異世界に適応する少年   作:Yuukiaway

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#86 The mach edge

「……あなた一人でこの私を足止めしようというのですか? それは愚かな選択だ。」

「………………!!!」

「アイズンやハンマーを倒した程度でいきがっているようではこのレイザー・ディパーチャーには到底 勝ち得る事は無いと言ってるんですよ!!!」

 

哲郎は恐怖を隠しきることが出来なかった。

先程 速度に圧倒されて捕虜を奪い返されたからだけでなく、レイザーの発する一言一言に本能に訴えかける迫力があった。

 

「それでも、我々からハンマーという貴重な戦力を奪ったその力に敬意を表して この私の手で直々に捉えてあげましょう!!!」

 

レイザーは剣を構えていた腕を少し下げた。

次の瞬間にはその剣の鋒は哲郎の眼前に迫る。

 

「ッッ!!!!」

 

その突きを哲郎は咄嗟に身体を仰け反らせて躱した。

それだけで満足することは無く、その手首を掴まんと手を伸ばす。

 

しかし、哲郎が手首を掴む前にレイザーの腕は元の位置に戻った。 間髪入れずに飛んでくる追撃を身を翻して回避する。

 

(…………!!!

もう 一回見てるから避けられないことは無い!! けど、攻撃しても戻りが速すぎる!!!

あれをどうやって捕まえる!!?)

 

哲郎の思考を見透かしたかのようにレイザーは口を開く。

 

「……思考を巡らせるのは無駄というものですよ。 もう理解しているでしょうが私は《加速魔法》を扱う。

魔法も使えない弱小人間の小細工程度にどうこうできる代物では無いのですよ!!!」

「………その弱小人間の小細工に、あなたの部下やお仲間は負けたのではないのですか?」

 

「その身の程知らずの暴挙をわたしが止めると言ってるんですよ。」

 

レイザーはあくまで冷静だ。

わざと怒らせて冷静さを奪う事も、策を考える暇も与えて貰えない。

 

(………確かあの人が言ってたな。

いざという時は《肉を切らせて骨を断つ》戦法が道を開くって。)

 

それを思い出して 次に考えたのはかつての魔界コロシアムの準決勝での サラとの試合だった。

あの時は【適応】に全てを任せて強引にサラとの距離を詰めて辛くも勝利をもぎ取った。

 

(あれと同じ策が試合だけじゃなくて実戦でも通用するなら、賭ける価値はある!!!)

 

哲郎が策を講じている間にもレイザーは剣を向けている。

 

「残念ですが、すぐに終わらせて貰いますよ。 あなたの後にはあの女達を捉えねばなりません。

彼女共の口から我々の作戦が漏れるのは、絶対に避けねばならない事態です。」

「……………!!!」

 

レイザーの剣の突きはとてつもない速度で哲郎を襲った。 哲郎は腕をかざして腕に剣を突き刺せ、強引にせき止める。

 

「ッッ!!!!」

「!!?」

 

哲郎は腕に走った激痛に一瞬 顔を歪め、レイザーも相手のとった予想外の行動に一瞬 面食らった。

 

しかし、哲郎にとって【覚悟した激痛】は既に経験済みのものであり、それを意に返す暇もなく、腕を振るった。

 

「ッ!!?」

(このまま 僕の腕をてこにしてこの剣をへし折ってやる!!!!)

 

レイザーの持つ剣がギチギチと悲鳴をあげてへし曲がる。 しかし 哲郎の考えを察したレイザーは限界まで体制を崩して剣と身体を垂直にする。

 

「!!?」

 

そのままレイザーの身体は哲郎の動きに合わせて地面を滑り、そのまま剣は哲郎の腕から抜け、着地を取った。

 

(……………!!!!?

な、なんだ今のは!!!?

身体を強引に捻って剣を折らないように僕の動きを流した……………!!!!?)

 

自らの身体を犠牲にせんとした策をいとも簡単に封じ込まれ、動揺を露わにする哲郎にレイザーは口を開く。

 

「残念でしたね。 全く冷や汗をかかされました。 この剣を奪われることもまた避けなければならない事態でしたからね。

ですがこれで状況は大きく《好転》しました。」

「??!」

 

「気づかないのですか?

今、 彼女共はとても危険な状況下にあるのですよ?」

「!!!!!」

 

哲郎ははっとして 地面を蹴った。

しかし時は既に遅く、レイザーは身を翻して逆方向、すなわちガリウムやミリア達が逃げた方向へ走る。

 

(しまった!!! 迂闊だった!! 勝ちを急ぎすぎた!!!!

どうする!!? 何か、何かないか!!?

《飛び道具》さえあれば!!!

 

!!)

 

哲郎の頭に浮かんだのはハンマーとの戦いの光景だった。

 

(これをやるしかない!!!!

頼む、決まってくれ!!!!)

 

 

哲郎はそう心に念じると 【カジキの構え】を取った。

 

《魚人波掌 海鼓(うみつづみ)》!!!!!

 

バチィン!!!!!

 

という音が通路内にこだました。

 

哲郎は全力で殴ったのだ。

【空気中の水分】を。


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