異世界に適応する少年   作:Yuukiaway

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#80 Guilt & Responsibility

笑い声なのか顎の木が擦れる音なのか、ケタケタと不気味で甲高い音が暗い通路に響く。

 

(い、一体何だ こいつは……………!!!

 

人間なのか異種族なのか魔物なのか

分類できない…………!!!!)

 

哲郎の意識は目の前の怪物の正体とその分類のみに集中していた。

 

「嫌ァッ!!!! 逃げて!!! 逃げてェ!!!!」

「!!!」

 

さっきまで話していた少女の声でハッと 意識のずれを修正した。

 

その直後、その怪物は哲郎の足を離し 全身のバネを使って哲郎の上半身に飛びかかった。

その窮地は哲郎から恐怖を払拭させ、【目の前のこいつを倒さねばならない】という闘争心を引き出した。

 

 

ゴッ!!!!! 「!!!!!」

 

哲郎は顔面に迫ってきた方の怪物の顎に相手のスピードを最大限利用してアッパーカットを叩き込んだ。 怪物は大きく仰け反り、隙ができる。

 

「くっ!!」

 

ズゴォッ!!!!! 「!!!!!」

 

すかさず身体を翻し、今度は仰け反った体勢の顎を全身のバネを使って蹴り飛ばした。

怪物は吹き飛ばされ、その姿は遠い闇に消えて行く。

 

 

「………フー! 危なかった!

だけど何だったんだ あの怪物は………!!」

「あ あの…………!!」

 

哲郎が視線を送ると、その少女は依然として座り込んだまま呆然としていた。

 

「もう大丈夫です。 さっき言っていたあいつ(・・・)とは あの怪物の事だったんですね?!」

「……う、うん。 それよりあなた、脚 大丈夫なの………?」

「脚? アッ!」

 

哲郎はその少女の左足首が腫れているのに気がついた。

 

「え、ええ。

折れていたのかもしれません(・・・・・・・・)が、大丈夫です。

それより教えてください。 一体ここで何が起きているんですか?」

 

哲郎は議題を変えた。 今 重要なのは自分の足首よりも今の状況だからだ。

 

 

***

 

 

「………わかった。 私の名前は【ミリア・サイアス】 あなたは?」

「ミリアさんですね? 僕は〖マキム・ナーダ〗と言います。」

(僕の顔を知らないって事は、この人はあの公式戦より前からここに居るのか?)

 

哲郎は混乱を避けるため、偽名を名乗った。

 

(考えたくはないが、このミリアさんがラドラ達の手先という可能性も考えられなくはない。 とにかく 孤立している今は慎重に事を運ぶんだ。)

「まず教えて欲しいのですが、ミリアさんはいつからここに居るんですか?」

「いつからかは分からないけど、連れ去られたのは3日前だよ。」

 

(!? 3日前だって?!

あの公式戦があったのは一瞬間前なのに、どうして僕の顔を知らないんだ!?)

「……分かりました。 では どこで連れ去られたか覚えていますか?」

「…その日は職員室に行こうとして、道に迷ってしまったの。 そしてそのまま行き止まりに入ってしまって。」

(行き止まり? あのグスがラドラ達のアジトに入った場所の事か?)

 

「連れ去られたのはそこなんですね? ではあなたを襲った人の顔を見ませんでしたか?」

「顔は見なかった。 後ろから口を押えられて、眠ってしまったの。」

(彼女の言ってる事が本当なら、僕と同一の犯行か。 よし、ここで探りを入れる!!)

 

哲郎にはミリアがなぜ公式戦の事を知らないのか確かめる必要があった。

 

「それから参考までにお聞きしたいのですが、1週間前はどこで何をしていましたか?」

「? 1週間前?」

「はい。 差し支え無ければで良いのですが。」

(もしこれで回答を渋るなら、少なくとも距離をおかないとまずいことになる。)

 

「…その時は風邪をこじらせて家で休んでいたの。」

「なるほど。 分かりました。

では次に、あなたの言う【あいつ】が何なのか 教えて頂けますか?」

 

哲郎は話を変え、このミリアが本当に信頼出来る人なのかの手掛かりを探る事にした。

もしそれが出来ないなら、この場にいる全員を疑わなければならないかもしれない という覚悟も心の中で決めていた。

 

 

 

「………あいつは、時々やって来て 私達を順番に殺していくの。ここには男の人もいたんだけど、みんな足を折られたり縛られたりして身体の自由を奪われて、何の抵抗も出来ずに襲われていくの。」

(……仮にこの人がラドラの手先で 治癒魔法の類を持っていたなら、予めわざと足を負傷させて、僕が油断した時に足を治して襲うという事も考えられる。

油断しちゃダメなんだ。 ところで……)

 

哲郎は再び周囲を見渡し、ミリアの方を向いた。

 

(……ここに男の人は見当たらない。ということは、男性を優先的に襲っているのか?)

「殺されるとは、どういう風に?」

「分からない。 襲われる時は皆 首に薬みたいなものを入れられて眠らされてから連れ去られるから。」

「では、実際に殺される所を見た訳では無いのですね?」

「……そう だけど殺されたに決まってるよ!!

いずれ私も皆みたいに…………!!!」

 

「もう諦めてしまったのですか?

助かろうとは思わないのですか?」

 

「………!!! 思ってるよ!!!!

でもどうしようもないの!!!!」

「!!!」

 

ミリアは目に涙を浮かべながら哲郎に迫ってきた。

 

「あ! ご、ごめんなさい。

あなたは悪くないのにきつく………!!」

「いえ。 僕も口を慎むべきでした。」

(今の顔、今の涙 嘘は全く感じなかった。

僕は、あの純粋な涙を疑おうとしているのか!!? だ、だけど…………!!!!)

 

哲郎は心の中で頭を抱えた。

ミリアのことを疑ってはならないという罪悪感と、エクスから信頼されているという責任感が揺らいでいた。

 

(もし、ミリアさんでなくとも 誰かから襲撃されたら、それは僕だけの問題じゃない!!

僕を信頼してくれているエクスさんにとても大きな迷惑がかかる事になるんだ!!

 

何か、何かないのか!!?

このミリアさんの言ってる事が本当だと確認する方法は!!!)


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