異世界に適応する少年   作:Yuukiaway

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ラドラ寮 全面衝突 編
#65 The courage to be warrior


公式戦から一週間

哲郎は依頼料から少し使って格安の宿で骨を休めていた。

 

「……でね、はい。

 

あーそうそう そんなこともありましたよ。

 

……だから僕ね、その時 みんなの前で心をへし折ってやったんですよ。 そう。 もう二度といじめをする気を起こさないためにね。

 

……だって そうでしょ? こっそり再犯でもやられたら元も子も無いでしょ?」

 

今は宿の公衆電話でノアに依頼を滞りなくこなした事を報告していた。

 

「……えー はいはい。

 

……あぁ。 もう電話料金が切れそうです。

じゃあ続きはまた後ほど。 それでは。」

 

哲郎は受話器を置いた。

 

(……さて、そろそろ支度しないとな。)

 

哲郎は宿の一室に戻った。

ひとつの部屋にトイレと台所、そしてベッドが備え付けてある簡素な部屋だ。

 

(………ここで過ごして もう依頼料の半分くらい使っちゃったな。

……まぁ魔界コロシアムの賞金も残ってるし、初めはこれくらいいいでしょ。)

 

哲郎は学校の調理実習では食器の容易や洗い物を請け負い、調理は他の生徒に任せ切りだった。 つまるところ、家事の類はずぶの素人なのだ。

 

次にここで身につけなければならないのは家事力かもしれない と考えながら、リュック1つ分の荷物をまとめた。

 

 

***

 

 

「……では一週間、お世話になりました。」

「……こちらこそありがとうございました。

またのご利用 お待ちしております。」

 

哲郎は受付に鍵を返し、宿を後にした。

止まった部屋こそ簡素だが、温泉も食堂も完備されている かなり快適な生活が出来た と心の中で感謝の気持ちを送った。

 

「………さて、行くか!」

 

哲郎は脇目も振らずに歩を進める。

目的地はとうに決めていた。

 

 

***

 

 

哲郎は目的地に着いた。

エクスの自宅である。

 

「……なんだ もう来たのか。

まだ3日も後の事だぞ?」

「ええ。 もう十分休みました。

それにあのままじゃ 貯金が底をついてしまいますよ。」

 

あの時 全校生徒に自分の正体を明かしたことで、パリム学園に出入りする資格を失ってしまった。 もっとも依頼を完遂した今は必要ないが、これからを考えると少しばかり不便になる と漠然と思った。

 

「まぁ こんな玄関で立ち話もなんだ。

話は中に入ってやろう。」

「はい。」

 

 

***

 

 

「ここには1人で住んでるんですか?」

「そうだな。 親とは離れて暮らしている。

言うならここは俺一人が仕事をするための家と言うべきだな。」

 

哲郎はリビングのような部屋に案内された。

 

「……確認するが、お前が請けた依頼は《いじめ問題の解決》だったよな?」

「はい。 既に依頼料も貰って完遂しています。」

 

「そうか。 だったら何故 今になっても俺に協力することを承諾した?

俺は依頼こそしたが、お前は断ることも出来たはずだぞ?」

「確かにそうですね。

 

……そうですね。 理由があるとすれば、『この学園を放っておけないから』ですかね?」

「……放っておけない?」

 

「ええ。 それから、『自分のやった事を無駄にしたくない』ってのもありますね。」

「それは どういうことだ?」

 

「……僕は、このパリム学園で苦しんでいる生徒がたくさん居る事を知らされました。

例え あの3人を止めたとしても、他から問題が出てきては意味が無いでしょ?

 

だったらせめて 今目の前にある危険だけでも止めておきたい とそう思うんですよ。」

 

哲郎の話をエクスは口を結んで聞いていた。

 

「……テツロウ・タナカ。

俺から言うことは一つだけだ。

 

はっきり言って、お前は《無謀》だ。

だが、それでいてとても真っ直ぐで輝いている。

 

しかし、力のない正義などは無力で虚しいだけだ。 ならば 俺に貢献して、それがはったりでないと証明してみせろ。」

「もちろん そのつもりです。」

 

 

***

 

 

「ラドラ様、 あの敗走した3人の処遇、如何致しますか?」

「今更 何もする必要は無い。 兵力の無駄だ。」

 

ラドラ・マリオネス

アイズン達を配下につけたパリム学園の寮長の1人である。

 

「それよりも皆に伝えろ。 時間はいくらあっても足りない。

作戦実行までもう3日しか無いんだぞ。」


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