「……あれって………プロテンアロエ だよね………?」
「近所の市場で売ってるの見た事あるぞ?」
「あれであんな事できるのかよ………!!」
観客席も目の前で起きている光景に動揺し、あちこちからどよめきが起こっていた。
そして、哲郎も心の中でとはいえ動揺を見せていた。
アリスが今使っている技が自分も得意としていた物だったからだ。そしてその技を見舞ったゼースも決して弱いわけではなかった。
仮にまた立ち合うことがあったとして、楽に勝てる保証はない。
それだけの技をいとも簡単に返しているこの光景に肝を抜かれていた。
そして、ロイドフの身体は遂に地面と垂直になった。
『つ、遂にアリス選手の寝技を切り返し、ロイドフ選手 立ち上がったァーーーー!!!!』
「………………!!!!」
アリスはロイドフの肩の上で呆然としていた。自分の切り札の1つだと自負していた技をいとも簡単に返されてしまった事実は彼女の心に少なからずダメージを残した。
いくらプロテンアロエという補助を使っていても、それの基盤となっているのはロイドフ自身の脚力である。
これが
バッ!!! 「!!?」
アリスの身体は宙を舞った。
ロイドフが彼女を方に乗せたまま飛び上がったのだ。
当然 上半身の方が重いので、アリスを乗せたロイドフの身体は空中で姿勢を変え、アリスの頭が一番下になった。
(!!! まずい!!!!)
そう思った時には既にアリスは頭から地面に叩きつけられていた。
「!!!!! アリスさん!!!!」
哲郎はたまらず観客席の柵に乗り出した。
『き、決まったァーーー!!!!!
固め技を返されたロイドフ選手が、逆にアリス選手の寝技を返し、そして強烈な投げ技を見舞ったァーーーーーー!!!!!』
「頭から行ったよな…………!!?」
「死んだんじゃないのか…………!!?」
「おい誰か!! 医者を呼んでこい!!!!」
『さぁ勝負が付いてしまったか!!?
先鋒戦で我々は
アリス選手は、ロイドフ・ラミンという圧倒的な力に屈してしまったか━━━━━━━
い、いや!!!!』 「!!!!?」
ロイドフも咄嗟に振り返った。そして、その目を疑った。
アリスが息を切らしながらも立っていた。
『た、立っているぅーーーーーー!!!!
なんとアリス・インセンス!! あの絶体絶命の状況から奇跡の生還だァーーーー!!!!』
「バ、バカな…………!!!!
…………!!?」
驚愕の後でロイドフの視線は彼女の両手に移動した。その手が赤く腫れていた。
「ま、まさか!!」
「えぇ。 何とか受身が間に合いました!!」
アリスは頭から激突する直前で両手を後頭部に回してクッションにし、難を逃れたのだ。
しかし、自身とロイドフの全体重を受けた両手が無事で済む筈がない。
窮地に陥っていることに 変わりは無かった。
「よ、良かった……………!!!」
目の前で友人の命が失われたのではないか という不安が払拭され、哲郎はたまらず胸を撫で下ろした。
「何が『良かった』だ。
少しは彼女の実力を信じたらどうだ?」
「!? じゃあ何ですか?
彼女が受身を取ることを予測してたって言うんですか!!?」
「当然だ。 誰があいつを鍛えたと思っている。」 「!!」
哲郎はその言葉ではっとさせられた。
ファンとアリスの二人を鍛えたのはこのエクスであり、彼は二人の成長も実力も理解しているはずだと 再確認した。
「……すみません。
少し熱くなってしまって。」
「構うな。」
***
『さぁ 両者再び向かい合った!!
一瞬 目をそらすことも許されない緊迫の展開が続くこの一戦!!!
ここから果たしてどのような展開を見せるのか!!?』
しばし見合った直後、ロイドフの背後から2つの紐がアリス目掛けて飛んで行った。
彼の使役する ヘルヘイム の蔓である。
「ッッ!!!」
ガッ!! ガッ!!!
「!!?」
飛んできた蔓をアリスは両脇に挟んで固定した。
『つ、掴んだ!! ロイドフ選手の秘密兵器 ヘルヘイムの動きが封じられた!!!』
それでも構わずヘルヘイムの蔓はアリスの二の腕に巻きついて締め上げる。
「ッッ………!!!」
既に負傷した腕に鈍痛が走るが、構わずにアリスは身体を振るった。
「ヤアァッッ!!!!!」 ブチンッッ!!!!!
「!!!! 何ッ!!?」
アリスの回転に巻き込まれてヘルヘイムの両腕に当たる蔓が引きちぎれた。
『蔓がブっちれたァーーーー!!!!!』
ヘルヘイムの両腕がだらりと情けなく垂れるのをロイドフは呆然として見ていた。
「……私も
蔓などの再生には最低でも数時間は掛かるってこともね!
その【武器】はもう使い物にはなりません!!!」