異世界に適応する少年   作:Yuukiaway

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#87 Ripple

体の位置を入れ替えたレイザーは哲郎と戦うより先に逃げ出したガリウム達を追跡する事を優先した。

 

それに気づいた哲郎は咄嗟に構えを取る。

 

(ガリウムさん達を追わせる訳にはいかない!!! 当たってくれ!!!!)

《魚人波掌 海鼓(うみつづみ)》!!!!!

 

哲郎は全身を振るって【空気中の水分】を打った。 その衝撃は哲郎とレイザーの間にある空気を巻き込んで巨大化し、レイザーに襲いかかる。

 

バシッ!!! 「!!?」

 

空気中の微量な水分ではたとえ巨大化しても決定打には程遠い。 それでもレイザーの動きを一瞬止める事に成功した。

 

「!!!?」

 

哲郎が何をしたのかを確認するために振り返ると、既に目と鼻の先にまで接近していた。

 

(ば、馬鹿な!!! いつの間にこの距離を!!!)

(マーシャルアーツを見下したあなたには分からないでしょう!!

これが魚人武術の『膝抜き』 《(さざなみ)》です!!!!)

 

 

膝抜き

それは、身体の力を抜くことで予備動作を消し去り、相手に攻撃を気づかれないようにする格闘技術である。

 

魚人武術によって行われるそれは、膝だけでなく全身の力を抜き、自然落下のエネルギーを前方への推進力に変換し、短距離を一瞬で移動することが出来る。

 

 

距離を詰める事 一点なら、加速魔法の使い手であるレイザーにも負けていなかった。

 

手の形は魚人波掌を打つ 片方の手の甲が触れている形になっている。

 

《魚人波掌 杭波噴(くいはぶき)・突》!!!!!

 

バチィン!!!!!

「!!!!!」

 

片方の手のスナップで加速が乗った魚人波掌がレイザーの腹に直撃した。 回避する暇もなくまともに貰い、レイザーは仮面越しでも分かるくらい鈍い呻き声をあげ、顔をしかませる。

 

(動きが止まった!!

次に隙をあげたらもう捕まえられない!!!

このまま畳み掛ける!!!!)

 

哲郎は追撃を打ち込むために構えをとった。

再び 膝抜き《(さざなみ)》を使い、レイザーに詰め寄った。

 

《魚人波掌 波時雨(なみしぐれ)(うず)》!!!!!

身体を回転させながらレイザーの全身に何発もの魚人波掌を打ち込む。 その全てを直撃させた。

 

(…………… どうだ…………??)

 

ブシャアッ!!!!!

「!!!」

 

哲郎がレイザーの様子を見ようとした次の瞬間、全身から血を吹き出した。

 

「……………フフ。」

「!!!」

 

「………ここまでとは…………。

テツロウ・タナカさん。 なぜハンマーが、魚人武術(マーシャルアーツ)の使い手が我々と同等の立場に立っているか分かりますか…………?」

「??」

 

レイザーは仮面の口から血を流し、哲郎に口を開く。

 

「マーシャルアーツを弱小とみなすラドラ様が、彼を例外的に強いと認めたからですよ。

だから我々は研ぎ澄まされた魚人武術の恐ろしさをよく知っている。

 

まさか あなた如きが(さざなみ)を使うとは思いませんでしたよ。」

(!!? さ、(さざなみ)を知っている……!!?)

 

「今の攻撃で息の根を止める事が出来なかった あなたの負けです。 しかしあなたの強さに敬意を表してガリウム達を追うのはあなたを仕留めてからにしましょう。

こいつらにも大人しくしていて貰います。」

「…………………!!!」

 

哲郎の頭の中に2つの思考がよぎった。

1つは、ガリウムやミリア達の身の安全をこれで確保出来たという些細な喜び

そして2つ目は これで自分の退路が完全に断たれてしまったという緊張だった。

 

「心配しなくても命を取る気はありません。

あなたはラドラ様の貴重な戦力として使っていただく必要がありますからね。」

「……………………!!!

僕はエクスさんの元へ無事に帰らなければならない【責任】があるんです。

あんな醜い人形になる訳にはいかないんですよ!!!」

 

「………ほう。

既にラドラ様の魔法の正体に気づいていましたか。 ならば、尚更 帰す訳にはいきませんね。」

 

まともに受けた攻撃のダメージも回復し、レイザーは呼吸を整えるとおもむろに剣を構えた。

 

「………あなたが1番分かっているでしょうが、もうあなたに先程のようなチャンスはありません。 一応聞いておきますが、素直に降伏する気はありますか?」

 

哲郎の人生において最大の愚問だった。

言葉に動じないように構えを取って無言を貫く。

 

「………ならば 思い知るといいです。

私の力の真髄を。」

 

その直後、レイザーの周囲に薄い赤色の領域のようなものが展開された。

 

「一瞬で終わらせて差し上げましょう。」

 

展開されたそれは、レイザーの魔法が周囲に影響して起こるものだった。 その言葉の直後に哲郎に向かって四方八方から剣の刃が襲いかかった。


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