだ・・・・・・・!!!)
ゴブリンによる冒険者や民間人への被害は身体的に不可逆的なものもあれば、それ以上の、即ち生命そのものへの被害もある。
そして哲郎が最も嫌悪するのは人間の命の喪失、徒に命が奪われる事である。そういう観点ではゴブリンは、哲郎が最も嫌悪すべき生物とも言えた。
しかし哲郎は今、冒険者として活動しに来ている訳でもゴブリン退治に来ている訳でも無い。飽くまでも真の目的は修行である。自分の力を伸ばす為に必要な感情だけを脳内に残した。
(体格は僕より小さい。でも手足の長さや筋力は人間以上だ。スピードも速い。ならッ!!!)
『ズガァンッッッ!!!』『!!!!!』
哲郎はゴブリンの拳を最低限の動きで躱し、その顎を掴んで一気に地面に叩き付けた。その攻撃自体は何度も行っているが、今回のものは相手の速度を一切損なわない改良型だ。
ゴブリンは地面に緑色の血液を吹き出して動かなくなった。それは哲郎の中の何かを変える一撃だった。哲郎はアンリミテッドを受注した時点で既に、冒険者の一員として魔物の命を自分の手で奪う決意を固めていた。それが今この瞬間、行動となって出力されたのだ。
『ゲゲッ!!?』
先陣を切ったゴブリンが一撃で倒された光景を見て、ゴブリンの群れに困惑と緊張が走る。哲郎とゴブリン達の一戦が幕を開けた。