ガリウムは通路内で襲ってくる人形の怪物達を迎え撃っていた。
(………ラドラのヤツめ 一体何人の人間を攫って人形に変えたというんだ!!
いくら倒してもきりが無い それに彼女達の強化魔法だって限りがある!! テツロウ君の足止めもいつまで持つか……………!!!)
ドドォン!!!!!
「!!!!?」
その時、通路の奥からあまりにも巨大な音が響いた。
(何だ!? 水音!!?)
その
(そうか。 この地下通路は地下水路に直結しているのか!! これは貴重な情報だぞ!!!)
今のガリウムにとってはここが水路直結であると言う事も大切な情報だった。
武器になり得る情報を得て、ガリウムは更に己を奮い立たせる。
(テツロウ君、君が俺に信じて賭けてくれたように、俺も君を信じて全てを賭けよう!!!
彼女達の事は任せろ!!!!)
そうしている間にも、怪物達はガリウムに迫って来た。
***
「ハァッ ハァッ ハァッ ハァッ………………!!!
や、やった 終わった…………………!!!!」
哲郎は水路の陸地で自分の偉業を少しばかりではあるが讃えていた。
既に腕を刺された傷は【適応】しているが、それでも精神的な疲労は隠しきれていなかった。
「ガリウムさんは、ミリアさん達は無事なのか…………!?
早く加勢しに行かなくちゃ……………!!!」
「……………………待ちなさい」
「!!!!!」
哲郎の背後から
振り返るとレイザーが立っており、傍には水でぐっしょりと濡れたマントが脱ぎ捨てられていた。
水をたっぷりと吸った衣類は重く足枷になると考えたのだろう。
「………まだ立ってくるんですか…………!!!!」
「当然です。 ガリウム達の元へ行かせる訳には行きません。 あなたは私がここで止めてみせます!!!!」
「何故ですか!? 何故そこまで彼を慕うんですか!!?
一体何であの男のためにそこまで身体を張って━━━━━━━」
哲郎が質問し終わるより早くレイザーのくぐもった笑い声が微かに響いた。
「『何故ですか』
お答えしても良いでしょう。 あなたにはその権利がある。」
レイザーは被っている仮面に手を掛け、それを外した。
「……………!!!?」
レイザーは素顔を現した。
真っ先に目に飛び込んで来たのは彼の《目》だった。 その目は赤く、奇妙な模様が浮かんでいる。
哲郎はそれに見覚えがあった。
「ま、魔眼…………………!!!?」
「これを知っているのですか。 そうです。これは魔眼です。 私のこれは見た者の発動する魔法を強制的に解除する効果を持つ物です。 あなたには必要ない情報ですがね。」
(サラさんの物とは違うのか。
よく見たら模様も微妙に違っているな……。)
魔眼
それは、忘れもしない魔界コロシアムの準決勝の サラ・ブラースとの試合で哲郎からダウンを奪った数少ない攻撃である。
「
しかも私はこれを仮面なくしては制御出来ない。 だから つまらない教えに捕らわれた故郷の連中からは白い目で見られましたよ。」
「それを助けてくれたのが 彼だったというわけですね?」
「その通りです。
半年前、あの方は私の
この人になら私の全てを賭けられると。」
故郷の人間から白い目で見られる事がどれ程の苦痛かは哲郎には分からなかった。
しかし 敵への同情は身を危険に晒すと言い聞かせて向き直る。
「敵の身の上話なんて興味ありませんよね。
あなたは今の私がどう見えますか?」
「別に変わりませんよ。 それには既に出会っていますからね。
《サラ・ブラース》 この名前に聞き覚えはありますか?」
「サラ………… 天人族科の女ですか。
我々はここを我が物としたあとでそこもいただくつもりですよ。」
「そうですか。 だったら尚更引く訳にはいきませんね!!!!!」
サラは魔界コロシアムで出来た哲郎の大切な友人の1人だ。
彼女と友情を育む事は身の程知らずだと お門違いな罵倒をされた事もある。 それでも哲郎は決して挫けることなく、ただ彼女への感謝を心の中で述べていた。
(サラさん、 あなたの魔眼を経験できた事を感謝します。 彼の魔眼に立ち向かう勇気をくれた事を感謝します。
僕は、あなた達のためにもこの男に勝つ!!!!!)
確信した勝利が崩れ去った精神の負傷は完全に消え、哲郎の中にあるのは純粋な【勇気】だった。