異世界に適応する少年   作:Yuukiaway

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#47 Danger game beginning

「……皆さん 覚悟は出来ましたね?

では、行きましょうか。」

 

その一言を2人にかけ、哲郎は門をくぐった。

 

 

***

 

 

哲郎がパリム学園に潜入してから既に2週間以上が経った。

哲郎は今 エクスの自室に来ている。

 

「……いよいよ明日ですね。」

「まるで他人事のような口ぶりだな。

お前も出場者だと言うことを忘れるな。」

 

もう彼のこのシニカルな言動にも慣れた。

 

「……それで、2人は今どんな状態ですか?」

「結果からいえば、2人はかなり真剣に特訓に取り組んでくれた。

決して100%とは言えないが、それでも勝算は十分にある と言って良いだろう。」

 

哲郎は初めて2人と会った時のことを思い出していた。

あの時の2人はギルドの依頼者に頼らねばならない程に弱く、まさに実力に屈している状態だった。

その2人が かつての自分のように特訓を積んでこうして実力を身につけた。それは自分の努力の賜物であり、何物にも変え難い自分だけの力である。

今の2人にもそれだけの力が備わっていると考えると、これ程心強い者は無かった。

 

 

「……ところで、お前の方は今日まで何をやっていた?」

「もちろん 今まで通りに特訓したり、僕なりに情報を集めたりしていましたよ。」

「それで? 何が分かった?」

「色々 分かりましたよ。

彼らの素性とか戦法とか扱う魔法とか

とにかく 有益な情報はたくさん集まりました。」

 

その一言を聞いてエクスは右端の口角を上げた。

 

「そうか。 なら今日は最終の打ち合わせをやってくれ。」

「打ち合わせ?」

「そうだ。 実を言うと2人には今日まで特訓だけをやらせていたんだ。もっとも、対策は練らせておいたがな。

だから今日 お前が得た情報の全てを伝えて明日の公式戦への最終調整に入るんだ。」

「…分かりました。」

 

 

***

 

 

哲郎は門をくぐった。

それは 公式戦試合会場へと続く通路の門だ。

そこを通ると哲郎の両脇から大歓声が巻き起こった。これから何が起こるのかを理解しているからだ。

 

『さぁさぁ皆様 どうぞご静粛に!!!!

一時期は都市伝説とまで言われたこの【公式戦】!!!!

それがなんと今宵 開催される運びとなりましたァ!!!!!』

 

1人の女子生徒のアナウンスが響く。それを起爆剤として観客席の熱狂は更に激しさを増す。

 

 

『……弱気になってはダメですよ?

大丈夫。堂々としていればいいんです。』

 

そう。決して弱気になってはいけない。

この公式戦にはいじめの撲滅 というこの学園の希望になり得る意味があるのだから。

 

哲郎達 3人は毅然として歩を進める。

そして、3つの玉座に向かい合った。

 

そこにはあの3人がふんぞり返って座っていた。

 

「おやおや こんなガキ共がアタシ達にケンカを吹っかけてきたってのかい!?」

「はっきり言って不快だ。

まぁ 見せしめにはさせて貰おう。」

「そうだな。 売ってきたのはあっちなんだから、どれだけぶちのめしても大丈夫なんだろォ!!?」

 

案の定 あの3人はこちらの事を全く警戒していない。むしろ 余裕だと思っている節すらある。

対して自分たちはあの3人をあの玉座から引きずり下ろすためにそれぞれが特訓を積んできた。もちろん 簡単に行くとは思っていないが、それでも全力でやるだけだ。

 

 

『ではこれより、今回の公式戦のルールをお話したいと思います!!!

 

今回は3対3の団体戦です!!

そして、公式戦は勝った方が負けた方にどんな命令も出来ます!!!

そして、公式戦希望者の方々の要望は、【負けた方に今後一切のいじめ行為を禁ずる】というものでした!!!!』

 

その一言で、観客席、特に低学年の生徒が大いに湧いた。 それだけあの3人、もしくはそれ以上の人間に苦しめられていたのだろう。

 

『ではただ今より、公式戦の対戦カードを発表致します!!!!!』

 

先鋒戦

ファン・レイン vs グス・オーガン

次鋒戦

アリス・インセンス vs ロイドフ・ラミン

大将戦

マキム・ナーダ vs アイズン・ゴールディ

 

『ご覧下さい この対戦カードを!!!!

これこそまさに下克上!!! 対戦希望者の3人は今日まで あのエクス・レイン氏の元で特訓を積んでいたのだという情報も入っております!!!!

果たして、その特訓が実を結ぶのか!!? それとも、圧倒的な実力差が打ち砕いてしまうのか!!!!?』

 

 

哲郎達を支持する者も、グス達に服従している者も、観客席にいた全員が大いに熱狂した。この公式戦の行く末に注目していた。

 

 

***

 

 

「作戦はまとまったな?」

 

哲郎達3人がいる控え室ににエクスが入ってきた。

エクスが視線を向けたのはファンだ。

怯えてはいないがその表情には明らかな緊張が見られた。

 

「ファン、お前に一つだけ言っておく。

聖騎士(パラディン)の誇りを胸に戦ってこい。」

「………はい。分かりました。」

 

兄弟の間で交わさせる会話はそれで十分だった。

その言葉を胸にファンは試合会場へと歩いて行った。


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