「……何か分かった事はあるか?」
「ええ。 彼が決して内通者などでは無いという事と、彼らの言っている事が紛れもない事実だということが分かりました。」
哲郎は来た廊下を戻っていた。
「それから あとしばらくしたらここに俺を含めた突入班が集まる手筈になっている。
ファンとアリスにも声をかけてある。」
「分かりました。
僕もマキムの格好で立ち会った方が良いですかね?」
「いや そのままで良い。
お前は【テツロウ・タナカ】として戦力に迎え入れる。」
***
「言いたいことは多々あるが、まずは俺の独断に付いて来てくれる事に心から礼を言いたい。」
居間のような部屋にエクスを囲んで数人の人間が集められていた。
そこには哲郎はもちろんの事、ファンとアリスも居る。
そして見知らぬ顔が3人程いた。
3人とも細身で切れのある顔つきをしており、その表情からはありありと真剣さが伺える。
「………君がテツロウ・タナカか。」
「!」
その3人の中で1番身長の高い男が哲郎に話しかけた。
「あ、はい。 僕がそうです。」
「君の魔界コロシアム及びエクス様との手合わせ、そして公式戦での活躍はかねがね聞いている。
私はエクス様の親衛隊を務めている ミゲル・マックイーンと言う者だ。
私の隣にいるのがトムソン・ハベル そしてその隣がエルコム・ダーリ だ。
よろしく頼む。」
「こ、こちらこそよろしくお願いします。」
ミゲルはその硬い表情からは想像もできないほど柔らかい物腰で哲郎に挨拶をした。
「あの、エクスさん?
それで 親衛隊というのは一体…………」
「深く気にする必要は無い。
あいつらが自分たちのことをそう言ってるだけでそんなことは思っていない。
あいつらはただの部下だ。」
哲郎はエクスの返答を聞いて頷き、再びミゲルに話しかけた。
「あの、ミゲルさんと呼べば良いでしょうか?」
「うむ。 どうかしたか?」
「エクスさんから聞いたのですが、前に侵入したバウラールとガイマムと言う人も、あなたの言う親衛隊の人間だったんですか?」
「!!! ……………そうだな。
彼らは親衛隊の中の侵入班として駆り出された。 その時 捕らえられた隊員を救出することもこの作戦の1つだ。」
「…………なるほど。 分かりました。」
「もういいか?
早く本題に入りたいのだが。」
「ああ。 すみません。」
エクスに呼びかけられて哲郎は振り返った。
「……これが作戦のあらましだ。
もう一度言うが 俺たちは少数で突入する。 この中の1人でも欠けようものなら 簡単に作戦が瓦解しかねないということを自覚して貰いたい。」
その場にいる哲郎を含めた全員が彼の話を鬼気迫る表情で聞き入っていた。 哲郎もまたその一員としての自覚を持たねばならないと自分に強く言い聞かせた。
「この後に 各々と個別で話したいことがある。 それからその前にこいつを渡しておく。」
そう言ってエクスが懐から取り出したのは透明な大きめのビー玉のような物体だった。
「……なんですか それは?」
「こいつには魔力が込められて、三つの用途に使うことが出来る。」
哲郎が聞いた説明を要約すると以下の通りである。
・魔力を媒体とした通話
・鎖程度を断ち切れる程の衝撃波
・照明程度の発光
「そしてこれは個人の証明の意味も兼ねている。 これを持っていれば、たとえヤツらが俺たちに変装しようとも、俺たちは俺たちを区別できる。」
***
エクスが哲郎達に作戦を説明するのと同じ時に、彼の部屋の天井裏に一人の男が潜入していた。
「もしもし? 潜入に成功しましたぜ。
しっかしザルにも程がありますぜ。 屋根に俺の魔力流し込んでやったらすぐに空いちまってよォ。」
『油断をするな 無駄口を叩くな。
そっちの状況だけを教えろ。』
「へいへい。
あー、エクスのやつがなんか人を集めてますね。 何を言ってるのかは分かりませんが、そん中にあいつら、公式戦で暴れやがったガキ共もいますよ。」
『テツロウ・タナカはその中にいるんだな?』
「間違いありません。
あのガキ 一番話に聞き入ってるみたいですぜ。」
『………そうか。 確認するが、催眠魔法は準備出来ているな?』
「馬鹿にしてもらっちゃ困ります
バッチリ用意できてますぜ。」
『なら問題は無い。 いいか。 奴を子供だと思って甘く見るな。 奴はマーシャルアーツに精通している。 1回しくじったら二度と機会は来ないと思え。』
「もちろん 分かってますぜ。
ヤツの口にこいつを押し当てて意識奪えば俺の魔法で秒でここまで拉致ってこれる。」
『今私は、お前には全幅の信頼を寄せている。 ではこれより作戦を第二段階に移す。
お前はテツロウ・タナカを拉致してこっちに戻って来い。
私も準備に取り掛かる。』