異世界に適応する少年   作:Yuukiaway

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#48 The shield of the tiny courage Part1 ~Impossible to escape~

試合会場

 

グスは入念にウォームアップを済ませていた。

 

(……フフ……

いいねぇ……… これから存分に暴れられるなんてさ……!!!)

 

グスは猛っていた。

これから1人の少年を好きなだけいたぶることを学校公認で出来るのだ。 仕掛けてきたのはあっちなのだから と。

 

この時まではそう確信していた。

 

 

コツコツ……

と 足音が聞こえてきた。

 

「……来たね。」

 

向こう側から対戦相手、 ファンという下級生が入ってきた。その振る舞いはかろうじて(・・・・・)毅然としていた。

 

 

『皆様ァ!!!!

大変長らくお待たせ致しました!!! これより公式戦 先鋒戦を始めたいと思います!!!

両者 出揃いました!!!!!』

 

 

実況者の生徒のはきはきとした声が満員御礼の観客席を熱狂させる。 これでこそやる気が出るものだ とグスは感じた。

 

『さぁ ご覧下さい この対戦カードを!!!!

小柄な人間族に対し、相手は亜人族にして屈指の実力者!!!

 

しかしながら!!! 先程も申し上げました通りファン選手達のチームはあのエクス・レインの元で特訓を積んだという情報が入っております!!!

その特訓の成果が今 花を開くのか、それとも圧倒的な実力差がそれを打ち砕いてしまうのか!!!? 重ね重ね 必見です!!!!』

 

 

***

 

 

小柄の男と大柄の女 が場内に出揃った。

男と女という、倫理観で言えば男性が女性を相手取る 紳士的とは言えないものである。

 

しかし、性別(・・)以外は全てこちらが上。 体格 実績 権力 そして実力差

どれをとっても劣る所が見当たらない。

 

そもそも 女性が男性を出し抜く例はざらにある。性別などというのはハンデにはならない とグスは確信していた。

 

 

『ではただ今より、先鋒戦を始めたいと思います!!! 両者 元の位置へ!!!』

 

2人は距離をとった。

これから 先輩後輩などというものは一切無関係の試合が始まるという確信だけが両者の共通に感じていた事だった。

 

 

二人の間にレフェリーの人間が歩き寄って来た。

 

「武器 そして魔法の使用を認めます。

どちらかが負けを認めるか、動けなくなった時点で試合は終了します。

よろしいですね?」

 

返事の代わりに2人は頷いた。

 

「両者 下がって!!」

 

2人は位置に着いた。

いよいよ 公式戦の幕開けの時だ。

 

『それでは公式戦 第1試合

始めてください!!!!』

 

 

(……あんなガキ、しつこくいたぶってもアタシの評価が下がるだけか………)

 

そう思考を巡らせたグスがとった行動は、

 

 

地面を全力で蹴る事だった。

 

『行ったァーーーー!!!!

グス・オーガン いきなり一直線に突っ込んでいく!!!!

 

対してファン選手は全く動きを見せない!!!!』

 

(……舐めた真似を………

いいじゃないか。 このまま格の違いを………………

 

!!!?)

『こ、これは━━━━━━━━━━━』

 

 

グスの足元が揺らいだ。

見てみると、ファンが視界から消えていた。

 

ファンはその体格差を利用し、身を屈めてグスの足元を掬ったのだ。

 

『グス選手 いきなりつんのめる!!!!

決まるか!!!?』

 

こんな下級生に転ばされるなんて冗談じゃない と言わんばかりに踏みとどまり、ファンに振り向きざまに拳を振るった。

 

ガシッ!! 「!!?」

 

今度は顎に感触が走った。

両手で顎を掴まれたのだ。

 

そのまま身体が宙を舞った。

 

「オアッ!!!?」

 

ズドォン!!!! 「!!!!」

グスは頭から地面に叩きつけられた。

脳に未体験の衝撃が迸る。

 

『な、何が起きているんでしょうか!!?

あの女の巨漢 グス・オーガンが まるで魔法で操られているかのようです!!!!』

 

(こ、これはまさか…………!!!)

 

 

混濁する意識の中でグスは1つの思考を巡らせた。

 

「あれってまさか……」

「マーシャルアーツ?」

「あの 弱小の?」

 

マーシャルアーツ

魔法と対局をなす格闘術

パリム学園の生徒 特にグス達はそれが魔法には劣るものであると決めつけていた。

 

(…よし、ここから!!)

 

ファンの攻撃は止まらない。

倒れているグスをうつ伏せにし、その肩にまたがった。そして右手首を掴み、そのまま上に上げる。

 

 

「アギッ!!? アガガッッ………!!!!」

「よし! 決まった!!」

 

 

『き、決まったァ!!!!

信じられない光景です!! これぞまさに下克上!!! グス・オーガンが下級生に完全に下された!!!!』

 

この世界には、脱出が出来ない技 つまりかけられたらギブアップしかない技が存在する。

今ファンは、あと少しでも体重を後ろにかければ上級生の関節を破壊できる状況下にある。

 

「し、勝負あ━━━━━━━━━━

 

「!!!!?」」

 

グスは突如 片手を地面に着けた。そこに力が加わっていく。

 

そのまま身体はファンを乗せて浮かんでいく。最終的にファンを乗せたまま片手倒立をやってのけた。

 

「………オラァッッ!!!」 「!!!!」

 

グスは力任せに腕を振るった。ファンは吹き飛び、空中で隙だらけになる。

 

 

━━━━━━━━━━そして、

 

ズドォッッ!!!!! 「!!!!!」

 

ファンの顔面にグスの拳が炸裂した。


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