「……………何だって…………!!!?」
哲郎は自分の耳を疑った。
もし 間違いがないのならば彼、ロイドフは今『起きて戦え』と言ったはずだからだ。
平気で下級生をいじめるような人間の口からは到底 聞こえるはずのない言葉だった。
哲郎と同様に 会場にも戸惑いとざわめきが起こっている。
『き、驚愕の一言が飛び出したッッ!!!!
何と、起きて戦えと!!!
下級生を相手取り、正々堂々と決着をつけるつもりなのか!!? ロイドフ・ラミン!!!!』
実況の言葉か、あるいは会場のどよめきか もしくはその両方か。
とにかくそのいずれかによってアリスは意識を取り戻した。そして、その身体を地面と垂直にした。
『た、立ち上がったァーーーーー!!!!
アリス・インセンス!!! まるで 我々の期待に応えんとばかりに立ち上がってくれました!!!!
一瞬も目が離せない展開が続くこの次鋒戦も遂に最終局面を迎えるのか!!!?』
アリスは会場の期待に身構えることによって応えた。この2週間 エクスに骨の髄まで叩き込まれた兵士が素手で闘うための構えである。
一方のロイドフも臨戦態勢に入った。
両腕両足に件の プロテンアロエを巻き、その手首からは無数の蔓が伸びている。
「………信じていた。必ず起き上がってくれると。」
「…………………」
「約束は守る。
君が勝ったら、僕は、
『さぁ 両者動きません!!
ある意味ではパリム学園のこれからがかかっていると言っても過言ではないこの一戦!!!
最後に立っているのは、果たしてどちから!!!?』
この公式戦のルールは【殺害以外の全てを認める。どちからが敗北を認めるか、動けなくなるまで続く。】というものである。
つまり、殺さなければ武器だろうも魔法だろうと使っても良いということだ。
丸腰のアリスに対し、ロイドフは【ヘルヘイム】や【プロテンアロエ】等の植物を多用している。それでも会場にいる全員がそのハンデを肯定している。
その逆境の中でアリスに残された選択肢は1つしか無かった。
「はああああああああッッッ!!!!!」
アリスが全力で地面を蹴り、ロイドフとの距離を詰める。対するロイドフはそれを読んでいたかのように蔓を鞭の要領で振るった。
バチィン!!!! 「!!!!!」
しなやかかつ強固な鞭がアリスの左腕を直撃した。2人分の体重とヘルヘイムの蔓の締め上げを食らっている腕に追い討ちの如く炸裂したその衝撃は彼女の腕を完全に破壊してしまった。
それでもアリスは止まらず、遂に間合いに入った。
アリスは負傷した腕は使わず、残っていた両脚を武器に使ってロイドフに渾身の蹴りを何度を見舞った。
脚には腕の3倍から4倍の力が備わっていると言われている。加えて射程も上となれば、それを使わない手は無かった。
『こ、こんな打撃戦は前代未聞です!!!
アリス・インセンス!! まるで花園に舞う蜂のように、ロイドフ選手の身体にその蹴りを突き刺している!!!!』
エクス直伝の蹴りは確実にロイドフの体力を削っていった。ロイドフも腕や蔓を最大限に活用してその蹴りを捌いているが、遂に決定打が放たれた。
(!!! そこだッッッ!!!!!)
アリスは一瞬見えた右腕の関節に出来た隙を見逃さず、そこに蹴りを突き刺した。
けたたましい音が響いてロイドフの右腕があらぬ方向に曲がってしまった。
(よし!!! 次に━━━━━━━━━━━━)
アリスは脚を構え、ガードできなくなった右のこめかみにつま先を突き刺そうと構えた。
「 !!!! 止せ!!!!」
そう叫んだのはエクスだったが、当時のアリスの耳には入らなかった。
「!!!?」
突如、アリスの姿勢が崩れた。咄嗟に見ると、蹴り足とは逆の脚が蔓に巻き付かれ取られていた。
それは、ロイドフの右手から伸びていた蔓だった。
「…………………フフ」「!!!!」
「見誤ったな。アリス・インセンス。
この勝負、
僕の勝ちだ!!!!!」 「!!!!!」
負傷した右腕の手首を左手首で掴み、両腕の力を使ってアリスを全力で投げ飛ばした。
アリスの身体は一直線に吹き飛び、そしてそのまま試合会場を飛び越えてしまった。
『こ、これは━━━━━━━━━━!!!!!』
「じ、場外!! 場外!!!
勝負あり!!!!!」
あまりに突然の幕切れに、会場は戸惑いを隠せなかった。
『決着ゥゥゥーーーーーー!!!!
アリス・インセンス 公式戦に散る!!!
勝ったのはロイドフ選手だァーーーーー!!!!!』
「場外!!? 馬鹿な!!!
そんなこと一言も━━━━━━━━━━」
「いや、間違いはない。公式戦だけでなく、パリム学園の全ての試合では場外負けが設定されている。
今更 言う必要も無いという判断だろう。
それに、この試合はロイドフの完全勝利だ。
あの一瞬、自分の右手を餌にしてアリスの隙を作った。その【覚悟】が勝敗を分けたんだ。」
「…………………………!!!!!」
哲郎も言う言葉が見つからなかった。
予期していない事態になったからだ。