異世界に適応する少年   作:Yuukiaway

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#82 Jellyfish Suplex

哲朗は目の前の光景に肝を抜かれていた。

さっき撃退したはずの怪物が再び立ち上がっている。

 

「ば、馬鹿な…………!!!

僕は確かに……………!!!!」

『おい! 応答しろと言ってるだろうが!!!

そっちで何が起こってる!!?』

(……さっき僕はあいつの顎を殴って、それからさらに蹴飛ばしたんだぞ………!!!

あの攻撃でどれ程脳が揺れたか……………!!!!)

 

顎を攻撃する事は即ち脳を揺らし攻撃する事である。 それは哲朗が信じて疑わない事の1つであり、彼の戦闘での拠り所にもなっていた事だ。

しかし目の前で起きている光景はそれを根本から否定している。

 

 

哲朗が呆気に取られていると、怪物の目は哲朗に向いた。 するとさっきまで襲っていた少女には目もくれず哲朗の方へ向かって来る。

 

(攻撃目標を唐突に僕の方に変えた!!

もしかしてこいつは男性を優先的に襲うように命令されてるのか!!?)

 

怪物は哲朗に向かって腕を伸ばす。

動揺しているものの怪物の直線的な動きは哲朗に対処出来ないものでは無かった。

怪物の手首を掴み、身体を翻して背中を全力で折り曲げる。

 

「おりゃァっ!!!!」

「!!!?」

 

怪物は自身のスピードに乗って哲朗の背中を発射台にして通路の闇へと飛んでいく。

 

「……!! よし!!

今のうちに………!!」

 

哲朗は隙をついて通路を進み、怪物に襲われていた少女の元へ駆け寄った。

 

「大丈夫ですか!!?」

「う、うん…………!!!

あ、ありがとう………………!!!!」

 

少女の顔は涙でいっぱいになっていた。

彼女もまたこの通路でたくさんの人が怪物に襲われ、自分もそうなる確信があったのだ。

 

「みなさんも僕より後ろに下がってください!! 僕はエクス寮長の部下で、あなた達を助け出す責務を負っています!!

やつはすぐにまた必ず来るでしょう!! やつの狙いは僕です!! やつを僕より後ろへは下がらせません 約束します!!!」

 

先程のエクスの演説で哲朗の信用は確固たるものになっていた。

足を折られたり拘束されているにも関わらず、少女達は必死に哲朗より後ろへと下がっていく。

 

「エクス寮長は必ずあなた達を助け出してくれます!! だからあなた達も諦めないで下さい!!!」

「……………!!!!」

 

(………とは言ってみたものの、それには問題が山積みだ。 どうやったらあの怪物を止められるか分からないし、何より出口のようなものが全く見当たらない。

僕は、こことは違う場所で身体を調べられてここに連れてこられた。 それならどこかにその出入口がある筈なのに………!!!)

 

哲朗はそこまでで考えるのを止め、怪物に対して構えをとった。両腕をだらりと下げて重心を下に取る脱力の構え

 

海月(くらげ)の構え】である。

 

(考えるのは後だ!!!

とにかくこいつを何とかしなくちゃ どうにもならない!!!)

 

怪物は獣のような四肢を地面について屈む体制から全身の力を使って哲朗に飛びかかった。

怪物の顔が哲朗の顔面に接触する直前に怪物の勢いに任せて哲朗は身体を反らせて飛びかかる怪物と並行の体勢を取った。

 

怪物の腰に手を回して手首を掴んで固定し、身体を回転させて怪物の速度を下方向の力に変える。

 

《ジェリーフィッシュ・スープレックス》!!!!!

「!!!!!」

 

怪物は顔面から地面に激突した。

 

ジェリーフィッシュ・スープレックス とは、公式戦で使った《ジェリーフィッシュ・アームブリーカー》 同様 魚人武術の技ではなく哲朗の我流の技である。

 

(こいつを僕より後ろにやる訳にはいかない!! だったら!!!)

 

哲朗は身体を回転させて怪物の首に足をかけた。そして背中の筋肉を稼働させて再び怪物を頭から地面へ落とす。

 

通路にはけたたましい衝撃音が響き渡った。

 

(…………どうだ!? 今度は脳に直接の二連撃だ!!! これでも効かないか!!?)

 

哲朗は油断することなく倒れた怪物に構えを取り直した。

 

(……だけど分からない。

なんでこいつらは1人が背中にしがみついてるんだ………??)

 

「!!!」

 

怪物は難なく立ち上がった。

 

(………何なんだこいつ!!

脳が揺れてない いや、脳が存在して無いのか…………!!?)

 

揺れる脳が最初から存在しないとでも考えなければ説明がつかない程の事を目の前の怪物はやってのけていた。

 

「………………!!!??」

 

しかし、哲朗の疑心はすぐに吹き飛ばされた。 立ち上がった怪物は脳が揺れるか否かなどどうでもいい程に異常な状態にあったからだ。

 

「ば、馬鹿な!!!! こ、こいつは…………!!!!!」

 

怪物は1人がもう1人にしがみついている(・・・・・・・・)訳ではなかった。

怪物の下半身は一人分しか(・・・・・)なかった。

 

 

その怪物は一人の腰にもう1人の上半身がくっついていたのだ(・・・・・・・・)


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