【テツロウが部屋から消えた】
その報告を受け、エクスは一目散に哲郎の待機部屋に足を運んだ。
「それは間違いないのか ミゲル!?」
「ええ。 窓にも扉にもちゃんと鍵が掛かっておりましたし、廊下を見張っていた者も テツロウは一歩も部屋から出ていないと証言しておりました。」
「しかしあいつの技はかなりの完成度で磨かれていたんだぞ! 不意打ちであってもそんじょそこらのやつに不覚を取るなんて到底思えん!!」
「エスク様、これを!」
「何だ!?」
ミゲルが指さした所には、透明に近い白色の粉のようなものが少しだけ付着していた。
「こ、これは【魔素】か!!?」
「………となると敵は床に魔法を仕込んで彼を拐ったという事になりますね。」
魔素
それは、魔力を構成する物質である。
魔法を使った後の発射部や当たった箇所には必ずそれが付着する。
付着した魔素は少なくとも24時間は持続する。そして、いかなる方法でもそれを取り除くことは出来ない。
「エスク様、それからもうひとつご報告が。
テツロウに渡したあの魔法具がどこにも見当たりません!」
「何?! もしかせずとも身体に持った後で拐われたのか?!
よし! ならばその魔法具に通信を繋げ! それでテツロウか敵の居場所は割り出せる筈だ!!
それとミゲル、お前はこの事をトムソンとエルコムに伝え、あいつが屋敷にいる可能性も考慮し、手分けしてこの屋敷の中をくまなく探せ!!
俺はテツロウの魔法具に通信を試みる!」
「かしこまりました! 直ちに!!」
***
哲郎を拉致した男は今、本部に戻ってラドラに報告していた。
「命令は完璧にこなしましたぜ。
テツロウのガキはちゃんと拉致って今ぶち込んであります。」
「そうか。 よくやってくれた。
それからヤツは何かを受け取っていたんだろ? それはどうなった?」
「それなんすけどね、身体のどこを調べても何も出て来ないんですよ。」
男の気の抜けた発言にラドラの眉間のしわが少しだけよった。
「……間違いなく隅々まで調べたんだろうな?」
「もちろんすよ。 ポケットの中から口の中までちゃーんとね。 まぁおそらく それを仕舞う前に俺が襲ったってだけでしょうよ。」
「……身体のどこかに隠し持っているということは無いのか?」
「そんなバカな。カンガルーみたいに腹に袋がある訳じゃあるまいし。 あのガキも所詮は人間ですぜ。魔法が使えるならいざ知らず、そんな芸当出来る筈が無いでしょう。」
終始 納得いかない様子ではあったが、ラドラは話を変えた。
「まあいいだろう。 それより、拉致に成功したならすぐに始めるぞ。」
「もう始めちゃうんですかい?
じゃあ今まで後回しにしてたガキ共も一緒にやっちゃうって事で良いすかね?」
「そうだ。 すぐに準備を開始しろ。
その際に、
***
哲郎は目を覚ました。
そしてすぐにここが広さも分からないほどの暗闇で、両手の自由が奪われていることに気付く。 手首に走る独特の冷感から、鎖のようなもので縛られていることを理解する。
そしてその後考えたのは、自分を襲った人物についての事。
一瞬だった。
哲郎がエクスから貰った水晶型の魔法具をしまおうと
そこからは本当にあっという間の事だった。
口に おそらく睡眠のための薬か あるいは魔法か とにかく自分を眠らせるものを口に当てられ、一瞬 意識を奪われた。 技を使って抵抗する暇さえ与えられなかった。
その催眠こそ【適応】の能力ですぐに克服したが、その時には既に両手を縛られて、視界も目隠しで塞がれた。
そこからの移動も素早かった。
時間にして1秒かかるかかからないか程度の間、全身に
(………まんまとしてやられた………………。
きっとあのバウラールさん達の仲間の人も こうやって連れてこられたんだ……………。)
そして哲郎は次に身体の隅々を調べられたことを思い出していた。
目隠し故にそこがどこかは覚えていないが、大勢の声がする中、服に付いている全てのポケットの中身、そして口や耳の中まで覗かれ、しばらくだった後に再び連れられて今に至る。
今は目隠しをされておらず、視界は確保出来ている。 つまりここは《視界があっても大丈夫な空間》だということなのだ。
(…………音は聞こえない……………。
ここには見張りとかは居なさそうだな。
拉致されたのは予想外だったけど ここまでは良い。)
自分がやるべき事は既に分かっている。
心の中でそう呟くと哲郎はうつ伏せの体勢を取った。そしてこの事を敵に見つからないでくれと願う。
(……ヤツらはまだ
まずは、これを