異世界に適応する少年   作:Yuukiaway

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#77 The Disappearance

「何、テツロウが消えただと!!!?」

 

哲郎が消えた

 

それはミゲルが確かに確認し、エクスに伝えた情報だった。

 

 

 

***

 

 

 

「……話はこれで以上だ。

後ほど 個々に詳しい話をするから、それぞれ部屋で待機していて貰いたい。」

 

エクスの言葉に全員が声を揃えて返事をした。

 

「それからミゲル、テツロウを部屋に案内しろ。 テツロウとは最初に一対一で話をするから、時間が来たら迎えに行ってくれ。」

「かしこまりました。」

 

そう言うとミゲルは哲郎を部屋に行くように促した。

 

 

 

***

 

 

 

「……あとこの廊下をまっすぐ進んだら部屋に着く。そこで待っていてくれ。」

「分かりました。

 

それで ミゲルさん。一つお話 良いでしょうか?」

「何だ?」

 

「潜入班が捕まった謎について、ミゲルさんの意見を聞きたいんですけど。」 「!!」

 

哲郎はそこまで言うと一瞬 間を置いて話を続ける。

 

「あなたも知ってるはずでしょうけど、エクスさんはそのラドラという男が人形魔法を持っていて、それを使って拉致したと推理しているんです。

ミゲルさんはどう考えていますか?」

「…………!!」

 

口ごもるミゲルに哲郎は話を続ける。

 

「言っておきますが 別にエクスさんに話を合わせていただく必要はありませんし、それに僕はエクスさんの推理が間違ってると決めつけている訳でもないです。

 

ただ、この段階で結論を急ぐのは危険だと考えているだけで、確かにガイマムさんとバウラールさんの証言も聞きましたけど、やはり決断はまだ早いと考えているんです。」

「………………………」

 

「それで、どうなんです?」

「…………確かに私も結論を出すのは早いと思っている。 だがそれでもエクス様の考えが間違っているとは思えない。 だから我々はラドラが人形魔法を持っている と結論づけると同時にそれ以外の可能性も視野に入れて作戦を立てているのだ。」

「そうですか。 それなら大丈夫です。」

 

「ちなみに言っておくが、ラドラの奴はパリム学園に来てから1度も固有魔法を見せていないのだ。 使ったのはとても高い精度の誰でも使える魔法だけで、素性もひた隠しにしてある。 だから我々も対策に苦戦しているのだ。」

「……なるほど。 肝に銘じておきます。」

 

そうしている間に哲郎は部屋に着いていた。

 

 

 

***

 

 

「準備が出来たらこちらから呼びに行く。

それまで待っていてくれ。」

「分かりました。」

 

哲郎が準備された部屋で考えていたのはエクスから渡された水晶のようなアイテムの事だった。

 

(………さて、まずこれをどうやって持ち運ぶか考えなくちゃな………………。)

 

これが無くとも戦いには支障は無いだろうが、それでも必要になる場面はあるかもしれないし、それにこれが無くなっては戦場で信用が無くなりかねない と哲郎は考えていたのだ。

 

ポケットに入れるという選択肢は真っ先に切って捨てた。 落とす危険性も高いし、何より万が一敵の手に捕まって没収されたりしたらそれこそ戦況を掻き乱されてしまうからだ。

 

(…………でも、それならどうする? どうやってこれを持ち運ぶ?)

 

 

その時 哲郎は身体のある場所(・・・・・・・)を見て、パリム学園で習ったある事(・・・)を思い出した。

 

 

 

***

 

 

 

哲郎が待機している時、潜入した男が哲郎の下(・・・・)に来ていた。

 

「報告します。 配置に着きました。

今ヤツの()にいます。」

『そうか。 もう一度言っておくがくれぐれもしめてかかれ。

しくじったら二度とチャンスが来ないばかりか、お前までハンマーの轍を踏む可能性もある。』

「もちろん分かってます。 手筈は完璧です。」

 

『それで、エクスは何か妙な事をやってなかったか?』

「何を話してるかは分かりませんでしたが、何かを渡しているようでしたよ。」

『そうか。 なら拉致した後で身体検査をする。 ポケットの中身や口の中とかを調べるからこっちに連れて来い。』

 

「分かりました。 では3・2・1でやつにかかります。 通話を切って下さい。」

『分かった。健闘を祈るぞ。』

 

 

 

***

 

 

「テツロウ。 時間だ。エクス様がお呼びだ。すぐに支度をして来てくれ。」

 

ミゲルが時間になって哲郎を呼ぶために扉をノックした。

 

「……………………?」

 

しかし、いくら待っても返事が無い。それどころか支度をする物音一つして来ない。

 

「!!!」

 

不意に嫌な予感を感じ、ミゲルは扉の鍵を開けて部屋に押し入った。

 

「!!! こ、これは━━━━━━━━━!!!」

 

そこには誰一人いなかった。しかも部屋はとても静かで争った形跡もない。

そして、窓や扉にはしっかりと施錠し、許可なく出たりする事は禁じていた。 哲郎がそれを破ったともミゲルには思えなかった。

 

田中哲郎はこの時、完全にこの誰も立ち入ることの出来ない筈のこの部屋から完全に姿を消してしまったのだ。


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