異世界に適応する少年   作:Yuukiaway

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#7 The Salamander

「じゃあ僕は控え室に戻りますので。」

「……試合、見ていかないの?」

「大丈夫です。それに手の内を明かした相手を倒したところでさほど意味もありませんから。」

 

ミナに答えている哲郎にサラが口を挟む。

 

「あなた、レオルを見下してるなら痛い目見るわよ。」

「とんでもない。僕は彼のことを見下してはいませんよ。ゼースも弱くはなかった。

彼の実力は計り知れない。それは十分に分かってます。それからあなたのこともね。」

「……そう。 ありがと。」

 

哲郎は2人に背を向けて控え室へと向かった。

 

 

***

 

 

哲郎は控え室へと歩いていく。既にレオルへの怒りに蓋をし、次の試合だけに集中していた。

 

「テツロウ選手、」

 

野太い男の声がして振り返った。

振り向いて哲郎は少し驚いた。そこに居たのは哲郎の身長の2倍、いやそれ以上の体躯を持つ大男だった。

年齢は40代から50代といったところか。

 

「あの、僕に何か………」

「私の名はエティー・アームストロング。

Bブロック出場の選手だ。

先程のレオルに対する君の勇敢な行動、見させてもらった。」

 

そのエティーと名乗る男は哲郎に手を差し出した。

 

「あ……ありがとうございます。」

 

哲郎は彼の握手に応じた。

 

「これはこれは。

さっきまであんな確執があったというのに私に応じてくれるとは、礼を言うぞ。」

 

大男は大げさな反応で哲郎の手を握り返した。 大げさだ それとも自分が心も子供だと思われていたのか。

いや、それも仕方ないことかもしれない。

 

 

「そこにいるもの、テツロウ・タナカとエティー・アームストロングだな。」

 

2人に話しかけてくる者がいた。

「あ、あなたは」

 

その者はさっきのAブロック出場の選手、ノア・シェヘラザードだった。

 

「俺も見させてもらったぞ。お前の勇気ある行動をな。そして心を打たれた。

このラグナロクにおいて、ましてや貴族()に命の尊さを説くお前をな。」

「あ、ありがとうございます。」

 

哲郎は戸惑いながらと礼を言った。

勇敢というよりかは反射的に体が動いただけなのだが。しかし後悔はない。哲郎はあのレオルを許す訳にはいかなかった。

 

 

「ノア選手、エティー選手、テツロウ選手、ここにおられましたか。」

 

3人に1人の役員が駆け寄ってきた。

 

「どうしました?」

「まもなく Dブロックから始まりますので、みなさんにもご報告を。」

「Dブロック?Cブロックはもう終わったんですか?」

「えぇ。残りの試合は全て秒殺でした。」

「そうですか……それで、レオル選手は?」

 

「もちろん 2回戦に進出しました。」

「そうですか………」

 

哲郎は腹を括った。いよいよ退路が無くなったのだ。

 

「それで、僕の2回戦の相手は誰か分かりますか?」

「ホキヨク・ツキノワという、獣人族の選手です。」

 

つまり、次の試合に勝てばレオルと真っ向からぶつかることになる。

そのホキヨクという男を見下すつもりは無いが、レオルの踏み台にさせてもらおうと哲郎は思った。

 

 

***

 

 

「やっぱり見ることにしたの?」

「えぇ。コンディションは既に整いました。」

 

哲郎は試合を控えたサラのそばにいた。

これから起こるサラの試合を見ることにしたのだ。

 

「手の内が見たいと言うなら悪いけど、きっと何も得られないわよ。すぐに終わるでしょうから。」

「…………」

 

サラのこの自信を慢心と捉えたのか、哲郎は何も答えない。

 

「…テツロウ、お姉ちゃんのこれは慢心じゃないよ。お姉ちゃんは前の大会でも勝ってきたんだから。」

「ミナ。その辺にしときなさい。」

 

「サラ・ブラース選手、まもなく試合開始です。」

「わかったわ。 それじゃぁね。」

 

レフェリーに促されてサラは試合会場に向かっていった。

 

 

***

 

 

『さぁさぁ皆様。この魔界コロシアムも盛り上がって参りました。ただ今より、Dブロックを始めたいと思います。』

 

哲郎が盛り上げたCブロックの盛り上がりがさらに大きくなる。

 

『片や 騎士を目指し 鍛錬を積んでこの魔界コロシアルに挑む剣士、

パラル・オーナァァッッ!!!!』

 

パラル・オーナ

銀の短髪に鎧と剣を装備した選手だった。

 

『片や 前大会に引き続き今大会でも勝ち残ると宣言した 魔法使いの天才少女、

サラ・ブラースゥゥッッ!!!!!』

 

哲郎やあのパラルとは比べ物にならないほどの大歓声が沸き起こる。

彼女、それほど人気なのかと哲郎は感じた。

 

 

『殺害 以外の全てを認めます。

両者構えて、

 

 

始めェ!!!!!』

 

試合開始と共に観客達の興奮も最高潮になった。

 

『おおっとパラル選手、剣を構え、サラ選手に詰め寄る。

果たしてこれにサラ選手はどう応える!!?』

 

哲郎達が緊張に包まれる中、試合は唐突に動いた。

 

『パラル選手が先に仕掛けた!!!

それに対しサラ選手はまだ動きを見せない!! どうする!!?』

 

ノーガードも構わず騎士の男は剣を振り下ろす。 しかし、

 

ガッ 「!!!!?」

 

『な、何とサラ選手、片手で剣を受けた!!!』

 

間髪入れずサラはパラルの腹に手をかざす。

 

「惜しかったわね。 まぁ、これがあなたの実力ってわけよ。

 

それじゃぁね。」

 

 

ドゴォン!!!!! 「!!!!!」

 

サラの手のひらから大爆発が起こった。

パラルは観客席まで吹き飛ばされる。

 

「レフェリーさん、確認を。」

 

振り向いたサラに促されてレフェリーが観客席まで走り、パラルの脈を確認する。

 

「命に別状ありません。

サラ選手の勝利です!!!」

 

観客席から大歓声が巻き起こり、サラもそれに答えんと高々に両手を上げた。

 

『サ、サラ・ブラース恐るべしぃー!!!!

Cブロックに引き続き秒殺で試合を決め、2回戦進出を決めました!!!!!』

 

あまりのことに哲郎も愕然としていた。

自分もこんな人達と戦うのかと考えると、自分でも気づかないほど心の奥に一抹の不安が芽生えた。


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