「…………蔓……!!?」
アリスの注意はロイドフの背中から生えている奇妙な蔓に集中していた。
『それでは公式戦 次鋒戦
始めてください!!!!』
「………最初に言っておこう。
君は僕には勝てない。」 「!!?」
シュパッ!!!! 「!!!?」
その言葉を言い終わった直後、アリスの鼻先に何かが飛んできた。
咄嗟の判断でそれを横に跳んで回避する。
「…………!!? 蔓!!!?」
アリスの視線の先にあったのは、植物特有の光沢を纏った緑色の球体と、そこに繋がれていたひも状の物体だった。
それを蔓 以外の何物にも形容できなかった。
空中で何とか姿勢を立て直し、着地に成功してアリスはロイドフと向かい合った。
「……エクス・レイン
彼と特訓したって話は本当だったらしいね。
僕の初撃を躱したのは、
(………あの人……!?)
彼の言う《あの人》とは、彼らを束ねているラドラ だろうと結論付けた。
「ご褒美に、後ろのヤツを見せてあげよう。」
「……………………………… !!!?」
ロイドフの背後から奇妙な風体をした植物が現れた。
その植物の大部分はウツボカズラのようにずんぐりとしており、口にはおぞましい牙が無数に生えていた。
下側には足のように無数の根が生えており、翼まで生えているその姿はまるで植物のようには見えなかった。
「嘘だろ!!?」
「あれってまさか!!」
「なんであれが!!?」
その異形の姿を見るや否や、観客席からはどよめきの声が響いた。
哲郎はその理由を理解できなかった。
「…………?」
「まさかあれを手にしていたとは………
…………まずいな。」
「まずい!? そんなに危険な物なんですか!!?」
「……そうだ。
名を《ヘルヘイム》という。」
「………ヘルヘイム………!!?」
哲郎はその名前になみなみならない物を感じた。
「……あれはまだ下等種の幼体だが、それでも攻略は厄介だぞ。」
「下等種?」
「……そうだな。
人間で例えるなら、あれは俺達から見た猿のようなものだ。 あの種族が進化した人間体が、ある組織の幹部を担っているという話もあるくらいだ。」
哲郎は再び試合会場に視線を送った。
あのずんぐりとしたなんとも名状し難い植物に本当にそれほどの危険度があるのか 未だに半信半疑だった。
「ラドラの事だ。間違いなくヘルヘイムを完全な管理の下 育て上げたのだろう。
それにロイドフ・ラミン やつの植物飼育の技術の高さはプロを含めてもかなり高い水準にあると聞く。」
「しかし何でしょう あの余裕満々の顔は?」
「それはヤツの《習性》 故だろうな。」
「習性?」
***
「どうしたんだい? 全然 来ないじゃないか。この《ヘルヘイム》が怖いのかい?
もう分かっただろう? 僕はあの筋力しか能がない単細胞とは違う。
ましてや君と僕との実力差は歴然。
今ならまだ遅くはない。
降参を━━━━━━━━━━━━」
その言葉が言い終わる前にアリスは地面を蹴り、ロイドフに向かっていった。
しかしその姿勢が崩れた。
「!!!?」
咄嗟に見ると、脚に蔓が巻きついていた。
いつの間に巻き付かれたのかという疑念が頭をよぎるよりも早く、その身体は宙を舞った。
ズドォン!!!! 「!!!?」
アリスは地面に叩きつけられた。
「何だ!? 何をしたんだ!!?」
「見ただろう。あれがヤツの習性だ。
ヤツは植物だから自我は持たない。ただし、《人間の攻撃の意思》に反応して対象を攻撃したり、場合によっては 捕食することもある。」
「攻撃の意思!!?」
「そうだ。 早い話、あの習性をどうにかしないとあいつに勝機はない。」
***
「…………!!!」
『土煙の中らアリス選手、再び立ち上がりました!!!
その目には、未だに闘志が失われていません!!!!』
「今ので分かっただろう? 僕はこのヘルヘイムをちゃんと育て上げたんだ。
【攻撃しようとした者を場外に落とせ】と躾てね。
そして、僕が植物を武器に使う事しかできない凡才だと思っているならそれもまた命取りだよ。」 「!!?」
その突如、ロイドフは地面を蹴り アリスに向かって仕掛けた。その予想外の行動にアリスは一瞬 たじろぐ。
その隙をついてアリスの手首を掴み、捻って姿勢を崩した。
ドゴッ!!! 「うぐっ!!?」
アリスは地面に叩きつけられ、完全に組み伏せられた。
『こ、これは信じられない光景です!!!
あの ラドラ寮のロイドフ選手の身体から、マーシャルアーツが飛び出しました!!!』
「……驚いたかい? 言っておくけど僕はマーシャルアーツが下等だというあの人の考えた方を否定してるわけじゃない。
だけど、僕のような人間なら優秀な武器になることは認められている!!
さぁ、おしゃべりはここまでだよ。
降参するんだ アリス・インセンス君!!!」