「……………………!!!」
哲郎の呼吸器は 目の前の男によって作られた謎の水中空間に適応していき、その中にあった酸素を取り込めるようになって行った。
そして眼球も同様に視界がだんだんと聡明になり、目の前の男の様子もはっきりと見れるようになった。
(…………魚人………!?)
その男の肌は薄い灰色に染まっており、 背中には背びれとしか判断できない物が付いていた。
『………どうやらその顔、俺が魚人であることに気づいたようだな?
そしてここは俺の魔法で作られた仮の水中。
俺はあらゆるものをドロドロに液状化させ、その下に水中を作ることが出来る魔法を持つんだ。』
「………そんなにペラペラと自分の力を喋って大丈夫なんですか?」
哲郎はこの得体の知れない男への恐怖心を何とか押さえ込んで口を開いた。
『分かってないようだな。
俺がこうして話せるのはお前に勝てる可能性が100%あるって事だろうが。
それに何より、
俺の強さは魔法に無い。』 「!?」
哲郎の心の奥には恐怖が滲み出ていた。
不気味な余裕さや得体の知れない何かをひしひしと感じ、足が引きそうになる。
それを何とか堪え、 先制攻撃に転じた。
(……ここが水中なら、
魚人波掌 《
バァン!!!!!
(よし!! 出た!!!)
哲郎は身体を振るって何も無い所、水中を叩いた。 その衝撃が水中を伝って巨大化して向かっていく。
魚人波掌 《
水中で魚人波掌を打つ事で周囲の水に衝撃を伝え、遠く離れた相手に攻撃する。
魚人武術だけでなく マーシャルアーツにおいても数少ない遠距離攻撃である。
本来、 魚人武術とは 魚人が水中で闘うために作り出された格闘術
だからこそこの状況は彼だけでなく自分にとっても 有利
バシンっ 「!!!」
その男、ハンマー と名乗る男は哲郎の放った衝撃を手のひらの動きだけでかき消してしまった。
「………………!!!」
『『水中は俺だけじゃなく自分にも有利な状況』だと考えたんだろうが、 そいつァぎゃくだぜ。 マキム・ナーダ。
お前が魚人武術を使ってアイズンをぶちのめしたってことは調べがついてる。 だから俺が来たんだよ。』
ハンマーは構えをとった。
それは正しく 哲郎が最も得意とする構えの1つ 【カジキの構え】だった。
「…………!!」
『もう分かったよな?
魚人武術の
魚人波掌 《
ハンマーは魚人波掌を目の前の水に叩き込んだ。 哲郎より大きな衝撃が目の前に迫って来る。
「うおっ!!!!」
哲郎は身体を捻って向かってくる巨大な衝撃波を何とか躱した。
後ろに視線を送ると彼の衝撃波がどんどん大きくなって水中をどこまでも駆けていった。
自分の《
「………………!!!」
哲郎は肝を抜かれた。
彼の言ったことは本当だった と理屈で考えるより先に直感した。
『おいおい どこを見てんだ?
マキム・ナーダ!!!』 「!!!!」
はっとして振り返ると、ハンマーがすぐそこまで迫っていた。 一瞬で距離を詰められた魚人の身体能力に驚く暇もなく、攻撃は襲って来る。
魚人波掌 《
「!!!!!」
哲郎も愛用する魚人波掌の連撃が向かってくる。 愛用する故にその威力は誰よりも理解していた。
この連撃をもろに受ける訳にはいかない と言わんばかりに哲郎は両手を振るい、 手をハンマーの手首に添えた。
魚人武術 《
「!!!」
哲郎は両手を巧みに操り、ハンマーの魚人波掌を全て捌いた。 反撃を予想したハンマーは後ろに飛んで哲郎と距離をとる。
魚人武術における 防御特化の技術
両手を川が流れるように動かして相手の攻撃を迎撃する。
熟練者となれば武器だけでなく、魔法の軌道を変えて防御することも可能となる。
『《
「それを僕が教えるとでも思いますか?!」
『………いや。 思っちゃいねぇよ。
いっぺん言ってみただけだ。
今度は重いの行くぜ。』 「!!!!」
ハンマーは再び【カジキの構え】をとった。
魚人波掌 《
「!!!!!」
その時哲郎は 明確に恐怖を覚えた。
地上で人間の身体を容易く破壊してしまう技が水中で放たれたら一体 どれほどの破壊力になるのか 最早 想像もできなかった。
「!!!!
哲郎は掌を水に打ち付けて衝撃を放ち、ハンマーの衝撃波を迎え撃った。
『そりゃ悪手だぜ。 マキム君。』 「!!!!」
哲郎の衝撃波を破壊してハンマーの衝撃波が哲郎の腹を直撃した。