異世界に適応する少年   作:Yuukiaway

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#84 The gambler

この通路には哲郎と怪物以外 誰もいない。

足を負傷して思うように動けなかったが、哲郎の演説とエクスの信頼によって拉致監禁されていた少女達はこの場を離れ、怪物の手が迫る危険性は無い。

 

これで自分がこの怪物をせき止め続ければ少女達を守りながらエクス達がここを突き止めて助けに来るまでの時間を稼ぐ事が出来る

 

しかし、言うは易く行うは難しとはよく言ったものである。 哲郎にはこの怪物への有効策が思いつかなかった。

 

(……単純な動きが出来る反面、こいつはそこまでの知能は無い。 僕だけを狙い続けるはずだ。

ミリアさん達を守るにしても、どこまでやれるか…………!!)

 

「…………………うしろ。」

「!?」

 

不意に斜め後ろ側から声がしてその方向に視線を送った。 怪物に不意をつかれないように横目でその方向を見る。

 

「……俺を、解放しろ…………!!

()エクス寮長の仲間なんだろ……!?

俺はあの人の部下だ………!!」

「………!!?」

 

そこには両腕を鎖で縛られた屈強な男が地面に突っ伏していた。

 

哲郎の頭には一瞬で『なぜ他に男がいるのか』 『本当に彼はエクスさんの部下なのか』 『なぜ襲われずにここにいるのか』などという疑問が浮かんだ。

 

「……あなた、どうして襲われていないんです………!!?」

 

哲郎が最初にした質問は【本当にこの男がエクスの部下なのか】と【なぜ襲われずにいるのか】という疑問への問い掛けだった。

 

「……あいつは、君の推理通り 男を優先的に襲い続け、俺が最後の一人だった。

君がここにいなければ今襲われていたのは俺だった…………!!」

 

(そんな偶然があるのか!?

あまりに都合が良すぎる……!!)

(あの時あの怪物は僕の足を掴んだ。

それから僕から離れた少女を襲った。

、と いう事は…………!!!)

 

哲郎は彼の言う事を否定する要素と肯定する要素を一瞬で頭の中に用意した。

 

(だ、だけど簡単に信用していいのか……!!?)

「あなた、名前は?」

 

「ガリウム・マイケルだ。」

 

判断の遅さは更なる災いを招く

その事を知っていた哲郎はすぐに決断を下した。

 

(エクスさん、 僕は賭け(・・)をします。

もし僕がこの賭けに負けたら、その時はお願いします!!!!)

 

哲郎はガリウムと名乗る男のそばに駆け寄った。そしてその鎖に水晶を添える。

 

「ガリウムさん でしたね。

あなたには僕が見えますか(・・・・・)?」

「ああ。 この眼に魔法を掛けてるからな。 テツロウ君。君の顔ははっきりと見えるよ。」

 

哲郎は水晶から衝撃波を流し、ガリウムの鎖を断ち切った。

 

「さっき見てはいたが、エクス寮長はこんなに画期的な魔法具を生み出していたのだな………。」

「ええ。 僕もここまでこれが機能するとは思ってませんでした

 

!!!」

 

 

哲郎がガリウムを解放した直後、怪物が2人に向かって一直線に突っ込んで来た。

 

「………任せろ。」

「?!」

 

ガリウムはそう言った直後、振り向きざまに怪物の顔面に拳を叩き込んだ。 カウンターの直撃をもらった怪物は吹き飛び、闇の中へ吸い込まれる。

哲郎はその様子に呆気に取られた。

 

「………………!!!」

「これが俺の戦い方だ。

身体強化の魔法を扱う。 さっきも眼にそれを使ってこの暗闇の中で君の顔を見たんだ。」

 

(エクスさん、どうやら僕は賭けに勝ったみたいです。 ここを突き止めて助けに来るまで、持ちこたえて見せます!!!)

 

哲郎は心の中で歓声を上げた。

 

 

 

***

 

 

「エクス様、再びテツロウから通信が!」

「今は手が離せない!

ミゲル、お前が通信を取ってくれ!」

「はいっ!」

 

ミゲルが光る水晶に触れた。

 

「こちらミゲル

テツロウか? 何か問題でも起きたか!?」

『その声はミゲルか!?

俺だ、ガリウムだ!!!』

「何、 ガリウム!?

お前、ガリウムか!!?」

「ガリウム!? ガリウムだと!!?

おいミゲル、通信を代われ!」

 

エクスは半ば強引にミゲルから水晶を取った。

 

「通話を変わった エクスだ。

お前、ガリウムか!!?」

『その声はエクス寮長!!

ガリウム・マイケル 敵に不覚を取ってしまい 申し訳ございません!!!』

「それは後だ。 今どこにいる?

テツロウと一緒にいるんだな!?」

『はい! 彼が私を助けてくれたのです。

私もこれより戦線に復帰します!そしてこの失態を少しでも挽回したいと思います!!!』

「頼むぞ。 俺たちは今お前達がいる場所を逆探知しているところだ。 だからそれまで持ちこたえろ。 必ず救出に向かう!!!」

『かしこまりました!!!』

 

 

通信はそれで切れた。

 

 

***

 

 

「……話は終わりましたか?」

「ああ。 それからテツロウ 俺を信じて解放してくれた事、心から感謝する!!」

 

「どういたしまして と言いたい所ですがそんな余裕は無いでしょう。

ヤツはたとえ脳を攻撃してもビクともしない。すぐにまた来るでしょう。

それまでは持ちこたえますよ!!!」


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