「どうなりたいか、ですか・・・・・・・?」
それは哲郎がアンリミテッドに挑む数日前の出来事である。その日、哲郎は山篭りの荷造りや魔物の知識の勉強を煮詰め、寝支度を進めていた。そして夜、エクスから一つの質問をされたのだ。
それこそが、『どうなりたいか』という問いである。
「あぁ、アンリミテッドを受注して魔物と戦って、お前は
「・・・・・・・・・・・・・・
すみません、そこまで考えてなかったですね。山篭りの準備と魔物の対策しか考えてませんでした。」
哲郎は苦い顔をしながら正直にそう言った。その哲郎に対し、エクスは表情を引き締めて言葉を連ねる。
「やはりそうだったか。
厳しい言い方になるかも知れないがな、事前に対策を練った相手に勝利した所で得られるものなど高が知れている。
お前が混じり気のない冒険者だと言うならばそれでも良いだろう。だがそうじゃない。《転生者》として力を付ける。それが目的だという事を忘れるな。」
「・・・・・・・!」
エクスの言葉の一つ一つは、哲郎の目から鱗を落とすには十分な力があった。
手段が目的にすり変わるなど、凡人のする事である。哲郎は冒険者としてアンリミテッドを受注するが、それは飽くまでも修行の場として最適だからである。その前提が失われてはならない。
「・・・・・・・その、今の僕には『マーシャルアーツ』か『魚人武術』か、その二つの攻撃方法が主力な訳です。ですから最低でもそのどちらか、出来れば両方を伸ばしたいと思ってるんですけど・・・・・・・。」
哲郎は脳内で構築される展望を言葉に乗せてエクスに話した。それが好印象だったのか、エクスは僅かに口角を上げてこう言った。
「相変わらず自分の考えの言語化が上手い奴だ。その熱心さに免じて一つ助言をやる。
今から急いで腕力を身に付けるのは諦めた方が良い。」
「!?」
*
哲郎は当初、エクスのその言葉を額面通りに受け取った。魔界コロシアムの頃から今まで、鍛錬こそすれ筋肉を自分の主力とする発想は浮かびすらしなかった。
故にエクスのその言葉も、分かり切った事としか考えなかった。たとえこれから毎日筋肉が悲鳴を上げる程鍛え上げたとしても得られる成果は微々たるものだろう。
(僕の考えてる事も事実ではある。だけどエクスさんの言ってた事はそうじゃなかったんだ。
僕がしなければいけないのは、『技の精度を上げる事』だ・・・・・・・!!!)
ゴブリンキングと向かい合って、哲郎は自分がしなければならない事を理解した。今の自分がゴブリンキングに勝利する方法はただ一つ、最も血液の集中している場所に一点集中で魚人波掌を叩き込む事だ。
両腕を前に突き出して構え、ゴブリンキングに狙いを定める。魔物の身体構造を予め学んでいた哲郎は容易に
(・・・・・・・
『ブルアアアアアアアアッッッ!!!!!』
「!!!」
顔中の穴という穴から血を吹き出して冷静さを失ったのか、ゴブリンキングは大声を張り上げて哲郎に向かって行った。手に持った棍棒を振りかざし、哲郎の頭蓋に狙いを定める。
しかしそこに、魔物としての浅はかさが露呈した。自分がつい先程攻撃を受けた状況に再び自ら飛び込んだ事に、ゴブリンキングは気付いていない。
『!!!』
(やっぱりこいつは凰蓮さん達には遠く及ばない!!! なら尚更一人で倒せなければ話にもならない!!!)
哲郎は再び《漣》によってゴブリンキングの懐に飛び込んだ。しかしそれ以外は全てが先程と異なっている。
哲郎が見据えていたのはゴブリンキングの上半身、その一点のみである。そして発射する手の形も先程とは異なっていた。哲郎は
(これはきっと、
僕は冒険者でもあって、こうして魚人武術を身に付けてもいるけど、それだけが全てじゃない。
僕は《転生者》
「魚人波掌!!! 《白波千枚通し》!!!!!」
『ズドォッッッ!!!!!』「!!!!?」
哲郎は魚人波掌を、人差し指の一本貫手の要領でゴブリンキングに繰り出した。
人差し指を突き立てたのはゴブリンキングの胸部中央やや左。そこにあるのはゴブリンキングの全身を満たす
一点集中の衝撃が、ゴブリンキングの肉体に深々と突き刺さった。