異世界に適応する少年   作:Yuukiaway

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#85 Unreliable bridge leading to hope

ついさっき この不死身とも思い込んだこの怪物もダメージを与え続ければ魔法が解けて元に戻るという極めて有力な情報を得たばかりでも哲郎の頭からは不安は拭えなかった。

 

たとえ対抗策が見つかっても自分の後ろにいる大勢の少女達を守りながら戦えるかと聞かれれば即答できないのが現実だった。

 

自分は今 例えるなら希望に繋がった脆く弱々しい橋の上に立っているような気分に晒されていた。

 

それでも自分を奮い立たせ、後ろに立っているガリウムに指示を出す。

 

「………ガリウムさん、僕の方を立っているなら後ろを、僕の背後を見張って下さい。」

「………!!?」

「後ろからまだ追っ手が来るかもしれないでしょう!!? 早く!!!!」

「!!! わ、分かった!!!」

 

たとえ厳しい言い方をしてでも哲郎にはミリア達を守って無事にエクスの元へ帰るという責任があった。

 

己の背中を出会って幾許もない男に任せ、哲郎は構えを取った。 ガリウムも構えてくれていると信じて全幅の信頼を寄せる。

 

 

「……………やれやれ。」

「!!!?」

 

目の前の怪物より遠くの闇から男の声が静かに聞こえた。 哲郎はその声に聞き覚えがあった。

 

「………全く、こいつの帰りがやけに遅いと思えば、まさかあの拘束を逃れるばかりかガリウム・マイケルを解放して貴重な戦力を一つも潰されるとは……………。

この【七本之牙(セブンズマギア)】始まって以来の大失態ですよ。」

「……………………………………!!!!!」

 

暗闇から歩いてきたのはあの赤褐色のマントを羽織った男だった。 あの時 尋問にかけたハンマーを哲郎とエクスを出し抜いて一瞬で奪還してみせたあの男だ。

 

 

「……今 黙って投降してくれるのならば手荒な真似はしないと約束しましょう。

しかし、抵抗するのならば どんな手を使ってでもあなたを引き込みますよ?」

「……………!!!!」

 

男の背後からも怪物が十数体ぞろぞろと出てきた。

 

 

「………………ガリウムさん、 彼女を連れて逃げて下さい。」

「!?」

 

「早く逃げろと言ってるんですよ!!!!!」

「!!!! 分かった!!!」

 

その言葉を引き金としてガリウムやミリア達 少女は蜘蛛の子を散らすように後ろへと逃げていく。 最早脚を負傷するなどと言っている場合では無かった。

 

「…………愚かな。」

「!!!」

 

「その程度の策でこのレイザー・ディパーチャーの脚から逃げられるなどと思わないで頂きたい!!!!!」

「!!!!」

 

レイザーと名乗った男の身体はとてつもない速度でガリウム達を襲った。 哲郎の身体は【あの時の動きと同じ】などと反応する暇もなくマントの男を迎撃する。

 

哲郎の脚がレイザーを塞き止め、少女達の眼前でけたたましい音が響く。

 

「ッ!!!」

 

哲郎の脚に鈍痛が走った。

見てみると脚はレイザーではなく棒状のものを捉えている。

先にレイザーの方が引き、哲郎との距離を取った。

 

「………私の()は鋼鉄でできている。

その直撃を受けて立っていられるとは。

それとも『折れているけど大丈夫な状態になっている』のでしょうか?」

「!!!」

 

「何より、ここに放り込む時に既に拘束して脚の自由も奪っているのに、どうやって脱出したのでしょうね?」

「…………………!!!」

 

哲郎は動揺を隠しきる事が出来なかった。身体が勝手に防御反応を示し、後退りをしてしまう。

 

「マキム・ナーダさん。

あなたはあの公式戦でエクス・レインの名目で出場している。 そこから考えるならば、あなたはエクスの一員として私達に探りを入れているのでしょう?」

「……………!!!」

 

「ならば、あなたを拉致した事もエクスに知られ、あなたを助け出すために彼らもここに援軍を送るでしょう!!!

 

その援軍も頂きましょう!!!!」

 

レイザーは鞘から剣を抜き、その先端を哲郎の方に向けた。

 

「……ガリウムさん、聞こえているなら僕の そしてエクス寮長の命令(・・)を聞いて下さい。 彼女たちは任せます。

この男は、ぼくが相手をします!!!!」

 

もうそばに居ないであろうガリウムにミリア達を任せ、哲郎は構えを取った。

 

「逃がす訳にはいきません!!!

やりなさい!!!!」

 

レイザーの指示によって人形の怪物の一体が襲いかかった。 しかし、それを哲郎が食い止める。

 

怪物の顎を打って体勢を崩し、そのがら空きになった腹に対し魚人波掌の構えを取り、

 

《魚人波掌 波時雨(なみしぐれ)》!!!!!

 

怪物の腹を5発の衝撃が一気に襲った。

怪物は吹き飛ばされ地面に倒れ伏し、その姿が2人の人間に戻る。

 

「………既に気づいていたのですか。 ラドラ様の魔法の正体に。 ならばもういくら差し向けても無駄ですね。 いたずらに手駒(・・)を失うだけだ。

やはり私の手で直々に倒す他無いでしょう!!!!」

 

レイザーは剣を構えた。


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