虎徹の身長はノアすら超える、約190cm強。《墨汁》の能力も然る事ながら、その恵まれた体格と備えられた筋肉も非常に強力な武器となっている。
対するサラの身長は凡そ150cm後半程度。一般的な平均身長と遜色無い。その二人が向かい合った当然の結果として、サラは首を限界まで上げて虎徹の顔を見上げた。その事実がサラに威圧感を覚えさせ、自分が唯ならない者と対峙している事を理解させた。
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パリム学園に入学する生徒の殆どは自分こそが世界を動かし、変えるという確固たる意識をもって日々勉学や鍛錬に励んでいる。故に生徒達は魔法や戦闘技術の他に、世界情勢や種族間の歴史にも非常に精通している。
その彼等の耳に入って来た『轟鬼族が入国し、学園に居る』という情報は瞬く間に拡散し、即座に彼等の関心を支配した。
そしてそれはサラも例外ではなかった。否、寧ろ彼女が一番、虎徹への関心が強かったと言っても過言では無い。それは単純な轟鬼族への興味のみならず、ある確信が彼女の中にあったからである。
『
「!!!」
サラの言葉の意味を真っ先に汲み取り、ノアは顔を顰めた。ラドラ寮の一件、国王の襲撃事件、そして今回の轟鬼族の登場。サラの中でこれらの出来事は既に一本の線で結び付いているのだ。
それは即ち、《転生者》の核心に迫るという事である。それはノア達のみならず、サラにとっても好ましくない傾向だった。
(そりゃ、テツロウが鬼ヶ帝国に行ったんだからそこで轟鬼族の友達が出来てもおかしくはないわよ。あいつって誰とでも打ち解けられる気質があるし。
だけどあれから二週間も経ってないのよ!? それでノアと結婚する宣言なんて、一目惚れの勢いで言ってるようにも聞こえないし・・・・・・!!
そもそも何で国を出る必要があるの!? ノアは帝国になんか行ってないんだから最低でも国を出た後に一目惚れしたか、何かの理由で前々から面識があったとしか考えられない!!)
「━━━━轟鬼族が、じゃと? どういう意味じゃ其れは。異種間恋愛は好かんか。人を種族で判断するなど愚物のやる事じゃぞ。」
「別にそんなんじゃないわよ。ただ、なんでノアと
サラが言った事の意味は、虎徹が周囲に隠さなければいけない事と事実を比較すれば自ずと明らかとなる。
虎徹を始めとする鬼ヶ帝国の人間は出国するという発想自体が無く、出国する際には政界の中枢の人間が発行する許可証が必要となる。
虎徹も同様にその正式な手続きを踏んで出国をしている。それを滞り無く達成出来た理由は帝国を狙った悪しき《転生者》臟にある。
臟から帝国を救った実績に加え、これからも続くであろう《転生者》同士の戦いに備えるというものである。それを達成する名目で即日の出国が認められた。
即ち、サラ達のような《転生者》と関係の無い一般人達の中では、虎徹はつい十数日前にノアと知り合っていなければ辻褄が合わないのだ。
(つい最近じゃと? 此の小娘は何を言うておる━━━━
あ!)
サラが言った余りにも的外れな言葉の理由を虎徹はどうにか汲み取った。
虎徹も鬼ヶ帝国の外で生活するにあたって、関係者以外に《転生者》に関連する事を明かすべきでは無いと教えられ、彼女もそれを受け入れている。
それは即ち、かつてのノアとの逢瀬の一幕もひた隠しにする事にも繋がる。であるならば当然、無闇矢鱈に自分がノアを好いていると口にするべきではなかったという事にも辿り着く。それはかつて哲郎が巻き込まれた感情論めいたトラブルとは全く異なる、論理と戦略に基づいた立ち回りだ。
「で、どうなのよ!? あんた一体ノアとどういう関係なの!?
言っとくけどこれはイチャモンとか難癖とは違う。少なくとも私は、納得出来る理由を教えて貰えればそれで良いの!」
「う、うむ。其れはじゃな━━━━」
「簡単な事だろ!? 俺とこいつが知り合ったのが前々からだったって事だ!!」
『!!!?』
事実と秘匿、それによって虎徹とサラの力関係が逆転しようとしている中、ノアが後ろから割って入った。その一言に、虎徹を含めた場に居た全員に衝撃が走る。その騒めきの中、小声で虎徹に耳打ちした。
『ど、どうしたのじゃ!? 一体何を言うて━━━━』
『決まってるだろう!? 少しばかり恥と嘘を被る事になるが、それを向こう傷にしてこの場を収める!!
いい機会だ、お前も今日の事で学ぶと良い。この社会での動き方と言うやつをな!!』
哲郎がゴブリンやオークと戦おうとしている頃、ノアや虎徹もまたとある強大な敵と戦おうとしていた。それは市民の重圧という、個人の力では到底抗い難い社会の荒波である。