異世界に適応する少年   作:Yuukiaway

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#58 Iron fist

「…………すみません!!!!」

控え室

アリスは悲痛な思いの中、哲郎とファンに頭を下げた。

 

「いえいえ!謝ることはありませんよ!

あなたが精一杯頑張ったのは僕らが1番よく知ってますから。

第一、上級生相手にあそこまで頑張れただけで十分 御の字でしょう!」

「……………そうですけど、しかし…………!!!」

 

哲郎にはアリスが何故ここまで気負いしているのか理解出来ていた。

先鋒戦でファンが限界寸前まで死力を尽くして勝利をもぎ取ったのに対し、アリスはまだ余力が残っているにも関わらず【場外負け】という不甲斐ない結果で惨敗したからだ。

 

「………大丈夫です。

僕は必ず勝ちます。そして、このパリム学園を救ってみせます。そのためにここに来たんですから。」

 

哲郎はせめて彼女の心が少しでも楽になればいいと思ってその手をとって語りかけた。

 

「……………ありがとうございます。」

「では、行ってきます。」

 

哲郎は控え室を後にして試合会場(戦場)へと歩を進める。

彼の中には2人の人間 《田中哲郎》と《マキム・ナーダ》の2人分の使命感が混在していた。

 

 

***

 

 

『急展開に続く急展開!

この公式戦、いよいよ結末が読めなくなって参りました!!!

両組共に一勝一敗!!泣いても笑ってもこれが最後の試合!!!

この一線で、全てが決します!!!

それがこのパリム学園のこれからを決するのは、決定づけられた運命なのです!!!!』

 

そのはきはきとした宣言と共に会場が熱狂に包まれた。彼らの注目はこの大将戦に集中していた。

 

『それではただ今より、大将戦を始めたいと思います!!!!!』

 

哲郎改めマキム・ナーダは相手と向かい合った。

アイズン・ゴールディ

 

向かい合って改めて分かるのは、その表情が慢心で構成された下卑た笑顔に汚されているということだ。

 

「こいつがオレの相手だァ!!?笑わせんな!!!

おい!! くたばりたくなかったら さっさと降参するんだな!!!!」

 

哲郎はその罵声に反応しなかった。するとアイズンが歩きよって至近距離で睨みをふっかけてくる。

 

「………チョーシに乗んなよ ガキが。

これ以上オレを怒らせると腕の骨をここに置いていくことになるぞ?」

 

「………今僕に手を出すと、ルール違反で失格になりますよ?」 「!!!!」

 

哲郎は冷静さを崩さず 淡々とした口調でそう言い放った。アイズンもたじろいだがすぐに冷静さを取り戻し、元の位置に戻る。

 

「武器 そして魔法の使用を認めます。

どちらかが負けを認めるか、動けなくなった時点で試合は終了します。」

 

2人の間に立ったレフェリーの発言が試合開始の合図の前座だった。

 

「両者 下がって!」

 

哲郎はアイズンと距離をとった。

これから起こる結果が全てパリム学園の将来に反映されるのだ。

 

『それでは大将戦

始めて下さい!!!!!』

 

(…………まずは様子を……………

!!!!?)

 

その瞬間、哲郎は瞬時に嫌な予感を察した。

 

ズドォン!!!!! 「!!!!!」

 

直後、哲郎の腹に硬い何かが直撃する。

 

(………………!!!? な、何だ…………!!!!?)

 

哲郎はかろうじて冷静に攻撃してきた何かの正体を確認した。

 

(………!!? 鉄柱!!?

…………そうだ!! 思い出したぞ!!!!)

 

瞬時に鉄柱が攻撃してきたことを理解し、そして彼が鉄柱を具現化する魔法を扱うことを思い出し、それが地面から生えてきたのだということを理解した。

 

腹へのダメージはすぐには《適応》出来ず、哲郎はそのまま地面に落ちた。

 

『 き 決まったァーーーーーー!!!!!

強烈な先制攻撃!!! アイズン選手の固有魔法 《鋼鉄之拳(アイアン・フィスト)》が炸裂したァーーーーーーーー!!!!!』

 

哲郎の腹のダメージはほとんど適応していたが、すぐには立ち上がらず 苦しむふりをして出方を伺うことにした。

 

『ダメージは決定的か!!?

マキム選手、立ち上がれない!!!!』

 

「…………こんなもんかよ。呆気ねぇな。」

 

思った通り、アイズンは自分がダメージを負って立てないと思い込んでいる。

このまま油断を誘っていればいずれ 攻撃の機会はやってくるだろう。

 

「…………終わらせるか。」

 

アイズンは悠々と哲郎に近づき、手の平をかざした。そこに小規模だが魔法陣が浮かび上がる。

 

(手の平(あそこ)から魔法か!!)

 

頭の所を狙って放たれた鉄柱を身を翻して躱す。

 

『マ、マキム選手 かろうじて難を逃れた!!!』

 

 

***

 

 

観客席

ファンとアリスが哲郎の試合を見ていた。

 

「テ、テツロウさん 何をやってるんだ!!?

あの時はお兄様と張り合っていたのに!!!」

「ま、まさか手を抜いてるんじゃ……!!!」

 

「そんなはずが無いだろう。」

「「!!! お兄様!!」エクス寮長!!」

 

「あの男、アイズンは戦いにおいては玄人だ。今は舐めてかかっているが、ひとたびやつの実力を知れば 勝率は遥かに落ちるだろう。

だからやつが狙っているのは

 

【一撃での必殺】だ!!!」


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